第3話 いきなりギャルっぽい子に絡まれる
春近とルリは、入学手続きの為に一緒に学園に入った。
クラス分けや入寮手続きの説明を受け、寮の鍵を受け取ると一通りの手続きは全て終了したことになる。
そして学園施設を見学しようと廊下を歩き始めた。
ドタドタドタドタ――
すると、こっちに向かって勢いよく走って来る少女が目に入る。
栗色の髪を綺麗に切り揃えているのは、ショートボブというのだろうか。活発そうな彼女にとても似合っている。
スリムな体形で胸の辺りも少しスリムに見える。いや、そんな事もないのかもしれないが、隣に居るルリが大きすぎてそう見えるだけなのだろう。
十分に美少女と言っていい容姿をしているが、気の強そうな目つきとギャル風に着崩した制服が、春近には苦手なタイプに見えてしまっていた。
「ルリ! 遅かったね」
「咲ちゃん」
二人の会話から、どうやら親しい間柄のようだ。
手と手を合わせて再会を喜び合っている。
春近がタイプの違う美少女二人を眺めていると、咲ちゃんと呼ばれた少女は視線を春近に向けた。
「オマエ誰だよ」
突然ギャル風の少女に睨まれ、春近は後ずさった。何故かこの春近、ギャルやヤンキーに絡まれやすいのだ。
(マズい……ジロジロ見ていたのがバレたのか。これはいつもの絡まれるパターンかよ……)
春近が何か言おうとした時、ルリが横からフォローしてくれた。
「ハルは良い人だよ」
屈託ない笑顔でルリが答える。
「はぁ? やけに親しくない?」
咲はジリジリと春近に迫り、怖い顔をして睨みをきかせる。
咲としては睨んでいるのだが、春近はギャルに迫られドキドキしてしまう。チラ見してしまうくらいに。
意外と可愛い顔や、大きく制服が開いた胸元に。
(顔が近い…てか、けっこう可愛い……)
つい、大きく開いた制服の胸元に目が行く。
「どこ見てんだよ!」
(しまった! ついついガン見してしまった)
「ご、ごめん、見るつもりじゃなかったんだけど」
(このギャルっぽい子……近くで見ると、けっこう可愛かったり良い匂いかしたりで、女子に免疫が無いオレには刺激が強いって!)
更にグイグイ睨みをきかせる咲だが、女慣れしていない春近には逆効果だった。
「やっぱり、ルリのカラダ目的で近づいたんだろ!」
全くの言いがかりなのだが、これまで女性と交際経験の無い春近には、刺激が強すぎてガン見してしまったのだから言い訳できない。
何故か春近は、昔からヤンチャな女子に絡まれる事が多いのだ。
グイグイ迫る咲とは逆に、ルリは春近を庇ってくれるようだ。
「ハルは道案内してくれた親切な人だよ」
「ホントかぁ?」
咲と呼ばれている少女は、ジロジロと春近の顔を覗き込んでくる。
「オマエ、よく見るとけっこう可愛い顔してんじゃん」
「だから、顔が近いって……」
チラッ!
再び春近は胸元を見てしまう。
咲が近すぎるからだ。
「おまっ、やっぱりエロ目的じゃねーか!」
「しまったぁぁぁ! また見てしまった!」
(何か距離が近いのと、制服の胸元が開いているのと、彼女の雰囲気がそうさせてしまうんだぁぁぁ!)
グイッ!
咲が春近を押し倒した。
「これはお仕置きが必要だよね――」
「お、おい」
「うっわっ、何かゾクゾクするんだけど」
咲は
上履きを脱いで踏むところは、まだ良心的なのだろう。
「うわっ、ちょ、待て!」
「ホラホラぁ」
「やめろって」
「ほら踏んじゃうぞ」
何ともいえない楽しそうな顔をして踏む咲に、春近はされるがままだ。とんでもないドS女子に絡まれてしまったようだ。
「ウケる~」
(いや、ウケないから!)
心の中で春近は突っ込んだ。
(何で初対面でいきなりこんな事に……。オレは、とんでもないドS女子を召喚してしまったのか? いや、待て! 踏む度に彼女の短いスカートがヒラヒラと揺れ、下着が見え隠れして……もしや、これがラッキースケベというやつか?)
春近は歓喜した。これがアニメや漫画で有名なラッキースケベだと。
しかし、下から覗いていてバレないはずもなく。
「ちょっまて…… なに覗いてんだよ! もう許さねぇ!」
春近の視線が自分のスカートの中に向かっているのに気付いた咲は、真っ赤になって怒り出した。原因は自分にあるのに理不尽な話だ。
グイッ! グイッ! グイッ!
胸元を踏んでいた咲の足が、徐々に顔の方に上がってくる。その咲の表情は、少し恍惚としているように見えた。
「見んな! 変態!」
ガシ! ガシ!
彼女の足が春近の顔を踏み、容赦なく靴下が鼻や口に密着する。蒸れていたのだろうか……少し汗で湿っていた。
「ちょっと、やめろ! 臭っ!」
――――――カァァァァァ!
「ちょ、おまっ、いま、臭いって言った……」
「あ、いや、そんな事は……」
「はぁー! はああああ! 臭くねぇし! くそっ! 覚えてろよ!」
スタタタタッ――
咲は羞恥心から真っ赤な顔をして走り去ってしまった。
実際のところ、女子とあまり縁の無かった春近には、ラッキースケベ的な展開でそれほど嫌ではなかったのだが、もちろんそんな余計な事を言ったら変態なので黙っていた。
(いや、何でオレは、こんな事をされてラッキースケベとか思ってるんだ……。これじゃまるで変態じゃないか……。しかし、彼女には逆に悪い事をしてしまったような……)
「あらあら……」
それをルリは微笑ましい顔をして眺めていた。
◆ ◇ ◆
咲は校舎裏まで走り、非常階段裏で独り叫んだ。
「アタシって臭いのか……いやいやいや、臭くねーし! くっそ! アイツ、ぜってー許さねぇ!」
攻撃していたはずの咲の方が、大きなダメージを受けてしまったようだった。
ただ、この最悪な出会いをした二人が、後にとても深い仲になるなどと、この時の二人は思いもしなかったはずだ。
初対面の女子に踏まれる能力の春近。マニアには最高のご褒美であり、マニアでなければ最悪の能力だろう。
訳が分からないが、何故かヤンチャな女子やSっぽい少女を引き寄せてしまう、春近の固有スキルなのかもしれない。
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