第2話 源氏の姫

 駅から学園までは街のメインストリートを真っ直ぐ上って行く。

 澄み切った春の空気の中を、春近は不思議な少女と並んで歩いていた。


 いきなりこんな美少女と仲良くなってしまうなんて現実に存在するのか?


 春近は現実離れした超絶美少女と並んで歩き、不思議な気持ちになっていた。街で女性に声を掛けられるのといえば、何かの勧誘とか何とか商法とか如何いかがわしい事しか思い浮かばない。だが、今回は同じ学園の新入生だ。

 もしかして、初めての彼女が……と浮かれるのも仕方がないだろう。


 彼女がこんな美少女だったらと想像すると、心が弾んでスキップでもしたい気持ちになってしまう。



 春近は、この美少女との出会いに感謝しつつも、ここから少し距離を縮める為にも会話で盛り上げようと考えていた。入学時に新たな出会いとあらば、そう思うのも男子なら当然であろう。


 くっ、何とか会話を広げなくては。

 しかし……オレのような陰キャの宿命か、こういう場面で気軽に女子と会話して仲良くなるというスキルが無いので、沈黙が続いて盛り下がってしまうのが常だ。

 ここは、小粋な話題で話の糸口を……って、マニアックな話題しか思いつかないぜ……


 何とか会話の切っ掛けを探っていると――――


「そういえば、名前――私、瑠璃ルリ

 彼女の方から話し掛けてきた。

 それが少女の名前らしい。


「あの、土御門春近です」


「長いよ! ハルで良いよね! 私の事もルリで良いよ」


 初対面でも、かなりフレンドリーな少女だな……

 今まであまり女子と積極的に絡んでこなかったオレには、いきなり女子を名前で呼び捨てするのに抵抗がある……


「じゃあ、ルリさん……」


「さんは要らないよ!」

 速攻でツッコまれる。


「ル、ルリ……」


「はーい!」

 何の屈託もないような笑顔で返事をされた。



 春近が改めて周りに視線を向けると、自分達が周囲の人から凄い注目を浴びている事に気付く。注目されているのは春近ではなくルリなのだが……



 まずい、緊張してきたぞ……

 女子と二人っきりだなんて慣れてないからな……

 しかも、周囲からやたら視線を感じるし……

 誰か、誰かもう一人会話を広げてくれる人が居れば――――



 周囲の視線を気にしながら歩いていると、正面に自分達と同じ制服を着た一人の少女が目に入った。

 まるで道に迷っているように、キョロキョロと辺りを見回している。首を振る度に風に舞う美しい黒髪、知性を感じさせる整った顔に困ったような表情を浮かべている。誰が見ても育ちの良い御令嬢のような雰囲気を醸し出す少女だ。


 少女はこちらの制服を見るや否や、凛とした透き通る声で話し掛けてきた。


「こんにちは、その制服、陰陽学園の生徒ですよね。学園までご一緒してもよろしいでしょうか?」


「いいよ~」

 春近が声を出す前にルリが返事をする。


「助かりました。道に迷ってしまって」


 道に迷うといっているが、一本道なのにどうやって迷うのだろうか?

 清楚な美人に見えるけど、実はアホ……いや、方向音痴なだけかな?

 でも、女子同士で話が盛り上がってくれれば、オレも会話し易くなるような気もする。


 こうして奇妙な三人組で学園まで歩く事になった。と、言っても学園はすぐそこなのだが――――


 いや待てよ、何でオレは美少女二人と一緒に歩いているんだ?

 こんな立て続けに偶然が重なる事なんてあるのだろうか?

 冷静になって考えると変だよな。

 フレンドリーに御令嬢のような少女を受け入れたルリだが、彼女達二人の間に会話が無く無言のまま歩いている。

 何だか二人の間に不思議な間合いのようなものがある気がするし……



 春近は知らなかった――――

 この二人の少女が、お互い千年にわたる因縁の相手なのだと。




 学園の正門が見えてきたところで異変に気付く、門の前には巨大な男が立っていた。その男は、まるでお寺の門にある仁王像のように正門の柱の所で微動だにしていない。


 身長2メートルはあるだろうか――

 制服の上からでも判るほど筋肉が盛り上がっていて、まるで格闘技漫画の主人公のように筋肉で服を破りそうであった。その迫力は、街のゴロツキ共なら出会った瞬間に回れ右して逃げ出すであろう事は想像できるほどだ。


「お待ちしておりました。姫!」

 男は突然声をかけてきた。


「姫なんてやめてください。渡辺先輩」

 御令嬢のような少女は困り顔をしながら答える。


 そして、少女はこちらを振り向き

「申し告れました、わたくし源頼光栞子みなもとのよりみつしおりこと申します。ありがとうございました。わたくしはここで」

 と言った。



 二人と別れ校内に入って行く。


 ルリは二人を見つめ、そして特に興味も無さそうな顔をして歩いて行く。

 その表情からは感情は読み取れない。


 気になる……

 何だあの二人……

 アニメや漫画の中から出て来たようなデカくて筋肉バキバキの先輩と、姫とか呼ばれているサムライみたいな変わった名前の女子……


 校門に残った二人が気になる春近だが、入寮手続きの為にルリと一緒に学園事務所に向かった。




 校門に残った二人の方だが――――


「あれが最強の鬼ですな!」

「ええ……」

「さすが姫! すでに接点を持っておられるとは!」


 道に迷っていて偶然会っただけなのだが、その事は黙っている栞子であった。

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