第19話 つい、うっかり…

「ビュグロスの奴は女と見たら見境い無い、容姿

が良ければ尚更、執念いしな…」


ジョーンヌが苦々しく呟くのが聴こえて、そうだ

ったと意識を戻したブロンだった。


そう、ブロンが贔屓目で見なくともネージュは美

しい。元々可愛らしい容姿だった、食生活だろう

か安心からなのか止まっていた成長が動いたのか

分からないが、女性らしい肉付きになり色香を漂

わせている。透き通る白い髪が幻想的だからなお

美しい妖精の様だと言っても大袈裟では無い。

自分と同じ様に現実に触れれるなら手にしたくな

るだろう、見境ない奴なら尚の事…


「父の事は分からないが城に呼ぶのは口実なのか。

一番の目的はネージュだろうか?」


ブロンが考え込む様に膝の上で肘をつき、両手を

握り口に当てているのは不安を物語っていた。


「そう考えた方がいいだろう。態々ここにまで来

たぐらいだからな、確実に品定めだろうよ。」


ジョーンヌも呟いた後、拳を口に当て何かを押さ

えるように歯を食いしばっているのだ。とにかく

何か分からない不安ばかりが二人の中で膨らむの

だ。それでも行かなければならないと感じるブロ

ンだが、気がかりな事が一つあった。


「ただ、ニュイを連れて行くのは酷な気がする…」


「それなら大丈夫だ、俺も一緒に行くよ。」


いつの間にかヴェルトが近くにいたのだ。


「ニュイも行くと言っているんだ。グリソンとの

事をキチンとしたいらしい。」


色々と話しあっているのだろうヴェルトの表情は

穏やかだ、母も彼を信頼しこの先の人生を考えた

のかも知れない。ブロンは微笑んで


「なら、ニュイは任せた。いやお願いするよ。」


立ち上がって「お兄様」とブロンがヴェルトの肩

を叩くから「やめてくれ!」と渋い顔をしたから

ジョーンヌも笑いだしていた。


ふっと空が黒くなる程の影は、ガルグイユだが数

頭連れての訪問は久しぶりだ、大きな巨体が静か

に地面に降りるとすぐさま人間体に変わる…、

皆裸だがな、そしてすぐに出た言葉は。


「ブロン、早く服をくれ。」


その場にいた人間全員が吹き出したのは仕方ない、

今まで恥ずかしがった事がなかったのだ。一応ガ

ルグイユには服を着る習慣は有ったがネージュに

恥ずかしがられて騒がれた事はかなりの衝撃だっ

たらしいから慌てて服を着ているのだ。

理由を知った他の竜がびっくりしていたのだから。


「長?今まで騒がれても

平気だったでしょう?どうしたんですか?」


「うるさいよ、

お前達も服を借りろ。ネージュが騒ぐ。」


「ネージュ?」


ヴェルトが笑いながら他の竜達に服を渡しながら


「ガルグイユ、用事は?補佐も連れてくるぐらい

の用事があったんでは?」


「あっ!それなんだが…」


その場でガルグイユ達の話しをブロン達は真剣に

聞いていた。半ば半裸の竜達と共に…、




賑やかな声に目を覚ましたネージュ、窓の外を見

ると銀色の髪が見えた。


「ガルグイユさん!」


慌てて、二階から駆け落ちながら外に出て来て、

銀髪の背中に抱き付いていた。


「ガルグイユさん、この間は背中に乗せてくれて

ありがとう!」


「ん、いや。いつでも乗せるよ!」


声が違う方向から聞こえ、見れば桶の中で葡萄を

踏みながらガルグイユが笑って手を上げている。

他にも銀髪の人が居るし、ネージュがあれ?今抱

き付いている人は?と気付いた。


「ガルグイユさん身体を何体にも分裂出来るんで

すか?」


「何だそれは?そいつはオレじゃ無いよ、ペルー

ダだ。」


抱き付いた銀髪の人が振り返るとガルグイユと違

って女性的な顔と言ったらいいのか分からないが

美しい笑顔で挨拶をする。


「初めまして、ペルーダと申します。」

「は、初めまして…ネージュです。」


「どうしました?」

「天使かと…」


人間に抱き付かれるのも初めてなのだが、随分と

綺麗な子だし、瞳をキラキラさせながら見上げら

れるのは、中々心地良いのだ。


「……長、可愛いから連れて帰っていいか?」


ブロンが慌てて駆け寄り、ネージュをペルーダの

身体から引っぺがして抱き抱えて叫ぶ。


「駄目だ!俺の番いだ!」


「……ぶふっ」


またもや必死になるブロンにジョーンヌとヴェル

トが盛大に吹き出す「つがいって…」リラとフル

ーも笑いながら「山猫の番いね」とからかいだし

皆が爆笑するなか


「番い?って何でですか?」


抱き抱えられたままネージュがキョトンしてブロ

ンに聞くが面白いぐらい真っ赤なのだ。ネージュ

は何故か面白がってるのだ。


「おれの『番』って何です〜♪」


とやっているから。周りは腹を抱えてしまうのだ。

何ともお似合いの似た者カップルだなと、呆れた

ガルグイユが大声で


「ネージュは俺の嫁だと言ってるんだよ。」


「えっ?えっ?でも、それは…」


ネージュは一瞬困惑してからガルグイユを見て周

りを見て、ブロンの顔を見て「え…」と呟いてか

らブロンのにしがみ付いたままになる。


「ええ〜竜の子じゃないんですか?髪色、え〜人

間なの?オレ番いにしたかったな。」


「相手が居なかったら俺が番いにしてるよ。」


ペルーダとガルグイユが笑う中、オリブルとギイ

も笑いながら。


「なるほど、長が恥ずかしくなる人間か確かに綺

麗な子だな、残念でしたね。」


「うるさいよ…。」


そう言った、ガルグイユのちょっと残念そうな顔

に補佐達が更に笑っていた。「番=夫婦」とネー

ジュは理解はしている、ガルグイユとの話でもあ

って少しだけブロンと喧嘩したのもある。だから

笑い話し的な「番」と言う単語だった。

けれど、違っていてブロンが自分との仲をそう言

ってくれた事が嬉しくて抱きついていた。そして

ブロンの困った様な恥ずかしそう声だ。


「その、ついな…」

「番い…ふふっ、嬉しい。」


と呟いてぎゅっと抱きつくから胸が熱くなってネ

ージュを一層優しく抱き締めて居た。

ペルーダがそれを見ながら、女性らしい優しい顔

で口を尖らせ、


「なんかムカつくから、葡萄の桶に投げ入れたく

なるな!」


ジョーンヌとヴェルトが驚き


「竜をムカつかせているよ、さすがネージュだ!」

「確かに、くっくっ。」




何も知らない、ヴィオラとグリ達が収穫した葡萄

を抱えて城に向かって戻っていたら、何やら賑や

かなのだ、そして見えるのは…飛び交う葡萄!?

葡萄を投げ合っているのだ。


「…ガルグイユさん達まで何やっているの?」


「カスとか皮を投げているみたいだけど凄いな!」


「本当に、青い葡萄だからまだいいけど、シミに

なっちゃうじゃない…。」


それでも、楽しそうに皆が笑いながら桶の周りで

投げ合っていたのだ。



で、お開きになるきっかけだが少しして、カスを

踏んで滑ったネージュをブロンが慌てて城に戻さ

せるのた。ガルグイユが静かにブロンに近付き…、


「なんで、履いてないんだ?」


とニンマリ笑うからブロンが必死で口を塞いだが

……背後にジョーンヌが来て。


「慣らしは必要だが履かせろ。」

「隙あらばですか?」


ヴェルトまでが呆れながら笑うし、気になった

ペルーダがすぐさま聞いてくる。


「慣らしとは何故だ?」


即、ジョーンヌが経緯と状況と進行状態をバラし

てしまいブロンが女の様に叫んだのは仕方ないと

思う。オリブルとギイが静かに騒ぎを見ながら

「人間も大変なんだなぁー」と呟いている。




その後、ヴィオラとグリは、じい様達と静かに片

付けをしながら


「ブロン様も結構な、、そんなものなんですね…」

「いや〜普通の男ですよ、くくっ」


じい様達も笑いながら


「ん、普通じゃな手を出したくて堪らんかろ。」

「ん、まめにしないと、すぐ塞がるぞ、フッフッ

フッ。」


じい様の発言に二人は呆れて、まったくじい様達

まで元気になっちゃったわと笑い出していた。

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