第136話 ニャンニャンアリス

 バレンタインチョコをたくさん貰って大喜びの春近は、寮まで運ぶ為の段ボール箱を探して歩いていた。

 昔の非モテ人生が嘘のように、この学園に入ってから急にモテモテになり、天にも昇る気持ちでスキップ状態だ。

 

 ルンルン気分でスキップしていて、ハッっとなり一度落ち着いた。


 いや、待て、オレ!

 浮かれてばかりで調子に乗っていてはダメだ。

 あまり調子に乗って皆の気持ちを忘れていたら、愛想尽かされて皆離れて行ってしまうかもしれない。

 ここは彼女達の気持ちを第一に考えてあげなくては……

 よし、落ち着けオレ! Stay homeだぜ! (春近的にはStay coolと言いたいらしい)


 それにしても、渚様とあいちゃんとアリスはどうしたのかな?

 お昼も顔を出さなかったし……

 

「ハルチカ」

 ちょうど考え事をしているところに、本人が後ろから声を掛けてきた。


「アリスぅぅぅぅぅ」

「うっ、何ですか……その物欲しそうな顔は? わたしのチョコがそんなに欲しいのですか?」


 春近の顔に感情が全部出ていて図星を突かれる。


「アリス、会いたかったよ~」

「何だか鬱陶うっとうしいです。ほら、チョコをあげるから付いて来るです。ついでに段ボール箱もあげるです」

「何でオレが段ボール箱を探してるのを知ってるの? まさか、オレの心を読んだとか?」

「ハルチカは単純だからバレバレです。どうせチョコをたくさん貰って困っているに決まっているです」


 アリスの後をついて行くと、何度か来たことのある部屋に通される。


「あれ、ここは例のヤリ部屋……じゃない、使われていない和室」

「ちょっと待ってろです」


 がさごそがさごそ――――


 アリスが箱から何かを出している。


「よし、準備完了です」

「えっ……」


 アリスのプレゼントは、まさかのインパクトだった。もうリアクションに困るくらいの。


「プレゼントは、わたしだニャン! お、おにいちゃんの好きにして良い……ニャン……ううっ……」


 ネコミミを付け自分の体にリボンを巻いたアリスが、ニャンニャンとネコみたいな感じに恥ずかしいセリフを言い出した。

 最後の方は恥ずかしさで言えていないのだが。


「ええっと……アリス……」


「うっ、ううっ……うわあああっ! 酷いです! せっかくハルチカが好きそうなのをやってあげたのに、無反応だなんて酷すぎるです! わたしがバカみたいです!」


 ジタバタジタバタ――――

 アリスは、あまりの羞恥心で泣き出しそうな顔をしてジタバタしている。


 しまった!

 余りにも予想外の事態が起きて、脳がフリーズしてしまった。

 しかも、ニャンニャンアリスが可愛すぎて、まるで二次元に存在している物体かと思ってしまった。

 途中から恥ずかしさでグダグダになっているところが、更に可愛さを引き立てているぞ。


 春近はノーリアクションなのではない。余りの可愛さに固まっていただけだ。


「あ、アリス……どんまい!」

「うわああああっ!」

「じょ、冗談だよ。アリスは凄く可愛いよ。ありがとう」

「ううっ、うっ、うっ、ほんと……?」

「食べてしまいたいくらい可愛いよ」


 アリスを抱きしめて頭をナデナデする。


「食べても……いいニャン……」

「うおおおおっ! 何だこの可愛い生き物!」


 なでなでなでなでなでなでなで――――


「うわあああっ、だめぇぇぇぇぇ! あぐっ、ひぃぐっうぅぅ……」


 アリスは春近に体中をナデナデされまくって、脚をピンっと伸ばしてピクピクしている。


「ううっ、最近、欲求不満だったから……余計にきっついものがあるです……」

「えっ? もっとナデナデして欲しいの?」

「ちがっ、ああっ、もう! 好きにするです! 今日だけは許すニャン! おにいちゃん!」


「うおおおおおっ! おにいちゃんキタァァァァァ!! リアル妹はちょっとムカつくのに、何でアリスの妹キャラはこんなに可愛いんだぁぁぁ!」


 なでなでなでなでなでなでなで――――


「うううううっ、もう、限界ぃぃぃ……」

 なでなでなでなでなでなでなで――――

 なでなでなでなでなでなでなで――――

 なでなでなでなでなでなでなで――――



 アリスは春近のナデナデ攻撃を受け続けて、精も根も尽き果て立つ事も出来ないほどヘロヘロになってしまった。


「ハルチカ……恐ろしい男です……そうやって最後までやらずに焦らし続けて、どこまでも堕として行くのですね……愛の牢獄に捕らえられた我が身を呪うです……」


「あの、アリス……大丈夫? ごめん、アリスが可愛すぎて、ついつい撫で過ぎちゃった」

 春近はアリスを抱きかかえようとする。


「わたしは少しここで休んでから帰るので、ハルチカはそこのチョコと段ボール箱を持って先に行くです」

「でも……」

「少し休憩するだけです」

「うん、アリス、チョコとニャンニャンアリスありがとう」

「ちょっと待つです。ちゅっ……」


 アリスは春近にキスをしてから先に帰らせる。

 ナデナデされまくったせいで、色々とヤバい状況になってしまい、少し落ち着いてから戻りたいのだ。


「ハルチカのせいで、どんどんエッチにされている気がするです……」




 春近はアリスに貰った箱に皆のチョコを大事そうに入れて、ニコニコと笑顔で寮に戻った。

 大量のチョコを冷蔵庫にしまって、どれから食べようかと悩む。


「もったいなくてずっと保存しておきたい気もするけど、皆がせっかくくれたものだからやっぱり食べたいよな」


 そんな、冷蔵庫の中を見ながらニヤニヤしている春近の後ろに、音もなく暗殺者のような影が忍び寄る。


「動くな! はるっち! 確保したっ!」

 突然、後ろから羽交い絞めにされ身動き一つ出来なくなる。


「え、えっ?」

「はるっちは、うちが連行する! 大人しく来るのだっ!」

「あいちゃん?」

「えっ、なんで分かったのー」

「いや、バレバレだけど」


 今も春近の背中には、マシュマロのような柔らかボディが当たってふわふわ気分だ。

 特徴的な声と柔らかボディで、すぐにバレてしまっていた。


「とにかく、はるっちは、うちと一緒に来るの!」

 何だか理由は分からないまま、春近は女子寮まで連行されていった。


 女子寮の中の廊下を通り、ある部屋の前まで案内される。

「ここだよー どうぞ、入って」


 春近が、恐る恐るドアを開け中に入ると――――


「よく来たわね春近、じゃなかった……お、お、お帰り……なさいませ……ご、御主人……様……」

「へっ…………」


 またしても春近は、目の前の信じられないような光景に絶句し脳がフリーズした。

 まさか一日に二回もフリーズするとは思わなかっただろう。


 目の前には渚様改め渚メイドがフリフリのメイド服を着て畏まっている。


「ええっっと……」


 渚様、これ文化祭の時のメイド喫茶で着てた服だよな。

 本当にオレの為にメイドやってくれるのか?


「ほらほら、はるっち、今日は渚っちが何でも命令聞いてくれるよ。エッチな命令し放題だよー」


「な・ん・だ・と! エッチな命令し放題……? あの渚様に……」


 まさかの展開に、春近の興奮が最高潮に達した。


「はあ? 何であたしが!」

「ダメだよー 渚っち、ちゃんと御主人様に命令を聞かないと。渚っちがやりたいって言ったんだしー」

「うっ、分かったわよ……」


 あいに言われて渚が頷いてしまう。


 渚様……本気か?


「じゃあ、うちも着替えて来るから、先に渚っちメイドで遊んでてねー」

 あいは、そう言うと部屋を出て行ってしまい、その場に春近と渚メイドの二人が残される。


 ドキドキドキドキドキドキドキ――


 まさか、本当にどんな命令でも聞いてくれるのか?

 え、エッチなのも良いんだよな……。


「じゃあ……スカートをたくし上げてパンツを見せて下さい」


 春近は、いきなりとんでもない命令をしてしまう。

 果たして春近の運命は――――

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