第17話 星空の告白

 陰陽庁関係者、学園関係者、病院関係者が慌ただしく動いている。

 渡辺豪は頑丈な身体なので、大事には至らず止血して意識はハッキリしているようだ。

 他の先輩も、大きな怪我もなく自力で歩けるほどだ。

 ただ、卜部桜花先輩は制服の上着を脱いで、何故か下半身を隠すように腰に巻き付け恥ずかしそうにしている。

 

 一度、陰陽庁の職員がルリの所に事情聴取に来たが、ルリが睨んだら何も聞かず逃げて行ってしまった。

 どうやら、諦めて四天王から事情を聞いているようだ。


 栞子はスケスケスーツの羞恥心で動けずへたり込んでしまい、春近が自分の上着をかけてあげ、今は更衣室で着替えている。



 斯くして、作戦は大失敗に終わり四天王も全く役に立たず、これ程の戦力差を見せつけられては、もはや何の対処も出来ないようだった。



「ハル、行こっ」

 ルリは春近の手を引く。


 陰陽庁職員がルリを怖がって近づいて来ないので、もう後の処理は任せて帰っても良さそうだ。


 


 ――――春近とルリは並んで寮までの道を歩く

 すっかり日は暮れ、空には満天の星が広がっている。

 ここ、陰陽学園は都心から離れた街にあり、夜空は澄んでいて星が綺麗に見えるのだ。

 まるで宝石を散りばめたような空の下を、二人は手を繋いだまま沈黙が続く。

 世界に二人しか存在しないかのような空気が漂う歩道を。


「――――ハル……」

 突然ルリが呟いた。


 春近は黙ったままルリをみつめる――――


「ありがとう…… 来てくれて嬉しかった……」

 ルリは熱い目でみつめ返す。


「ルリが心配だったから。オレじゃ力にならないかもしれないけど、どうしても助けたかった……」

 春近は繋いだ手に少し力を込めて握る。

 ルリの体温が伝わってきた。


「ほんとに、ありがとう……」

 少しの沈黙の後、ルリは呟く――――

「私、ハルに謝らないといけない事があるの……」


「えっ……」


「初めて会った時――――――――」

 ルリは言い淀んでから話始める。

「駅で初めて会った時、私はハルを利用しようと思って近づいたの……この人を利用して……学園で有利な状況を作る為に使おうと……ごめんなさい…………」


 そう呟くと、ルリの綺麗な目から一筋の涙が流れた――――


「ルリは何も悪くないよ!」

 春近はルリの身体を優しく抱いた。


「こんな学園に無理やり入学させられたのなら、誰だってそう思うはずだよ。誰かを頼りたいと思うはずだよ。たとえ、最初は利用しようとしていたとても、今はこうしてルリと仲良くなれたのだから。これからも、ルリとずっと仲良くしたい」


「ハルぅぅぅぅぅ」

 ルリは全身で強く春近を抱きしめた。


 ――――――――




 ルリを女子寮まで送り届けた後、春近は強烈は恥かしさに襲われた。

「うわぁぁぁ……なにキザな事をしてるんだぁぁぁ」


 少し前まで陰キャでオタクだった自分が、進学してから急に女子と仲良くなって、自分でも分からないくらい生活は一変した。

 まさか自分が女子を抱きしめるなど、少し前の自分では想像も出来ない程だ――――




 自室に戻ったルリは興奮状態にあった。


「これからもすっと仲良くって、それ告白みたいなもんだよね」

 ルリの呪力が漏れ出し周囲の空間がグルグルしている。


「私が鬼の転生者である事も知って、あのデカい男達をボコボコにしたのを見て、それでも恐れず離れないと言ってくれた……それって、もう私を好きって事だよね!」


 今まで関わった人達は、自分を鬼だと知ると恐れて逃げるか忌み嫌われただけだった――――

 しかし、あの男は……それでも一緒に居たいと言った――――


 ルリは生まれてからこれまでで、かつてないほどの興奮を味わっていた。


「ふふっ……ふふふっ……」


 今夜は眠れそうにない――――



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