第25話 ドレス姿に

ヴェール家の宴に呼ばれた日になった。


そうなるとブロン達も当然正装にての参加になる

のだから、それなりの衣装に着替えていく。

まずニュイが落ち着いた青いドレスに身を包む、

ウェーブのある柔らかな黒髪のサイドを編み込耳

飾りも首にも真珠が光る。V字カットのローブに

同色のパネルで胸元はスッキリしたデザインだ。

生地は同色糸での花柄刺繍が施されたシンプルだ

が華やかなドレスはニュイの美貌に似合い、美し

さが増す様だった。

その着飾った姿を見ながら。


「お姉様…綺麗。やっぱり品が違いますね…兄さ

んが倒れそうだもの。」


ヴィオラがため息をつきながらウットリと見てい

るのだ側でヴェルトが渋い表情を見せ。


「ヴィオラ、見過ぎだ妹なのに腹がたつ!」


そんな事をヴェルトが真剣に言うからニュイから

は心配だった緊張感が消えてしまうのだ。



少しして、ネージュとブロンが二階から降りて来

る。ネージュは深緑色のドレスで同じくV字カッ

トの胸元だが、パネルに赤い薔薇色レース製のリ

ボン全体に小さな薔薇の飾りがあしらわれていた。

額飾りにはグリーンの石が光っていて白い髪をゆ

ったりと編んでまとめている。まるで妖精の様に

可愛らしくもあり妖艶だった。


「…森の中から抜け出したみたい。」

「うんうん、ネージュ綺麗。」


リラとフルーが目を輝かせて見てしまう、他の隊

員達も感心しながら眺める。


「これは見事だ!」

「最近大人びた感じになったが衣装で一際魅力的

になったね。」

「うんうん、ブロン隊長大丈夫ですか?」

「まだ、飛びついちゃダメですからね。」


「わかっている!」


冷やかされたブロンはちょっと憮然としたが実際

…はですね、




「なんで着替えの手伝いの最後はブロンさんなん

ですか?」

「ん?皆を驚かせたいからな。」


そう、さっき迄コルセットや下準備はリラとフル

ーが手伝ってくれていた。髪を整えドレスを着て

留め具に差し掛かっていると部屋にブロンが入っ

て来たのだ。


「まだか?」


「ブロン様、後は留め具ですお待ちくださいね。」


リラが呆れながらも留め具を止めていると「俺が

しよう他の準備を頼む」そう言って何かを見せる

とリラとフルーが笑顔で頷き、分かりましたと部

屋の外に出て行く、微かにブロン様ったら脱がし

ちゃうかも〜と小さな笑い声が聞こえている。


「もう!リラさんとフルーさんが面白がっちゃう

のに。」


ブロンが背中で笑いながら、今更だとゆっくり背

中の留め具を止めて「よし、後は目を閉じて」と

ブロンがネージュの前に立つ気配の後に額に冷た

い物が当たる、手を取られて姿見の前に移動させ

られ瞳を開くと、額には金細工で縁取られた額飾

りだった中心にグリーンに光る宝石なのだが光が

カットに乱射していて美しい耀きを放っている。


「綺麗な飾り!これは?」


「ニュイが用意してくれた、ネージュにとね。」


「…私本当に色々して貰ってばかり。」


困った顔で微笑むネージュにブロンが頬に触れて、口紅直さなきゃなと呟く、さっき…とネージュが

答えた瞬間にはブロンの唇が触れていた。

直さなきゃな…と笑顔で繰り返すから、赤くなる

ネージュが可愛いからともう一度と唇を重ねて舌

で唇を舐め入れようとするのだ。それこそ口紅が

落ちるどころじゃ無いと必死で唇を閉じて抵抗す

れば耳や首すじに唇を這わせてくる。ネージュが

震えながらブロンの腕を掴むも、優しく耳たぶに

触れる唇に耐え切れず。


「やだ、やめ…て、足が…」

「慣らしをやり過ぎたな、くくっ」


楽しそうに微笑むブロンにネージュが膨れて、胸

元を叩いて「遊ばないで」と言ってやっと降りて

きたのだったのだから。



迎えの馬車にニュイ、ネージュ、ブロン、ガルグ

イユが乗り。ジョーンヌとヴェルトが馬に乗って

後ろから付いて来ている。


「ガルグイユさんの正装姿、格好良いですね。」


「ん?そうか初めて着たよ…窮屈だな。」


ネージュに合わせた様なグリーンの上着だ銀の髪

が引き立つ感じで上品であり風格もある。顔立ち

も良いから、何処かの国の王族と言われても納得

するだろう彼等は皆面白いくらいに品が有るのだ。

そしてブロンだが、深みのある青い上着でニュイ

に合わせたのだ、ボリュームのある襟の白いシャ

ツはガルグイユも同じだが体格のよい男性も華や

かさが出て素敵なのだ。やっぱり格好良いなとネ

ージュはボンヤリと眺めていたのだ。


馬車は随分と走って、やっとヴェール家に着いた。

あまりにも大きな門に凄いなと馬車の窓から眺め

てさまう、見張りなのか警備をする人影を後にし

進んだ先には広がる…左右対称の立派な城。その

前にはやたら馬車が止まっている、着飾った人達

や執事や使用人、従者や小間使いなどが動き回っ

ているのをネージュは呆然と見るしかない。

ただ乗った馬車が城側に止まり、夕陽に照らされ

た建物の規模に息を飲みネージュは馬車から降り

る事が出来ずにいた。ブロンが手を差し出すから

震えながら手を握っていた。


「どうした?俺が一緒にいる大丈夫だ。」


「…あの…ここがブロンさんの実家、いえお父様

のお城…、なのですか?…」


頷くブロンを見ながら、背後の城の大きさとブロ

ンの風格に今更納得する。生まれながらの品位が

あるんだなと感じながら違和感を感じたのだ。

そう、兄のビュグロスを思い出すのは妙な違和感

、ブロンの城に来た時に感じたのだが不思議に思

うのは母親が違うにしても似てなさ過ぎるのだ…

体格?それだけじゃなく何もかも似ていない。

いや、似てない兄弟もよくいるしと軽く頭を振っ

てから、まずはこのびっくりするほどの人達に飲

み込まれない様にしないとと馬車を降りてからゆ

っくりと城への階段を上り、開け放たれた大きな

扉の中へとネージュ達は入って行った。


ブロンの左腕に捕まり左側のガルグイユに挟まれ

ながら広い通路を歩くのだが、其処彼処にいる身

分の良さそうな男女が全員もれ無く視線を向ける。

多分、城の息子であるブロンを見ているんであろ

う軽く頭を下げて挨拶をしている人も居るのだか

ら…でも半分はとネージュは心配になる。


「やっぱり、この髪は気になりますよね?」


困ったようにブロンを見るとガルグイユが優しい

声で答えてくれるのだが…。


「まあ俺の銀の髪もあるからな、どこの国から来

たのかと気にしているんだろうが。ブロンが連れ

ているから話したくて堪らんのもいるぞ?

ネージュお前とだ。」


「何故、わざわざ私と話したいの?」


「…お前、鏡見た事無いのか?」


「見ますよ!普通に。髪は白いし目の色変だし」


ネージュが膨れながら話すから、ガルグイユが呆

れて立ち止まり「はぁあ?」と声を出した所で背

後から付いて来ていたジョーンヌ、ニュイ、ヴェ

ルトが笑いながら。


「ガルグイユ、どうもネージュには自分の容姿は

大した事ないらしいんだよ。」


「面白いだろ、ネージュにとって周りがお姫様と

王子様だらけ、なんだよ。」


ジョーンヌとヴェルトが肩を震わせながら言うの

だが「あっ訂正する。王子様はひとりだけだった

な」とジョーンヌが真顔でネージュを見つめると

面白いほど真っ赤になってしまう。


「分かっているよ。だからネージュをからかうな」


ブロンは微笑んで赤い顔のネージュを見つめて促

しながら奥へと歩を進めた。ガルグイユもジョー

ンヌ達はふむっと頷き、前と違って余裕になった

なと笑ってブロンの後に付いていった。



「大広間とやらは、大広間なんですね…」


ネージュが呟く言葉はもうただ口をついて出てい

るだけで大した意味は無い。別世界過ぎて頭が付

いて行かないのだ、いや別次元?だったかなとひ

とり小首を傾げて唸るネージュなのだが…。

背後のガルグイユがジョーンヌに小声で話しかけ

る。


「おい、ブロンは大丈夫か?」

「ん?駄目だろうな…」


「だよな、綺麗な子だとは思ったがまた衣装ひと

つでかなり色が変わるんだと分かったが…飛び付

きそうで怖いぞ。」

「…だよな、何処かに引っ張り込みかねない…」


そんな会話を聞いてニュイが後ろで「えっ??」

と動揺するからヴェルトが笑って言うのは…。


「大丈夫ですよ彼らのは冗談。我慢出来ずに何処

かに引っ張り込むのは僕ですから。」


ニュイが真っ赤になったのは言うまでも無い。


ジョーンヌとガルグイユはあれがデカイと肝もデ

カイんだなと呆れていた。まったく、これからの

厄介事を考えるとガルグイユすら不安なのに、ブ

ロンのネージュを落ち着かせる技に感心するし。

ジョーンヌもニュイを見事にリラックスさせてい

るヴェルトに心底感心し、呆れていた。


「ブロンに負けないぐらい大物だったな。」

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