第21話 ブロンの想い

話しの流れで昨日の一件を聞いたガルグイユ、彼

からブロン達に付いてヴェール家に行くという話

になった。


「ネージュの護衛をしてやるよ。オレが一緒なら

風貌で他国の客にも見えるし、奴等も簡単に手を

出さないだろうさ竜だと知ったら腰抜かすだろが

な、安全の為の策は幾らあっても良いし。」


「ほんとですか!心強いですよね。」


ネージュが喜んでブロンを見ると「そうだな」と

微笑んでいた。後の竜達は一旦帰ると言ってネー

ジュと握手してから服を脱ぎ捨てる…。

竜になるとガルグイユに挨拶して豪快に飛び去っ

て行った。


「はぁ、人間の姿と竜の姿って何度見てもビック

リしますね。」


ネージュは脱ぎ捨てられた服を集めてため息をつ

く、言うなれば手品を見せられている様な感じな

のだ。とりあえず竜と言う生き物は恐竜みたいな

物だと思う様にしている。考えたって熱が出て頭

が痛いだけなのだからとネージュなりに物事を省

略して誤魔化しているのだ。そう、考えたって分

からない事は変わらないのだから…。

少ししてリラとフルー達に呼ばれて畑へと走って

行った。ブロン達も果樹園で他の果実を収穫作業

へと向かう、ガルグイユも普通について行くジョ

ーンヌが笑いながら、


「プラムをもぐ、ガルグイユが見れるとは。」

「そうか?べつに畑も耕やすぞ?」


その言葉にグリがびっくりして。


「まさか、ご自分の畑ですか?」


「ん?当たり前だろ、自分の食い物だぞ買いに行

くのか?働くのか?むりだろ。」


そんな人間的な事を言われて、ジョーンヌとグリ

が想像して笑い出す。どうしても今の人間体じゃ

なく竜の姿で買い物してたり、働く姿が頭の中に

浮かび、それらの行動を想像してしまうのだ。


「だーめだ腹が痛い、籠持ってる〜竜が買い物、」

「竜がパン捏ねてる〜爪先で成形してるー。」


「何だ〜お前ら想像力豊かだな。ふふん」


ガルグイユもそれも楽しそうだなと笑顔になりな

がら果樹園が見え、ふと隊員達と話すブロンを見

ながら思い出した。


「そうだ、昨日の話で気になったんだ、聞いても

いいか?」


「ん?何が気になるんだ。」


「ブロンが部隊持つのに何故王の護衛だったお前

らを行かせたんだ?あいつなら直ぐに集められそ

うだが?」


「…ああ、その事か直ぐに集まってたよ。

だがな、兄のビュグロスの奴が金で潰したり家族

を脅したりしたってのを噂で聞いた。ブロンはす

ぐ集まった皆を手放したんだ、渋った奴も当然居

たよ、だがブロンは頭を下げてまで別の部隊に行

かせたんだ。」


ガルグイユは何故か静かに話しを聞き続ける。


「理由は脅しで酷い怪我をしたのも居たからな…

ブロンには耐えられなかっただろう。それで単独

で戦に参加するもんだから腕の立つブロンに声を

掛ける流れは普通だろうな、ジョフロワ前国王が

側近にならないかと言ったら…即断ったんだよ。

戦さの補佐なら幾らでもするからとね。」


「ん、何故、側近を断ったんだ?」


「まあそれはな側近で功績でも上げたらそれこそ、

ジョフロワ前国王ならず、次の国王もブロンを離

さないだろうね。肩書きやしがらみが嫌だったらしいん

だ。ブロンは今の生活が好きだからね俺達と護衛

になるのも誘ったらすぐさま断るんだよね、いく

ら給金が良くても自由がいいと。部隊を持てなき

ゃ持てなくても良し、戦も好きじゃ無いし、別に

農夫で生きて行くつもりだったんだよ。」


「はあぁ〜?あのガタイと腕前で農夫だと、宝の

持ち腐れどころじゃないぞ!」


ガルグイユがこれでもかと言うぐらい呆れるのだ、

それもそうだろうブロンの剣の腕前は国一と言っ

て良い程だ。敵が束になって来た所で意味が無い

と言われた男だ、普段は物腰低い紳士と言われ腹

の中は黒い猛獣だと陰で言われるのだから。


「だろ?それで裏の事情を知った、ジョフロワ前

国王は俺達に話しを持ちかけ、その場に居たオレ

達護衛全員が一つ返事で来たんだ。ヴェルト以外

今居る全員元下っ端護衛、ビュグロスの噂を知っ

ているから念入りに調べた数人だから今の数だが、

見ての通り団結もいいし闘いやすい。

ジョフロワ前国王からの人員だから、さすがにビ

ュグロスは金も積めず。まあ、チラッとでも声を

掛けようと周りの人間探してたら即前国王から呼

び出されたらしいんだ。」


そう、実は元護衛達は身内が居ない者や遠縁だと

かで探るにも遠回りしかない、そうこうしている

と前国王の耳に入る状況だったのだ。


「ジョフロワは最高だな。で、そういやヴェルト

は何処から来たんだ?普通に仲良いよな。」


「ヴェルトは知ってるよな、あのガタイだ奴も実

はジョフロワ前国王が目を付けてた男なんだ。

ただ、ブロンに惚れたか何だかでやって来たらし

いんだ。だがブロンは部隊潰しの件でやんわり断

ってたんだがな粘る奴でな、くくっ。

俺達の訪問で部隊が出来ると知り『仲間外れか』

と煩かったんだよ。説明したら噂の件なら問題無

いと唯一の家族だった、妹を連れてまで押し掛け

たのさ。ブロンも母の為にも女性は有難いからと

受け入れたと言う流れさ。」


まあ部隊に入る云々より、本命はブロンの母親ニ

ュイだったんだがなの説明も加えたら「漢らしい

奴だ」とガルグイユはとても感心していた。


「まあ、ブロンはジョフロワ前国王の現役最後に

なる戦で、ヤケクソに闘ったからなブロンが居な

けば敗戦だと言われた厳しい状況だったんだ。

それもあって現国王からも一目置かれているから

ビュグロスも静かにしているらしい。」


「ああ、それか…女を亡くした後の戦だろ。」


「知ってるのか?」


ジョーンヌとグリが驚く、あの一件についてブロ

ンは何も話さないジョーンヌも口にせずにいた。

誰もが辛くてミモザの話しすらしない…。

ガルグイユは頭を掻きながら口を開いた。


「今回の件も絡むから、話してもブロンは許して

くれるだろう…」


ガルグイユは離れた果樹園にて隊員達と歩くブロ

ンを眺めながら話し出した…。




陽が傾く穏やかな時間、墓石が並ぶ場所でブロン

は長く座り込み動かなかった。ガルグイユが人の

姿で現れ話しかけた。


『誰の墓だ?たまに座り込んでるが今日はやけに

長いな。』


人影で気付いていたらしく動かないまま


『あぁ、ガルグイユには紹介出来なかったな。

ミモザのだ、妻になるはずの女の墓だ。』


『…そうか、まだ辛いのか?』


ブロンと知り合ってから女の話しを聞いた事は無

かったからガルグイユは少し驚いたが深くは聞か

ない事にした。


『分からない…ただ、守ってやれなくてな。俺が

殺したようなものだから…。』


『穏やかじゃないな、理由は?』


ゆっくりとガルグイユの方を見て、また墓石を見

るブロン。


『あんたならどうする?』


『何を?』


『ミモザは妊娠していたが俺の子じゃない…』


『なっ!』


『浮気とかじゃないからな。彼女は襲われたんだ

よ…俺に好意を寄せたから…それだけの理由だ…

それだけで彼女を踏みにじった…。』


『……』


『人見知りで大人しい子だった。それでも必死で

話し掛ける姿が可愛いかったよ。照れながらも自

分から手を繋いでくれるんだ…。』


ブロンが思い出すかのように自分の左手を見つめ


『ミモザに合わせてゆっくり付き合ったよ。姿を

見つけたら、走って来るようになった頃だ。

……

妙な呼び出しの場所に行ったら……ミモザが……

彼女は声も出せず俺を見て震えて居たよ。

ごめんなさいと泣いて…泣いて…そいつを殺して

やるから名前を言えと何度言っても相手を言わず、

ただ俺に謝るだけなんだ…。』


ブロンはただ涙を流しながら話していた、知らず

に涙が出ているんだろう彼女の痛みを思い…。


『苦痛や怖い目に遭ったのはミモザなのに俺に謝

るんだ…だから相手はどうでもいいからとミモザ

を抱き締めて、忘れろと言うしかなかった。

なのに…妊娠してしまった…。それでも、ミモザ

と居たかったから、結婚しようとした、子供も俺

の子供だ。ミモザの子供だから俺の子供だからと

ね。今すぐは無理でも一生かけて忘れさせてやる

から結婚しようと言ったら


ミモザがやっと笑ったんだ…凄く綺麗な笑顔だっ

たんだよ。


なのに…なんで、誰が…

分かっているが、証拠が無い…

俺は彼女を守れなかった……それだけだ、


やっと笑ったのに…俺は……。』


声を上げて泣かないんだよ、泣いていることすら

分からないんだろうが叫ぶ声が聞こえるんだオレ

には。


『ガルグイユ、今回の戦は隣国同士が団結してま で来るらしい集結の規模を考えたら厳しい戦だろ

う。もし、俺が帰って来れなかったら…

ミモザの隣りに眠れたら花でも置きに来てくれ。』


『なんだそれは!死にに行くつもりか?

ふざけるな!仲間と蹴散らしに行くぞ‼︎』


『そう言うか、くくっ、嘘だよ。厳しい戦さだが

国王を負けさせたくはないからな。ガルグイユの

一括を胸に死に物狂いで闘うよ、すまなかった。』


『当たり前だ、命を無駄にする気ならマジで蹴散

らしにいくからな、いや見張るぞ。』


『見張るのか?裸で?』


『あのな?狭い墓地を竜の姿で歩いたら墓石倒し

てしまう慰めに来てやったんだろうが。今から倒

しながら歩いてやろうか?』


すまない!悪かった、立て戻すのが大変だからや

めてくれ、と笑い出したブロンの姿が今の姿と重

なる。穏やかに笑いながら果物を手にするのブロ

ンを見ながらホッとするガルグイユだった。

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