第137話 渚のドジっ子メイド

 逆鱗げきりんという言葉がある――――

 紀元前の法家である韓非子かんぴしによる書が元となっており、龍という生き物は穏やかな時は背中に乗ることも可能だが、喉元にある逆さに生えた一枚の鱗に触れると激怒して殺されてしまうという意味である。


 君主というものも龍と同じで逆鱗があり、君主を説得する時は逆鱗に触れないようにしなければならないのだ。

 この故事を元に、君主や目上の人を怒らせることを『逆鱗に触れる』といわれている。



 春近は、絶対的強者であり学園に君臨するドS女王に対して、パンツを見せろというエッチで失礼な命令をしてしまった。

 春近と渚の関係を知らない人が見たら、女王の逆鱗に触れ春近の命は風前の灯火と思うだろう。

 しかし、渚は春近にベタ惚れで激甘なので、見せてくれる可能性も有るかもしれない。

 今、二人の間に緊張が走る。


「あ、あの……渚様……」


 まずい、変なテンションでパンツを見せろなんて言っちゃったけど、こんな命令したら恐ろしいことになるような……


「うっ……んんっ……」


 渚は、プルプルと震えながらスカートの裾を両手で掴んだまま固まっている。


 こ、これは……怒っているのか? それとも恥ずかしがっているのか?

 どうせ一度発した言葉は取り消せないんだ。

 たとえ後からキッツいお仕置きが待っていたとしても、渚様に反撃できるのは今だけかもしれない。

 もうこうなったら、鬼畜御主人様に成りきって、ドジっ子メイドへのドS攻めをしてやんよー!


 春近は、このまま突っ切る結論を出した。



「おい、ドジっ子メイドの渚! いつまでグズグズしてるんだよ。早くパンツを見せるんだ。ぐへへ~」

 鬼畜御主人様ではなく、変態領主のようになってしまう。


「は、春近……後で覚えときなさいよ……」


 渚の手が少しずつ上がり、スカートの裾が一緒に上って行く。

 白くスベスベで吸いつきそうな瑞々しい太ももが徐々に露わになり、セクシーなガーターストッキングのガーターベルトがアクセントとなって、よりエロティックな印象を強めていた。

 

「す、凄い……本当に見せてくれるのか……ごくり」

 春近は吸い付きそうな至近距離で上がって行くスカートとチラチラと見え始めたパンツをガン見している。


「ちょと、息がかかるじゃない……くすぐったいわ」


 遂にスカートが上がり、レースのパンティが丸見えになってしまう。


「こ、これで良いんでしょ!」

 真っ赤な顔をした渚が、恥ずかしさでプルプルと震えながら言う。


「な、なんてエロいパンツなんだ! エロ過ぎるぜ~」

 完全に渚の色香にやられてしまった春近は、憑りつかれたかのように張り付いて凝視している。


「こら! 近い! 匂いを嗅ぐな!」

 渚は春近の頭を押さえつける。


「嗅いでないですよ」

「嘘! この前も、あたしの脇を舐めてたくせに!」

「そ、それは……てか、メイドさんじゃなくなってますよ。ちゃんとドジっ子メイドして下さい」

「誰がドジっ子よ! もう、春近の変態!」

「変態はお互い様なような……」


 傍から見たら、二人は変態カップルにしか見えない――――


「じゃあ、次の命令です」

「は? 次って何よ!」

「四つん這いになって、お尻をコッチに向けて下さい」

「はあ!? そんな恥ずかしいコトするわけないでしょ!」

「えぇ~このメイドさん、言うこと聞いてくれないですよ~」


 いくらなんでも渚様が、こんな屈辱的な事はしないよな……

 でも、恥ずかしがっている渚様も可愛いな……


「うっ、ううっ、ぐっ……」

「えっ?」


 渚は、春近の方にお尻を向けると、ゆっくりと四つん這いの体勢になって行く。


 えっ! えっ! ええっ! 本当にやってる!

 冗談のつもりだったのに……


 春近の目の前に渚のお尻が高く上がり、春近とお尻がコンニチワ状態となってしまう。

 この体勢になったまま、二人共無言で固まってしまった。


「んんん…………」

 春近のバカ! 変態! あたしにこんな恥ずかしいことさせて……


 渚も、まさかこんなことをしてしまうとは思いもしなかった。

 春近と出会うまでは、男など命令して従わせるだけの存在であり、男から命令されるなどありえないことだったのだ。

 そもそも、誰もが彼女を恐れていて、命令してくる人間などいなかったのだが――――


「あ、あの、渚様……」

 どうしよう……まさかこんなことになるなんて……


 今、渚の尻が春近の眼前にある。

 ミニのメイド服のスカートはめくれパンツは丸見えだ。

 セクシーなガーターストッキングが、更に春近の大脳辺縁系だいのうへんえんけいを刺激し、人間の脳の本能である性欲を極限まで高めていた。


「えっと……ドジっ子メイドの渚には、お尻ペンペンのお仕置きだー」

 春近は、何だかもう興奮しすぎて意味不明な行動に出てしまった。


 ペチペチペチペチペチ

「ああっ、ダメ! やめて!」



 ガチャ!

「おまたせ~はるっちぃ~♡ あっ…………」


 二人で変態プレイをしているところに、メイド服に着替えたあいが戻ってきて全部見られてしまう。

 渚が四つん這いになって尻を春近の顔に向けて、何か変なプレイをしているようにしか見えない。


「……………………」

「ち、ちがうの! あい!」

「渚っち……けっこースゴいコトしてんだねぇ……」

「だから、違うって!」


 若干棒読みであいが呟く。渚は必死に否定するが、ケツを高く上げたままで説得力皆無だ。


「あの、渚様……とりあえず。この体勢を何とかしましょう」

「んんんっっっっ~んあぁああぁん!」


 何かもう色々と限界が渚が壊れた。


 ――――――――




 あいちゃんの黒ギャルメイドが参加して、春近は渚の女王メイドの間に挟まれて御奉仕されている。

 ただ、渚のドジっ子メイドは終了してしまい、いつもの威圧感が復活してしまった。


「春近が悪いのよ、あんな命令するから」

「冗談のつもりだったんです。まさか本当にするとは……」


「むふふ~」

 あいは二人のやりとりをニマニマしながら見ている。

「あの渚っちがねぇ~恋をすると変わるもんだねぇ~」


「何よそれ!」

「渚っちは~愛しのはるっちの命令なら、何でも聞いちゃうってコトでしょ」

「ち、違うから!」


 あいが渚で遊び始めた。


「ねえ、はるっち、このメイド服でのごほーしは、渚っちが言い出したんだよ。大好きなはるっちに喜んで欲しいからって」

「ちょっと、あい! 何で言っちゃうのよ!」


 渚が春近を喜ばせようとメイドになったのをバラされてしまった。


「渚様、文化祭の時にお願いしたのを覚えていてくれたんですね。本当にオレだけのメイドさんをやってくれるなんて嬉しいです」

「た、たまたまよ! ちょっと気が向いて、たまにはあんたにサービスしてあげただけ!」


 完全にツンデレヒロインみたいなリアクションの渚である。


「むふふふぅ~ 渚っちってばぁ、毎日はるっちのコトばっか話してるくせにぃ。はるっちの好きなメイド服で気を惹きたいとか言ってたし」

「だから、何で言っちゃうのよ!」


 渚とあいが、春近を挟んで掴み合いになった。当然、春近は二人のメイドにサンドイッチされてしまう。


 むぎゅぅぅぅぅ~っ!

「これはメイドの天国か! 冥土イン天国やー!」


 可愛いメイドさん二人にサンドイッチされて、春近は天にも昇る気持ちで意味不明な事を言っている。


「渚っちが認めないのなら、はるっちはうちが取っちゃうし! ちゅぅ~♡」

 あいが、抱きついて濃厚なキスをしてくる。


「あいちゃん、ちゅっ、むはっ! ちょ……まって……んんちゅぱっ」

「んちゅっ♡ ちゅっ♡ はるっちぃ♡」


「は・る・ち・か!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――


 渚の威圧感が急上昇して行く。

 結局、春近は女王の逆鱗に触れてしまったようだ。


「あたしが、ここまでサービスしてあげてるのに、まだ他の女の方が良いってわけ!」

「あ、あの、渚様……」



 ぎゅぅぅぅぅぅぅ――

 渚に組み伏せられて這いつくばたった春近は、渚に背中に乗られてしまう。そして彼女の美しいガーターストッキングの足は、春近の頭に乗せられている。


「やっぱりコッチの方がしっくりくるわね」

 ドジっ子メイドからドSメイドになった渚が春近の頭をフミフミしながら言う。


「やっぱ、二人は変態カップルだよねー」

 あいが言うまでもなく、誰か見ても二人は変態カップルだった。


 ――――――――




 春近は、自室に戻り渚とあいから貰ったチョコを冷蔵庫にしまった。

 可愛いメイドさんのご奉仕は途中からドSメイドの鬼畜攻めになってしまい、二人に踏まれたり乗られたりと大変だったが楽しい時間を過ごすことができた。


 春近は冷蔵庫の中の13個のチョコを見て微笑む。


「大事に食べよう。こんなオレに好意を寄せてくれる人がいっぱい居るんだ。彼女達の想いを裏切るような事だけは、絶対にしてはならないよな。オレに何が返せるのだろうか……」


 楽園計画――――

 春近は、彼女たちも自分も皆が幸せになるには、どうすれば良いのか自問自答を繰り返していた。

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