第22話 友人として

「ちょと待って!ミモザのお腹の子はブロンの子

じゃなかったって、そう言ったのか?!」


話しを聞いてグリが慌てる、いや誰が聞いても驚

く話しだろう。


「ああ、彼女はブロンに襲った奴の名を絶対に言

わなかったみたいだな。ブロンは誰かは見当つい

てる口ぶりだったが…」


ジョーンヌが唖然としながら、


「そんな…まさか、何故その事を誰にも言わずに、

ましてや何で結婚しようとしたんだ?」


「話せるか?彼女の傷をえぐるだけだろう守って

やりたかったんだろうし、大事だったんだろう?

竜の俺でも分かるよ。あれから何年だ?ずっと引

き摺ってたのだって分かる。」


ジョーンヌが震えながら、誰なのか気付いた。


「ブロンに好意を寄せたから…?まさか……」


グリも襲った相手に気付き怒りで震えながら、


「人間が腐り過ぎだ!嫌がらせの域じゃない!兄

弟だろ?母親が違うからか?悪いのは父親だろう

が!何でいつまでもブロンに当たるんだ!」


ジョーンヌが慌ててグリの口を押さえるぐらいに

グリが怒りで叫びそうになっていた。

落ち着け…ブロンが心配すると耳打ちし肩を叩い

てうながすのだ。それでも、グリは下を向いて…


「何でだ…よ……ミモザを連れて来た時さ、あの

困った様な照れた顔のブロンを覚えてるか?

妊娠してるって聞いて、皆がビックリしたよな。

あのブロンが?かって、ずっと茶化して…笑って

祝って喜んで…。でも、二人とも本当は辛かった

んだよな…。それでも、乗り越えようとしてたん

だよ、幸せになろうと…それが、こんな話し有る

かよ、くそっ、」


ガルグイユがふたりを見て静かに話す。


「お前らが居るから、ブロンは耐えれたんだな。

歯を食いしばって耐えたんだな…それに今はネー

ジュがいるだろ?」


ジョーンヌが頷きながら、グリの肩を叩く。


「ネージュは最初からブロンの人柄を分かってい

るもんな。」


「そうだね、ブロンを悪く言ったら睨むんだから

な、弱って歩けない程だったのにさ。」


そう、痩せ細った弱々しい身体だった。今ではブ

ロンをいつも笑わせているし隣りに並んでも違和

感の無い程に健康的になった。そして、あのビュ

クロスにさえ震えながらも噛み付く勢いもあるの

だから。


「ん、今度は皆で二人を守ろう。ブロンが幸せに

なれる山猫の番いを守ってやろう。」


グリもジョーンヌの肩に腕を回しふたりで頷きあ

っていた。優しく真面目な友人を幸せにしてやろ

うと…。




ヴェルトがイチジクを手にしながら、ガルグイユ

達の様子を見ていたのはグリの様子が気になった

からだった。何となく雰囲気で分かりブロンに声

をかける。


「ブロン!兎狩りでもするか?」


「おっ、そうだな。今の兎は肉も柔らかいし栄

養があって良いよな。」


「ネージュが痩せてしまうからな?」

「それを、言うならニュイがだろ?」


何となく、お互いに含んだ突っ掛かりのある物言

いをし合うが、周りからしたらどっちもどっちだ

ある意味惚気に呆れて隊員達がため息をつきなが

ら背を向けて呟き合っていた。


「嫌味なだよな〜。」

「まったくだ、大変だよな毎晩ヘトヘトなんだろ」

「ネージュもニュイ様もきっとな…。」

「拷問なのか…それとも…。」


聞こえてないと思っている隊員達、ブロンとヴェ

ルトが背後から赤い鬼の様な形相で叫び。


「何の話だ‼︎」

「何の想像だ‼︎」


うわーと四方に散らばる隊員達を追いかけるブロ

ンとヴェルト、想像するな!とか叫んでいるのを

離れた位置に居るガルグイユ達が眺めながら微笑

んでいた。


「ネージュは何を連れて来たんだろうな。」


ガルグイユの穏やかな声にジョーンヌは肩をすく

める、グリが静かに呟く


「ネージュが降ってきて、ブロンの心を溶かした

んだね…。」


「グリは詩人か?心を溶かしたかいい言葉だな。」


ガルグイユはネージュを空で拾って、ブロンに託

し心を溶かせたんだったら「誰か俺を褒めてくれ

!」と声に出さない様、心の中で叫んでいた。



「そこ‼︎サボってないで、夕食の食材だ兎狩りす

るぞ!」


兎じゃなくて隊員達を狩ったように両脇に捕まえ

て引き摺る、ブロンとヴェルトにジョーンヌとグ

リが腹を抱えてると、


「そいつらが兎か、そんで調理するのか?男なん

か喰って精がつくのか?」


「だー何でそんな話しになるんだ‼︎」


ガルグイユのいつもの微妙な問いは何故かタイミ

ング良くてブロンが赤い顔で叫ぶし、脇に捕らえ

られたリラの夫がニヤニヤしながら。


「ダメです、精を付けちゃ〜ニュイ様とネージュ

が〜!」



「何ですか〜?」


ニュイとネージュが畑から歩いて来ながら返事を

するのだ。何故こうもタイミング良いのだと固ま

るしかない、ヴィオラ達も来て。


「さっきから二人の名前が聞こえるから気になっ

て来たんだけど用事なの?兄さん食事のリクエス

トなのかな?」


ヴェルトとブロンが静かに脇の隊員達を引き摺っ

て行く。


「まず兎狩りに行く…」


ヴェルトが呟き、去って行く隊員達とガルグイユ

なのだが誰もが笑いを堪えているのだ。リラとフ

ルーが何となくまた夫が変な事言ってなきゃいい

けどと見送った。

ただ、ニュイとネージュは不思議そうに見送り。


「兎狩りってそんなに楽しいのかしら?」

「でもブロンさんとヴェルトさん顔赤いし、声が

小さいから具合悪いんですかね?」


ヴィオラがそれならポルチーニ茸と卵で美味しい

料理作ってあげましょうか!良いですねと女性達

が楽しげに城に帰っていった。




夕食にはガルグイユも兎を狩ったから、いったい

何羽居るんだと豪勢な皿がテーブルに並びポルチ

ーニのいい香りもする。


「兄さんもブロン様も何だか元気無いから栄養摂

ってね〜。」


気遣ったつもりのヴィオラの言葉に二人が両手で

顔を覆って唸り出すから周りがたまらず笑い出し。


「さすが兄弟だ、リアクションが一緒!」


リラとフルーは夫達がやたら楽しそうに言ってる

のに気付いて笑い出していた。ニュイとネージュ

がまた不思議そうにしながらヴェルトやブロンの

背中を摩りだし。


「どうしたの?」

「そんなに具合悪いんですか?」


と本当に心配そうにやっている。


ジョーンヌを始め皆、それすら可笑しくてたまら

ない様子なのだ。途切れ途切れに「栄養を消費し

過ぎた」「いや栄養不足だ」栄養はニュイ様にだ

とか言ってるのだ。見ればブロンと兄の両手で隠

した顔は見えないが二人共耳が真っ赤なのだ…。

色々と理解してやっと気付いたヴィオラが微妙な

顔をしながら静かに食べる事にする。その横では

グリが笑いながらヴィオラの背中を撫でていた。


「まったく…ブロン様といい兄さんといい…」

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