第16話 ヴェルトの粘り勝ちの話し

ヴェルトはブロンシュと言う男を知った時の事を

思い出す。彼が部隊を持つ前、ある戦後いくさあとの凱旋式

で出会ったのだ。偶然だった何となく目を引く男

だとヴェルトは挨拶をしたのだ、名前を聞けば武

勲で父親の名を知らない者は居ない程だし、母親

の事で貴族間では有名であった。そして兄がいる

が良い噂の無い人間だった。

そんな噂話がいつも何処からともなく聞こえて来

るのだが、彼は関係無いと言うか、だから何だ?

と堂々した男なのだ。戦での功績も凄いし、とに

かく面白い男と思った。何より随分な環境でも捻

くれもせず真面目で誠実な奴なのだったから惹か

れたのだ。


こいつは支え甲斐がある!

そう思いブロンシュに申し出たが随分と振られ続

けた。だがヴェルトの執念は半端無かった、やっ

とブロンシュが根負けして城にも招いて貰える様

になった。ただし部隊云々は抜きでと言われてだ

ったが理由はのちに分かった。


そして、まさかヴェルトにとって女神が待ってい

るとは夢にも思わなかった…。


初めて会った、ニュイに一瞬にして惚れてしまっ

たのだ。ヴェルトはブロンシュより年上だが、そ

れでも母親であるニュイはヴェルトより当然年上

になる…けれど、ウェーブのある柔らかな黒髪で

笑顔の綺麗な彼女に釘付けになってしまう。

ブロンシュの母親?姉ではと思うほどの若々しさ

と美しさなのだ。だが隊長となるブロンシュの母

であるからと一旦は気持ちに蓋をしていた。


部隊を無事結成出来るとなり、ヴェルトは妹を連

れてブロンシュの城に住む頃には「ブロン」と通

称で呼ぶ仲になっていた。彼に信頼される頃には

ニュイとの距離も苦では無かったのだが…。


ブロンとミモザとの結婚に一番喜んでいたのはニ

ュイだった。それに妊娠していたから孫!とはし

ゃぐ程だった。ヴェルトはその幸せな笑顔を静か

に見守れるだけで良かった。

だが、まさかミモザが亡くなる事態になるとは誰

も想像出来ない事だ、当然ブロンは苦悩の日々の

中、ただ自分を責め続けるだけだった。


母親が悲しんでいる事を分かっているからとニュ

イの前で強がるブロンなのだ。そして息子の為に

何も出来ずに居るニュイが苦しんでいるのを放っ

て置けなかった。

弱ったニュイに付け入る形であるかもしれないが

止められなかった。好きである気持ちを知って欲

しいと押し付けてしまう、ただ悲しみを癒やした いと抱き締めるだけで最初は良かった。


そう、ブロンがネージュを連れて帰った事や大事

に思い始めた事で誰もが安心する様になる。


ニュイがただそれを楽しそうに見つめるから…

歯止めが利かなくなって…まさか、木の上が部屋

になって…ブロンが近くに居ないのをいい事に…

ニュイを抱き締めるだけじゃ足りなくなって。


「もう、許して欲しい。貴女を抱きたい、

ガキだからと笑われてもいい、ニュイお願いだ。」


「どうして…若い子を探してくれないの?

貴方と変わらない子供の母親よ?いい加減目を覚

ますと思ったのに。」


「無理なんだ他の女じゃ。だったら、つまらない

女だと思わせてくれ。」


強引だと思うし、ガキが駄々を捏ねているだけだ

とも言える。それでもブロンが幸せな今しかチャ

ンスはないと泣きそうなニュイを押し倒したのだ。

嫌われたくは無いが他の方法が分からない、それ

でも拒まない唇を重ねたら涙が溢れる。もう彼女

以外無理なんだと心底思った。押し倒しながらも

抱き締めて泣いてしまうだけのそんな俺にやっと

嘘じゃ無いと彼女は受け入れてくれたが…


まさかブロンが同じような事になるとは…


「…ニュイ?本当に子供産んだの?」


必死で頷き「ヴェルト…無理…」それなりの流れ

でようやく彼女の中にと、だが入り口でキツくて

驚き、見ればニュイも必死で堪えているのだ。

慌てて抜いた瞬間、全身で息をして涙目で困った

様に腕の中で言うのだ。


「多分貴方が…その…大き過ぎなんだと思うの…

言われた事無い?子供産んだ私でも厳しいもの、

何だかまた産まれそうだったわ。」


と恥ずかしそうに笑った。そんな彼女を飽きる理

由も嫌う理由さえ無い、何よりつまらない要素が

無くて毎晩押しかけていた。彼女と一つになりた

いから…。


その後はニュイも色んな意味で根負けした形でブ

ロンが幸せになっても「変わらず好きであるなら

一緒になってもいい」と約束する事が出来た。

それこそニュイが離れたくなくなるまで身体に刻

むつもりで抱いたら。


「私を壊すつもり?」

「壊すより、一体化したい程に離れたく無い。

毎日一日中繋がりたいんだ。」


「…私も…」


そう言って涙をこぼして貰えた時は嬉しくて抱き

締めながらずっと愛してると囁き続けたら、


「ねえ、私の名前が愛してるて名前に思えてくる

からやめて。」


そう言って腕の中で笑うから可愛くて仕方なくて

一生愛してると言っても足りないと思えた。


彼女との逢瀬が幸せだから戦さの間は辛かった。

グリが妹に会いたいとため息をつくから笑ったが

同じ気持ちだと知って笑っていたのだ。


帰りは、ブロンと同じぐらいの勢いで戻りたかっ

たのだが、ぐっと我慢する帰り着けば彼女の笑顔

を見て一気に安堵感が広がる。そして深夜にニュ

イを抱けると貪ってしまう。


「疲れてるんでしょ…」

「ニュイを抱くと癒されるから大丈夫だ。」


まあ、自分の身体の疲れが消える訳では無いのだ

が、抱けば抱くだけ幸せで眠る事さえ惜しくなる

のだから彼女にどれだけ溺れているのやらだ。

結局ニュイが気絶するまで抱いてしまうのだから、

ヴェルトも朝までには自室に戻るつもりが体力を

使い果たし、柔らかなニュイを抱いて眠り込んで

しまったのだ。

翌朝ブロンと鉢合わせしてしまい、固まるも彼は

笑顔をみせ見なかったアピールにはつい吹き出し

てしまう。その理由にニュイも気付いて赤くなっ

たり青くなったりする顔も可愛くてたまらなかっ

た。


ただ食事中、ブロンのニヤリ攻撃が続くのには

さすがに動揺した…



少ないヴェルトの荷物だ、簡単に引っ越しが終わ

り「早いが、新婚さん。ごゆっくり!」と言うブ

ロンがとにかく楽しそうで、嬉しやら怖いやらだ

った。


「ブロンたら…どうしたらいいの。」


母親としては息子の行動に戸惑うのも分かる、そ

のニュイがヴェルトを見上げる顔を見て、安心さ

せる行動はこれだろとキスをしてから、つい本音

がもれる。


「ただごゆっくりしたい、ニュイの中で。」


真っ赤になるニュイを見ながら、もう昼間だろう

が皆の前でも遠慮なく抱きしめれる喜びしかなか

った。当然、部屋が一緒なら…。


「…昨夜あんなに離してくれなかったのに?」

「分かってる、それでも離したく無いし嬉しくて

暴走しそうなんだ。ニュイを壊しそうなぐらい」


そんなヴェルトの幸せそうな顔にニュイも耐え切

れなかった。愛されてる幸せに自分からキスをし

ていた、初めての事だからヴェルトがビックリし

ている。


「私が暴走しそうだから…止めて。」

「…無理だよ、今ので止まらなくなった。」


ただ、ニュイの声が漏れないよう気をつける。

まだ午前中だし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る