第87話 くっころ展開?

 静寂は女王の来訪によって破られた――――


「春近、入るわよ!」


 燦然さんぜんと輝く金髪を揺らし、ドS女王の大嶽渚が部屋に入って来た。

 放課後、寮に戻ってゲームでもしようかと思った矢先の事である。


「渚様、もう入ってるじゃないですか」


 ズカズカと歩きながら凄まじい威圧感を出して眼前まで迫ってくる。

 久しぶりに感じるこの迫力。やはり、桁違いの威圧感だ。


「春近、あんた、あの天音って子と仲良くしてるそうじゃないの」

 渚の目が据わっている。凄い迫力だ。


「えっ、あの、普通ですよ……」


 何処から聞いたのかは分からないが、噂というものは広まりやすいものなのだ。


「と、特に何かあるわけじゃないので」

「本当かしら……?」

「ほ、本当ですよ」

「ふぅ~ん」


 渚の美しく狂気を内包しているような瞳で見つめられると、体の奥の方がゾクゾクと痺れるような感覚になって逆らえなくなる。

 今まさに、その視線が一直線に春近を見つめていた。


「取り敢えず、立っているのもなんなので、座って下さいよ」

 ベッドの上に座るよう勧める。


 部屋に渚と二人きりということで、春近はいつになく緊張してしまう。

 しかも、彼女は天音とのことを聞きに来ただけではないような気がするのだ。



「ねえ、春近って、最近あたしのことを忘れてない?」


「えっ、そ、そんなことは無いですよ。渚様のように美しくて迫力が有って個性的で面白女子を忘れるわけがないじゃないですか」


「それ、もしかしてバカにしてる?」


「し、してませんよ。渚様の美しさは、まさに『立てばアマリリス、座ればカトレア、歩く姿は薔薇バラの花』ですよ!」


 立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん、歩く姿は百合ゆりの花だったような気がするのだが、渚には前者の方が合っている気がする。

 ただ、危うくラフレシアとかトリカブトとか言いそうになる春近だが。



 何やらそわそわとしている渚を見た春近の中で、ムクムクと目覚めるような感覚が広がる。


 も、もしかして……渚様、オレに会えなくて寂しかったとか?

 もしそうなら、ちょっと嬉しい。

 何だろう……

 こうして渚様と対面すると、体の芯からウズウズとした不思議な感情が疼いてきて、たまらなくなってしまう。もう、彼女の猛毒のようなものが体中に広がって、後戻りできないような感覚になるような。



 そんな春近が実際に行動に移してしまった。


「な、渚様ぁっ!」

 がばっ!


「えっ、えっ、ちょ、ちょっと」

「オレも渚様に会えなくて寂しかったです」

「は、春近?」

「渚様ぁ」


 ぎゅーっと強く抱きしめてから、頭をナデナデする。


「は、春近……ずるい……あたしのして欲しいことするなんて」


 渚は顔を真っ赤にして、ぎゅーっと抱きしめ返す。

 春近の思い込みによる暴走かと思いきや、実際に渚のして欲しかったことのようだ。


 これには春近も興奮してしまう。


 えっ、か、可愛い! 可愛すぎる!

 今日の渚様は可愛すぎだろ!

 本当に寂しかったのか。



「春近! あたしの春近! んっ♡」


 いつものように激しいキスをする渚。貪るような、食らい尽くすような、身も心も全てを欲しがるような。


「ちゅ、むちゅ、んんっちゅ、ちゅぱっ、はる……ちかっ、ちゅ、んんんっ……」


「ぷはっ、ちょ、渚……様……くるし……ちょっと、激しすぎ……」


 この過激で美しいドS女王に愛情を向けられるのは嬉しい春近だが、彼女の愛情表現が激しすぎる所が困った点だ。


「まだよ! もっと! ちゅちゅっ、ちゅぱっっ、むちゅぅぅ……んっ、もぉっとぅ、んんえんぶっ♡ じゅぎゅぷっうむぅううう~ん♡」


「んんっぱぁああぁ! うわああっ、ちょ、今日のは、いつにも増して激しすぎるぅぅーっ!」


 最近キスしていなかったからなのか、渚の欲求不満が溜まり過ぎだ。もう少しだけ抑えてくれればと春近が考える。

 そして思い浮かんだのが杏子から借りたアレだ。


 春近は手を伸ばし、ベッドの下にあるソレを掴む。


「渚様、ちょっと手を上げて、こうしてこうして」

 ガチャ! ガチャ!


 渚をバンザイした体勢にして、両手を手錠でベッドに繋いでしまう。


「は、えっ、なに……ちょっと! 何コレ! 外しなさい!」


「し、しまったぁぁぁぁぁぁ!」


 春近はやらかした。

 後のことを考えずに渚を手錠で繋いだのは良いが、手錠を外した後で激怒した渚に強烈な仕返しをされることを想定していない。


 これは詰んだか……だが、もう後戻りはできない! 我は突き進むのみ! 我の辞書に不可能の文字無し!

 覚悟を決める春近だ。

 

「渚様、いいんですか? 今の貴女は囚われの女王ですよ。ふっふっふっ」

 春近は、間違った方向に進んでしまったことに気付いていない。


「ちょ、ちょっと、春近……何するつもり? 変なことしたらただじゃ置かないわよ」


「うへへっ、渚様~」

 春近は手をウネウネさせながら、彼女の胸の近くへと迫る。


「やめなさい! だめっ!」


「ほおらっ、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ」


 エッチなことをするかに見えた春近だが、渚の体中をくすぐり始める。


「きゃぁ、だめっ、ああっ、くすぐったい! あああっ! だめぇぇぇ!」

 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ――

「ああっん、やめてっ、きゃあっ、はあっん、だめえぇぇっ!」

 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ――

「はあっ、んんっ、むんんっあっ、はあっ、はあっ、はあっ♡」


「何だこれ、癖になりそう。あの渚様が、くすぐられて悶えまくっている。


 調子に乗って、おっぱいも揉みまくってしまう。これは仕方がない。


 もみもみもみもみもみもみ――

「はあっ♡ んあぁん♡ うぁあっ♡ 春近…………いいよ……」

 そう言って、渚は潤んた熱い目を閉じて静かになる。



「あ、あれ……」

 これって……そういう事だよな……

 えっ、でも、どうしたら……


 攻められることには長けている春近だが、攻めることにはからっきしヘタレだった。急に『いいよ』展開になって、完全にテンパってしまう。


 どどどどどうしよう! こ、ここからどうしたら!?

 これってあれだよな? 男と女の夜の営み的な?

 いやいやいやいや、まだ早いというか!

 ああっ! したいけど、そりゃしたいけど!

 ルリたちに合せる顔がないというか。


 そ、そうだ、オレはドーテーかもしれないが、ギャルゲーという恋愛シミュレーションゲームで経験を積んでいるんだ! 思い出せ! こういう時は、ギャルゲーの主人公のように……。

 だめだぁぁぁ! 緊張と興奮で何も思い出せない!

 どうしたらいいんだぁぁぁ!



「遅い! いつまで待たせんのよ!」

 げしっ!


 長考し過ぎて、キレた渚に蹴られてしまう。


「早く外しなさいよ!」

「イヤです。絶対怒るじゃないですか」

「はあ? 春近、怒らないから外しなさい! ニコッ」


 とても良い笑顔をするけど、迫力が隠せていないので春近は却下した。


「あああぁ、もうこうなったら最後の手段! 渚様が満足するまでご奉仕します!」

 何を思ったのか、春近は渚の制服のブラウスのボタンを外した。


「ちょぉおおおっ、は、春近? ちょっと、何すんのよ!」


 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ――

 首筋、腕、お腹、おへそ、太もも、あらゆる個所を舐めまくる。


「きゃああああっ! ああぁん♡ ううっ、ああっ♡ ダメっ、ダメぇ♡」


 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ――


「腋も……」

「えっ、ちょ、なに言ってんの……」

「本気です」

「ええええっ!」


 今日一日汗をかいて蒸れている渚の腋をペロペロする。

 変なテンションになった春近に怖いものは無い。


「汗の臭いもご褒美だぜ。むしろ最高! 渚様バンザイ!」

 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ――


「あああっ、くすぐったいから! だめぇぇぇぇぇ♡」


 時間も忘れてご奉仕しまくり、渚は息も絶え絶えになってしまう。




 そして三十分後――


「あ、あの、外しますね……」

 恐る恐る春近は手錠を外す。


 しばらく荒い息で胸を上下させていた渚だが、起き上がり手首をさすりながら笑顔を浮かべる。凄まじい威圧感を出しながら。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

「春近、あんた、こんな事をしてただで済むと思ったわけ?」

「え、あ、あの……」

「良い度胸してるわね!」

「ううぅ……」


 春近は今、まるでRPGゲームでラスボスのHPを1まで削ったはずが、特殊スキルにより全回復してしまったかのような絶望感の中にいた。


 そうだ、何故オレは勘違いをしてしまったのだ。

 オレが何をしても渚様に勝てるわけがなかった。

 むしろ、呪力も使わず優しく接してくれている渚様に感謝すべきだったのだ。


「うわわわわわっ、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ」



 勿論、渚のキッツイお仕置きが待っていた。

 蒸れた足を丁寧に念入りに舐めさせられた。

 ただ、やっている行為は先程と同じなので、罰なのかご褒美なのかは分からなくなる。


「うふふっ、やっぱり春近って最高ね! 大好きよ♡」

 渚様は満面の笑みを浮かべてニッコニコである。


「ううっ、どんどん変態にさせられてる気がする」

「変態なのはあんたでしょ。初めて会ったときからこんなだったわね♡」

「あれは無理やりだった気が……」

「何か言ったかしら? ふふっ♡」


 幸せそうな渚の顔を見て、春近も嬉しくなる。

 傍から見たら異常な関係に見えるかもしれないが、二人はヘンタイながらも固い絆で結ばれているようだった。

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