第23話 【ヴェルトとヴィオラ兄妹】前編

ヴィオラは兄ヴェルトをとても尊敬はしていた。

兄ヴェルトは学業も剣術も高い評価を持ち、人柄

も他人から悪く言われる要素が無かった。

まあ、強いて言うと体格が良いので少々眉をピク

りとさせただけで相手が黙ってしまうのはある。


そして、母親は病で父親は戦さで相次いで亡くな

ってからは兄ヴェルトが生活の面倒を見てくれた

のだ。

両親亡き後、兄は資産などを考えて今後の生活や

市場経済を理由にしばらくすると、住んだ城もろ

とも侍女達や執事をそれなりの値であっと言う間

に手離していた。

年老いた乳母と爺やとで住むに困らない小さな住

まいに移ったのはヴィオラが15になった頃だった。


「すまないなヴィオラ。両親も居ないし大した城

じゃないのに維持するのも給金を払うのも不安だ

からな、良いだろうか?」


真面目な兄は少々強引な所があるのだが、失敗は

今の所少ないし、生きていくには仕方ない話しだ

から笑って。


「良いだろうか?もう引き払った後で言われても

ですよ。まあ、私も身の丈に合ったこっちの生活

の方が安心ですから大丈夫よ。」


と兄の事後報告にも一つ返事で了承したのだ。

ただ、戦で稼いで来るのは良いが一向に部隊にも

入らず部隊長にもならないのが不思議で聞いたの

だが理由は…。


「う〜ん、尊敬出来そうな隊長が居ないんだよ。」


「なら、兄さんが部隊長になれば?」


「う〜ん、俺は上に立つのは好きじゃない支える

方がいいんだよ。」


「なら…」と話はループするだけだからと諦める

事にした。兄が動きたくなる迄待つしかないのだ

ろうと思う。ただ年老いた乳母と爺やが相次いで

穏やかに天に召される頃にはヴィオラも18になり

ヴェルトは28にもなるから、今度はほっといたら

心配だから聞いたのだ。


「兄さん、いつになったら結婚するの?心配で私

も嫁に行けないじゃない!」


「ん?ヴィオラ、相手いるのか。気にせずに嫁に

行けばいいよ。誰とだ?式はいつなんだ?気付か

なくてすまなかった。祝い金は…」


「いないわよ‼︎」


「は?」


「私じゃなくて、兄さんがお嫁さん貰うのが先な

の!もう28よ?どうするのよ!」


話も強引に暴走する兄に呆れながら聞いたら、顎

に手を当てて考えて。


「う〜ん、実はな身体が大きいとな怖いと言われ

て振られるんだよ、だから俺はもう諦めている。

まあ、俺も真剣に女を好きになれんみたいだから

一生独身だろうな。」


兄の強引な完結にヴィオラは呆れて、ため息をつ

いてしまう。

確かに少々体格の良過ぎる兄だが顔立ちはは優し

げで醜男では決してない、べつに妹の贔屓目じゃ

なく青年時代は結構モテてた。

ただ成人してからは近場の若い女性に避けられる

のは体格が良過ぎるからみたいで可哀想ではあっ

た。(後に…違う理由だと知る)

温和だし女性に強引にも出来ないみたいで、口説

くなんて事も出来ず、それこそ襲いかかる獣みた

いな事ぐらい出来たら…それは不味いわよね。

とにかく、まず夢中になれる女性に出会え無いの

だからなと同情していたら…。


「ヴィオラは気が強すぎるからな、お前はかなり

美人だからな、少しはお淑やかにしないと男が怖

がるんだぞ気を付けろよ。」


前言撤回‼︎


「うるさいわね!お淑やかにしてたら襲われるだ

けなんだからね!」


ヴィオラがプンプン怒りながらも美味しい野菜ス

ープを作りるのだ。口元が少々緩んでいるのは仕

方ないだろう。



数日後、変わらず普通に兄は出陣し、無事帰還し

たのだがやけに興奮気味にある人物の事を話すの

だ。


「凄い奴が居たぞ!若いんだが戦術も動きもいい、

頭もいいんだろう、でな…」


兄が甲冑を脱がずに夢中で話すのだから、よっぽ

どの男なのだろう。


「ふふっ良かったわね、で何処の部隊の人?話は

したの?」


「いや、出来なかったが紋章見たらとある噂の人

物だと思う。部隊にも入ってないみたいだが国王

が直に呼んでるぐらいだったからな…側近になっ

てるのかな若いのに凄いな。」


「凱旋式で挨拶したら話ぐらいは出来るでしょ?」


遠い存在かと残念そうな兄に何となく言ってみた、

パァっと笑顔になって「そうだよな!」と後日楽

しそうに式に行ったのだ。


帰宅後、静かに座る兄に例の若者に振られたのか

な?と慰めようとしたらいきなり立ち上がり。


「ヴィオラ。決めたよ、彼ブロンシュに付いて行

く。」


「あらま、部隊長さんだったのね。了承してくれ

たの?」


「いや、噂で聞いた事ある男だと話したよな。

そのての話題も貴族ウンタラも興味無さ過ぎて恥

ずかしい事に、彼の名前と顔が一致してなかった

んだ。とりあえず式典で目を引く人物に話し掛け

て教えて貰おうとしたらさ何と本人なんだ!

戦さの闘い方といい話し方といい、惚れ惚れする

程の男なんだ。あんな噂は彼に対しての嫉妬だな、

とにかく彼の下に付きたい。男前だし惚れたんだ

よ!明日また口説きに行ってくる!」


何となく兄が妙に浮かれている気がして、ヴィオ

ラは兄さんはもしかして…そっち、いや、それ以

上はと口を噤んで笑顔で応援した。


次の日、どうも振られたらしいがそれでもめげず

に何日も通うのだから、半端ない惚れように妹か

らも笑って「今日も砕けて来なさい!」と送るよ

うになって居た。


その日は、直ぐに帰って来た。そして外には馬車

を呼んでいるのだから何事かと驚く。


「話は道中で話す。

大事な物を纏めるんだ、今直ぐに。」


「はぁ?えっ、うん?」


「ここは引き払う。」


尋常じゃない、厳しい兄の顔にヴィオラは頷き。


「分かったわ、数分待って。」


ヴィオラは本当に数分で必要な物をトランクに纏

めた。馬車に荷物をさっさと載せヴィオラは兄か

ら家を引き払う程の事情を聞いて驚く。


「ブロンシュ・ヴェール?あのヴェール家?

はぁ、ヴェール家の噂を聞いていましたが、まさ

か弟であるブロンシュ様の部隊潰しまでとは…酷

い!兄さん分かった。私は何の問題無いわ兄さん

に付いて行くわよ。」


到着して、ブロンシュ様を見て育ちの良さや人柄

の良さに兄が惚れるのも仕方ないわと勝手に納得

し「兄共々よろしくお願い致します」と挨拶した

のだが…、全員が揃っていると聞いて戸惑う。

ブロンシュの側に居る、歳上には見えるが綺麗な

黒髪の女性しか居ない…侍女なり小間使いは?が

見当たらないのだ。


「あの、部隊が出来たばかりなのは分かりますが

…この城にいらっしゃる女性はそちらのお嬢様…

だけですか?」


「ん?お嬢、ん?いや、俺の母親だが?」


ブロンシュは女性は隣に居る母親だけだから、ヴ

ィオラの言い方に不思議そうにしている。だが他

の隊員となる者達はヴィオラが何を言わんとする

か分かるようで頷いているのだ。


「えっ母親??お姉様じゃなくて?」


隊員達の首は、そうだろうと同意する様に深く頷

いているのだ。


「綺麗な方だろ?」


だが兄ヴェルトだけが妙に笑顔で頷きながら言っ

ているから、ヴィオラは膝を蹴り上げる。


「綺麗なのってニヤけてる場合じゃないの!じゃ

なくて。こんな細腕に、このゴツい男達数人分の

食事作らせるつもりですか?洗濯は?」


「ああ〜そうだった、母上早めに人を集め…」


ブロンが呑気に構えているからヴィオラに火が付

いたのか指示をする声が響く。


「まったく!そのガタイが満足する食事を食べた

かったら最低二人を今直ぐ連れて来て下さい!

お母様は軽い作業だけですから、私1人じゃ無理

ですので二人お願いします。」


綺麗な母親はずっとオロオロしながら、いやお嬢

様じゃないから、侍女だったから、食事も作れる

から大丈夫なのよ…とヴィオラの横に来て言って

いたのだが…ヴィオラの勢いに押されて、いや優

しく諭して流しているのだ。

ヴィオラは母親のニュイを完全に可愛らしい妹扱

いで「お手伝いを後でお願いしますからね」と言

っているのだから、男達は呆気に取られるしかな

い。


「とにく駄目です。立ち振る舞いで分かりますか

らね。貴女は、いやお母様だけでは絶対的に無理

なの。私でも量的に厳しいですから鍋はコレしか

無いの?じゃ他の…んーん?何してんですか!今

直ぐ、口説きに行って来て下さい。」


もう、ヴィオラのニュイに対する態度が可笑しく

て男達は釘付けなのだ。そんな隊員達全員を見据

えてヴィオラは人手探しを早急に行く様に言われ

たが、そう言われても戸惑う男達なのだ。


「えっ?俺達が今から?」

「いや、口説くのは…」


「貴方達がぶら下げてるのは何?男なら、とっと

と行きなさい‼︎そうね、貴方が一番得意そうね。

男前だから先頭で!」


とジョーンヌを指名する。


「くくっ、分かった。」


笑顔で他の隊員達と出ようとしたら、


「ブロンシュ様、貴方もです!貴方も一緒にニッ

コリ笑ったら釣れるんですから、お母様の為にも

さっさと行って下さい。」


「わ、分かった。後、ブロンでいい。」

「分かりました。ブロン様。」


ヴィオラがそれこそ見本の様にニッコリ微笑んで

男達を叩き出したのだ。何だか外の用事から戻っ

たらエライ騒ぎに驚いていた爺さま達(存在感が

消えてしまっていた)何とも勇ましいヴィオラ嬢

に爺さま達は手を叩いて呑気に笑っていた。


後でヴィオラに上手にコキ使われていました…。

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