第88話 愛実る時
季節が夏から秋へと変わろうとしている九月。まだまだ暑さが続いているが、空は高く秋の気配を見せ始めているようだ。
春近は、一人で校舎の屋上から空を眺めていた。
「あの雲は何の雲だろう……?」
小さな羊のような雲がたくさん見える。
天気が急変しそうな予感がしてきた。
「この学園の屋上は見晴らしが良くて気持ちが良いな」
春近は、そう呟きながらこれまでの学園生活を振り返る。
よく分からないまま陰陽学園に入ることになっちゃったけど、今となっては信じられないような体験や貴重な経験ができたんだよな。なによりルリたちに逢えたのは良かった。
もし、この学園に入らず普通に進学していたら、オレはどうなっていたのだろうか? それまでと変わらない、つまらない人生が続いていただけだったかもしれない。
「でも、まさか何人もの女性と同時に付き合うことになるとは夢にも思わなかったな」
ハーレムなど完全に女性の敵である。学園内でも有名になり、好奇の目で見られてしまっているのだ。
「でも……誰かの悲しむ顔は見たくない。皆が幸せになって欲しい。オレは間違っているのだろうか――――」
空に向かって呟いても返事は返ってこない。
「なんだか、前にあいちゃんが言った通りになったような気がするよ」
羅刹あい、見た目は派手でギャルっぽいのに、中身は意外と繊細で優しい性格をしている少女。春近は、その友達思いで周囲を気にかけている、性格の良い彼女の笑顔を思い浮かべた。
「あいちゃんか……」
「呼んだ?」
「うわああっ!」
いつの間にか春近の隣にあいが立っていた。
「い、いつから?」
「はるっちが、空に向かってブツブツ言ってた時から」
そう言って、いつものように春近の首に腕を回し密着する。
「は、恥ずかしい。結構前から独り言を聞かれてたのか」
「うちがどうかしたの?」
「ちょっと、あいちゃんのことを考えていて」
「エッチなコト?」
「ち、違うよ。前に言っていた、全員嫁にしろって話」
「やっぱり、うちの言ったとおりっしょ」
現状は、あいの言った通りに進んでおり、春近は感心してしまう。
あいちゃん何者なんだ?
色々なことが、あいちゃんの計画通りに進んでいるような?
何気に凄いな。
「毎晩エッチなことばっかしてるんでしょ」
「してな……くもないけど……」
エッチはしていないのだが、それに近いことはしているので困ってしまう。
「昨日、渚っちが行ったでしょ。はるっちが、他の子とイチャイチャしまくってるって言ったら、チョーあせってたからぁ」
「ええっ、あれ、あいちゃんのせいだったのか!」
それで渚様が……
他の子とイチャイチャしてると聞いて、不安になって来ちゃったのか?
何だか可愛いな。
でも、またアブノーマルな感じになってしまって、この先が少し怖いような気もする。
「ねぇ、うちには何か言うことないの?」
首に回したあいの腕に力が入り、春近の顔があいの胸に埋まる。
「わっぷっぷ、お、おっぱいが……」
「ほらほら、言わないとヒドい事しちゃよ」
むにむにむにっ――
「あああっ、て、天国?」
「はるっちのエッチぃ♡」
あいの言うヒドいことが心地良くて逆効果な気もする。
「はるっち、二人だと浮気だけど、たくさんいたら浮気じゃないんだよ」
「えっ、そうなの?」
いや、そんなわけない……でも、そうなのか? いやいや、まて、実は深い話なのか……?
春近は、あいの話が深い話だと思い込み、思考が戦国時代へと飛ぶ。
そうだ!
かの徳川家康は、正室である
そして家康は、信康を切腹させ築山殿も処刑してしまったという。
しかしこれには裏があり、実は築山殿は嫁姑関係にあった信長の娘である
つまり、あいちゃんは皆で仲良く付き合わないとならないと言いたいんだね!
「あいちゃん、徳川家康なんだね!」
「はるっち、何言ってんの? 意味わかんない」
羅刹あいは、全く家康のことなんて考えていなかった。
「もうっ、ハッキリしてよ! はるっち、いつもそうやって不安にさせて、うちの心をもてあそんで罪なオトコだよね」
ぐいっぐいっと、春近の顔をおっぱいに押し付けける。春近は、あいの胸の谷間に顔が埋まってしまう。
「もがっふぉんな……そんなことしてないから。もてあそんでないから」
でも、もう覚悟を決めないとならないのか。
四人と付き合っているのに、あいちゃんを不安にさせたままじゃダメだよな。
よし、もうやるしかない!
春近は覚悟を決めた。
「あいちゃん、オレと付き合ってください」
「えぇ~ どうしよっかな?」
がくっ!!
「そ、そんなぁ……」
盛大にズッコケてしまう。
「はるっち! その前に言うことがあるでしょ!」
えっと、そ、そうだ!
まだ好きって告白していなかった。
あせって先走ってたよ。これじゃ、あいちゃんに失礼だよな。
「あいちゃん。本当はとても優しくて、いつも皆のことを気遣ってくれて、そんなあいちゃんが好きです。付き合ってください」
「うん、いいよぉ。うちも、はるっちのこと大好きだし」
あいは、両手を春近の首に回して抱きつく。
体をピッタリと密着させると、ムッチリとした柔らかな感触に包まれるようで、気持ち良くて夢心地になってしまう。
まるで……おっぱいに包まれているみたいや~
「はるっちのエッチぃ♡」
「えええっ、あ……しまったぁぁ!」
おっぱいの感触で夢心地になっている春近は、体のある部分が凄いことになっていた。バレバレだ。
「むふふっ、こんなにしちゃって。エッチなことばっか考えてたんでしょ」
グイグイを腰を押し付けて刺激するあい。
「ちょ、違うから、あいちゃんが刺激するからだから。だから、グイグイしないで」
「もぉ、でも、嬉しぃ♡ ちゅ~」
密着したままキスをする。
「んっ、ちゅっ、んんっ♡ はるっち~顔真っ赤だよぉ~」
グイッグイッグイッグイッ――――
「あいちゃんがグイグイやってるからでしょ」
「むふふぅ♡ はるっちぃ♡ ちゅぅー」
グイッグイッグイッグイッ――――
「んんっ、ぷはっ、だ、だから、もう許してぇぇぇ!」
「むふぅ、はるっち、相変わらず良い表情するねぇ」
グイッグイッグイッグイッ――――
「わあああああっ……」
春近は、あいに散々グイグイされてから解放された。
「あ、危なかった……」
「はるっちぃ、すきぃ♡」
「お、オレも好きだよ」
「ぬへへぇ、嬉しいねっ」
「オレはもう少しで大変なことになりそうだったよ」
九月の空よりも高く澄み切った笑顔で、あいは言った。
「はるっち、他の子も不安になってると思うから、ちゃんと言ってあげてね」
「あいちゃん……」
他の子……つまり、忍さんやアリスのことだよな。
やっぱりちゃんと話さないとならないよな。
そうだ、そういえば栞子さんも。
春近は重要な問題を思い出した。
ヤンデレの帰還は、すぐそこに迫っているのだ――――
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