第24話 【ヴェルトとヴィオラ兄妹】後編

大笑いしながら畑の畦道を歩く体躯のいい集団に

村人が何事かと注目していた。ジョーンヌが笑い

ながら耐え切れずヴェルトの肩を叩いている。


「ヴェルト、お前に似て威勢がいいな。」


「すまない、妹なんだが姉みたいにしっかりした

やつなんだ。近所の子供達もやたらと面倒見るし、

ニュイ様を見たら庇護欲なのか血が騒いだんだろ

と思うんだが、ちょっとやり過ぎだったかな。」


流石に気にしてヴェルトは隊長となるブロンを見

るが彼も楽しそうに笑っているのだ。


「いや、助かるよ母では確かに身体が持たなかっ

たよ、俺の配慮の無さで大変な事になってたと想

像出来る。君に妹がいた事、来てくれた事は感謝

しなきゃならないぐらいだ。何より彼女なら母も

安心出来る。」


隊員隊も笑いながら。


「確かにニュイ様を見た時はびっくりした。」

「確かに母親にしたら若過ぎるからな。」

「美人だしな。」

「ヴェルトの妹も美人だな。」

「目の保養でありがたい恋人はいるのか?」


「いや、縁がないみたいで…」


「美人だが、兄貴を蹴るのさえなければな並の男

じゃ太刀打ち出来ないだろ。」


「そ、それを言わないでくれ。」


兄としては妹は美人で器量も良いのだが、少々男

勝りな所がある。早くに母親が亡くなって城を仕

切って居たからだろうし、兄が頼りなかったから

とも言えるから。ヴェルトが頭をかいて困って妹

に申し訳なく思う。これでは更に結婚相手が…、


「でも、しっかり者だから嫁向きですね。」


「そうだろ!素直で裏表無いし、良い嫁になると

思うんだよ。」


嫁向きと言ったのはグリだった。その言葉にヴェ

ルトはホッとする、兄としては可愛い妹だ褒めら

れるのはやはり嬉しいのだ。グリの表情をみなが

らジョーンヌとブロンが何となく目配せしたのだ

った。


ブロンが領地内の村長に相談したら、すぐに兄妹

の多い家族達から喜んで来てくれる事になった。

なにせ、ヴェール家の領地だがブロンシュは畑の

手伝いも喜んでしてくれるし、何かと気にかける

領主なのだ。だから逆に人手を欲しがってほしか

ったと笑われる程だった。


また連れて来た子が、可愛らしいふたりだったか

らヴィオラがとても喜んで。


「まあ、よろしくね!ヴィオラよ。こちらはニュ

イ様ね。」


「リラとフルーです。よろしくお願いします!」


「早速だけど、ゴッツイ男達の食事から作りまし

ょうか。」


「「はい♪」」


ヴィオラの上手な仕切りで家事は一安心となる。

部屋割りも落ち着き一旦は平穏なブロン城だった。





いつもの朝だ、朝食後に鍛錬だと用意をする中、

弓を背負うと髪の毛が当たり気になったグリが髪

を掴んで唸っているのだ。それを毎度見るジョー

ンヌは呆れながら。


「グリ、また髪に手こずってるのか?女みたいな

長い髪だから切ったらどうだヴェルトぐらいに。」


「一度切った事あるけど、兜被ると後が大変だっ

たからな…ジョーンヌやブロンみたいにクセがあ

ると良かったよ。んー絡むしやっぱり切るか。」


グリは自分の髪にため息をついた、サラリとした

灰色の髪を掴んで毎度苦戦し、面倒臭くなると切

るといった感じなのだ。いつもの様に一括りにし

てナイフを出していると、


「待って。綺麗な髪だもの編んであげる。」


通りかかった、ヴィオラがグリの髪をささっと三

つ編みにしてくれたのだ。


「はいっ、言ってくれたらいつでもしてあげる。」


そして肩をポンと叩いて洗濯籠を抱え、リラとフ

ルーと一緒に外へと行ってしまった。

その後ろ姿をじっと見つめるグリにジョーンヌが

額をベシッと叩いていた。


「護衛から出たが日課の鍛錬はするぞ。ぼんやり

ヴィオラ見てないで、好かれたいなら鍛えろ。」


「えっ?ヴィオラは体格良い方が好きかな。」


「…あー知らん、ヴェルトに聞いたら、…」


「そうだね!」


グリは素早く立ち上がり、ヴェルト!と探しに行

ってしまうのだからジョーンヌは唖然と立ち尽く

す。ブロンが通りかかりどうしたんだと来たから

説明したのだ。


「へー、嫁向きと言ったのはやっぱり本心か、い

いんじゃないか?ヴィオラと恋仲になるのも。

グリも適齢期だろうし。」


「まじかよ、ヴェルトが怒るんじゃないか?」


そうかな?と呑気なブロンだったが、ジョーンヌ

は心配だった。仲間内で女を挟んでの揉め事はウ

ンザリするほど見て来た、いや兄妹は違うか…、

でもとやはり心配になる。


剣を振り回していたヴェルトを見つけたグリに突

然の質問だったが笑顔になる。


「妹が気になるって!嬉しいな。好み?うーん、

分からないな。」


ブロンの読み通りにヴェルトは喜んでいたが役に

は立たず、グリは悩みながらも基本回りくどい事

は嫌いなので、さっさとヴィオラに聞いた方が早

いと直接聞きに行くのだ。


「えっ?私の好みのタイプですか?」

「そうです。」


「…考えた事も無かった。そうよね〜う〜ん、

どうしよう。考えておきます」


ヴィオラは微笑んでその場を去り、さっと台所に

入って。固まってしまうのはリラとフルーにニュ

イが居たのだ。そして当然話しが聞こえていたら

しく笑みを見せる。


「ヴィオラさんたら、わざとですか?さすがです

ね!」

「あしらい方がかっこいい!」


「あっ、いや、本当に好みって分からなくて…、

グリ様も何で聞いてきたのやらで…。」


リラとフルーの言葉に戸惑うヴィオラなのだ、ニ

ュイが笑って。


「あら?彼、多分貴女に一目惚れよ。」

「はぁ?!私を?」


リラとフルーが納得しながら、分かる気がします。

グリ様って静かで真面目なタイプだからしっかり

者のお姉さんタイプが好きそうですね!と楽しそ

うに話すからヴィオラの顔が真っ赤になる。


「そんな、だって私みたいなタイプはキツイから…

普通可愛いリラとかフルーなんじゃ…。」


ふたりが顔を見合わせて、同じ様に顔の前で手を

振りながら笑う。


「多分、まず可愛いより美人のヴィオラさんが好

きなタイプですよ。」


「うんうん、しつかりしたヴィオラさんに押し倒

されたい感じ。」


「そう、キツイ感じで責められたい!」

「うん、尻に敷かれたいんですよ。」


とリラとフルーに言われて、想像して益々真っ赤

になるヴィオラにニュイがそっと背中を撫でて。


「あなたは彼の事はどう?真っ正面から聞くのっ

て勇気あるわよね?ヴィオラに回りくどい事は駄

目だと思ったんじゃないかしら。」


「…あの、少し、頭冷やして来ます……」


静かに台所から出て、部屋に入って自分のベッド

に座って考える。ヴィオラにとって初めての事だ

った異性に好意を持たれる事態に心臓がおかしな

事になってしまう。


今まで、好かれた事がないから……分からないか

らどうしよう…だって彼、結構モテそうだもの、

何故私なの?リラ達が言ってたけどまさか…。


そんな事を考えて居るとドアを叩く音に心底びっ

くりして、声が裏返ってしまった。


「はぁ、あはい‼︎」


扉の向こうから話しかけて来たのはグリだった。


「さっきはごめん。気になって聞いた方が早いと

思っただけなんだ。無理に考えなくて良いですか

ら、忙しいのに申し訳なかったですね。では。」


気遣う様に話し、すぐに足音が離れるからヴィオ

ラは慌てて立ち上がり扉に向かって話していた。


「ああっ、あの、本当に分からないの聞かれた事

も無くて…その…男性は兄しか分からなくて、、」


何故か引き止めたくなったが何を言ったら良いか

分からずに言葉を何とか出す有様だった。それで

も扉の向こうの足音がパッと戻って来た。


「そうですか!んーじゃあ、簡単に僕みたいなの

は好きか嫌いかで言うとどっちですか?」


「きっ…」

「きっ?!」


「嫌いじゃないです…。」

「本当に!よしっありがとう。鍛錬します!」


ダダダダダッと忙しそうに走り去る足音。慌てて

扉を開けると通路向こうの外への扉が開いたまま

で、木々の近くに居た他の隊員達の輪に入って行

くグリが見えた。

ヴィオラは初めて男性と話して心臓がドキドキし

て言葉に詰まるのを知ったのだ。でも、本当に私

の事を?とすぐに疑う気持ちが膨らむ。女性が少

ないから誰にするかの罰ゲームなのでは?きっと、

本気じゃないのよ、うん。と何故かそうヴィオラ

は自分を納得させて家事に戻っていた。


その後なのだが…ジョーンヌにブロン、ヴェルト

は見事な程グリを気にしないヴィオラに、これは

脈無しだと思い。


「グリ、残念だが諦めろ。ヴィオラは興味無しだ。

ヤケ酒か町にでも行くか?」


ジョーンヌがグリの肩をなでて慰めようとする。


「いや、僕はヴィオラに何かを感じたのは彼女だ

からなんだ。色恋の駆け引きは好きじゃないし中

途半端じゃ彼女にも迷惑、白黒ハッキリさせます

よ。駄目なら諦めます。」


食事を皆に配り終えたのを確認するとヴィオラを

見て、立ち上がったグリは彼女の手を取り。


「ハッキリさせたいので話をしましょう。」


食事場所から出て通路奥の裏口前までグリはヴィ

オラを引っ張って行く。あまりの強引さに驚いた

まま連れて来られ「あの、待って」と戸惑うのを

そのまに、グリはヴィオラ手を離さず笑顔で話し

だす。


「僕は面倒な事は苦手ですから、スッキリさせま

しょう。ヴィオラさんも落ち着かないんでしょ?

2回スプーンを落としましたからね。貴女の負担

にはなりたくないので。」


「……」


「僕はヴィオラさんに一目惚れしたと思うんです。

ハッキリした所、ブロンにも物怖じしない所、し

っかり者の所、僕は好きだと思うんです。」


「思う?」


ヴィオラは平静を装うが、驚く程にグリの存在だ

けで緊張し声が聞こえて身体が震えてしまうのだ。

正直、ハッキリした態度は好きだし、見た目とい

いスラっとした体型も良いと思う。話してから鍛

錬中の姿を見た素早く力強い動き……気持ちが傾

かない人は居ないと思う。

そして、初めて強引に手を引かれてクラクラしか

けての「好きだと思う」の言葉に違う意味でクラ

クラしていた。


「はい、まだ確定じゃないけど嘘はつきたくない

し、だからと言って気持ちが定まるまで待ってい

たら確実に誰かに貴女を奪われます。それは嫌だ

と言う気持ちは強い。これは間違いないですから」


ヴィオラが少々ポカンとしながら頭に手を当てて

クラつく意識で考える。


「要は、好きは確定していないが他の人と付き合

うのは嫌だから?私はどうしろと?」


「まず、僕と付き合ってください。」


ヴィオラがたまらず笑いながら、何だか回りくど

い事になってると笑い出して止まらない。グリも

あれ?確かにそうですね…と顎に手を当て悩みだ

すから、益々楽しそうに笑い出すヴィオラを見て。


「…訂正します。普通に好きです。笑っているヴ

ィオラが可愛い…キスしたいぐらいです。」


そう言ったグリは優しく見つめて、ずっと離さな

かった手を握り締めて来るのだ。その手の暖かさ

にヴィオラが笑うのを止めて、じっとグリを見つ

め返す。


「私も決めました。なら結婚して下さい。

多分、貴方のような人に出会えないと思うから。」


「本当に!」


面倒臭い事も妙な駆け引きも嫌いなグリには願っ

たり叶ったりだった。やはりヴィオラに感じた何

かは間違いじゃ無かったと思うし、美人のヴィオ

ラが可愛いく頷くのだ。嬉しくてすかさず彼女の

顎を持ち上げキスをする。そんなグリに唖然とし

た後グリの手を掴み返して今度はヴィオラが引っ

張って行く。そして兄ヴェルトの元に行くと。


「兄さん、先に結婚していい?多分彼以外居ない

と思うの。」


「ああ?うん問題無いよ。ヴィオラをよろしく。」


その場の全員が「いきなり?結婚」ブロンもジョ

ーンヌもあまりの展開に驚いているのだが、グリ

は嬉しそうに握り拳を引いた後、ヴェルトと握手

するし、ヴィオラを抱きしめている。


「よしっ!ヴェルト、ありがとう‼︎」


話が即決、さっぱりした三人の展開の速さに周り

は戸惑うばかりだった。ただ、ニュイやリラとフ

ルーは手を叩いて「おめでとう〜!よかったね!」

と祝福していたのだった。


グリとヴィオラはこんな感じで即決結婚で一緒に

なったのだった。その後もご覧の通り二人は仲良

くやっている、考えや行動、はたまた好みが同じ

だからか喧嘩さえ周りから見たら惚気なのだ。

リラとフルーがあっという間に結婚したのも仕方

無い話しだろう、何気にイチャつくのは結婚して

からずっとなのだ、ずっとなんだよ…はぁ。

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