第10話 拗らせたのか?鈍いのか?
仕切り直して、食堂で皆が聞いた話はこうだった。
奴隷用か分からないが人間狩りは横行している様 で戦さ中だろうが平常時だろうが関係無く起きて
いるようなのだ。人間になって捕まった竜はまだ
若いらしく小さな祭りに遊びに行った際、上手く
元の姿に戻れず捕まったと仲間からの伝え聞きら
しいのだ。ただ随分と手際の良い連中らしく連れ
去りを気付く人間は少ないと言う事だ。
「ネージュを捕まえて追ってたのも同じ奴らか、
関係者かもしれないな。」
「情報や件数が少ないのは、ネージュの様に身元
が分からない他国の者や独り身と言う事か。」
「なるほど、ネージュの記憶では多数捕まって居
た見たいだからな、だとすると……。」
とにかく情報が少ないなと議論する中、奴隷商人
に追われていた話しを聞いてガルグイユは飲み物
を持って来たネージュをじっと見て。
「お前、よくあんな高さ飛んだな?あの高さだ足
がすくんで動けなくなるもんだ、理由はどうであ
れ凄い根性だが二度とするな。」
と言って微笑みネージュの頭を優しく撫でた。
ブロン達は難しい顔で話を隅で続け始めたので女
達は気にせず食事の支度をする事にした。野菜を
切りながらネージュがヴィオレに聞いた。
「ガルグイユさんは竜ですよね、ブロンさんとは
どういった知り合いなんですか?」
「ふふっ、気になるよね。ブロンが部隊を持った
ばかりの頃の話になるわ、戦さに巻き込まれた竜
を助けたのよ。まだ、子供の竜だったから小さく
てね興味本位で戦さをウロついたらしくて泥だら
けだったらしいの、だから犬と間違われて敵の兵
士に殺される寸前の所を助けた訳。
見れば鱗に羽があるから皆怖がって、森に逃がせ
ば大丈夫だろうってのにね。叫んで竜達を呼んだ
のよ、『子供の竜はここだ‼︎』てね。
そしたら、驚く程の速さで飛んで集まって来るで
し、
達に向かって『人間のくだらん戦さで命を無駄に
するなと教えとけ‼︎』って怒鳴ったらしいの。」
ヴィオレがびっくりした表情を表現しながら話す
のは兄達らがその場で相当驚いてたのだ。それは
そうだろう敵が怖がって逃げ出すぐらいだ。なの
に戦中にも関わらず竜達に説教するのだから。
「兄さんもジョーンヌもグリも慌てたって、だっ
て竜だもの怒らせて踏まれたら一発で死んじゃう
でしょ?でも、ブロンはちっとも怯まなくてね。
『こいつの親は誰だ!親から教育だ!』ってね。
ガルグイユが呆れて笑い出したらしいんだけど竜
だから咆哮にしか聞こえないでしょ。だからまた
ブロンが怒って『偉そうに威嚇してる場合か‼︎』
だって、話しを聞いてるだけで震えたわ。
でも、ガルグイユ達数人が人型になって咆哮が笑
い声に変わりながらお礼を言ったそうよ。
『笑うとは失礼だったな、命を無駄にせずに済ん
だ同胞を助けてくれてありがとう。親に代わって
礼を言うよ。』
それからの仲ね。竜はなるべく人とは争いたくは
ないみたいで今は長であるガルグイユを筆頭に相
談に来たり遊びに来たりしてるの。」
ネージュはなるほどと思いつつ、ブロンさんだっ
て怖がってなかったじゃないのと妙な所で突っ込
んでしまう。ただガルグイユさんも「命」を大事
に思っているのだ。崖から飛び降りた事を二度と
するなと笑って言ったけれど…怒られたんだなと
分かった。
「命を無駄にするな」ブロンさんと同じ考えなん
だとガルグイユを見てるとネージュの視線に気づ
いて笑顔で手を振るのだ。つられてネージュも笑
顔で手を振り返してしまう程いい笑顔なのだ。
「ガルグイユさんって人懐っこいですよね。」
リラとフルーが何言ってるのといった顔でびっく
りしながら、
「全然!ネージュだけよ。」
「そう、オタオタさせるのも凄いわ。」
「だって裸ですよ?びっくりしますよ。」
ネージュが思い出して真っ赤になる、正直父親の
裸だって上半身ぐらいしか見た事が無いのだから、
それが全裸だとある部分もしっかり見てしまった。
そんなネージュの反応にヴィオレとニュイが少し
離れてから。
「ニュイ様…。あの暴行されていたなら、普通は
嫌悪しますよね?怯えたりとか。」
「ええ…どう見ても、恥ずかしがってるわよね、
それって……。」
二人が顔を見合わせ「未遂なんじゃ!」と笑顔に
なる。そしてネージュを二人が急に抱きしめるか
ら何事かと混乱して、何?何です?と二人に聞い
ても笑顔で抱きしめて来るだけなのだ。
ニュイもヴィオレも、ただネージュに女として嫌
な事が起きていなかった事が嬉しくて仕方なかっ
たのだ。抱き締めたままヴィオレは笑って。
「よーしまず、グリ達に上半身裸でいてもらおう
かな?ネージュが男性の裸を見慣れる様に!」
「えっ!?いいですよ嫌です!結構です!たまに
お風呂の後とか裸だから見慣れてます多分、だか
ら服着させといて下さい!」
そう、今の暑い時期の為わりと隊員達は上半身裸
でウロウロしている。一応気にせずに居たが言わ
れて意識したら……考えたら皆んなガルグイユさ
んと同じ筈だ、当然ブロンさんも……。
真っ赤になって恥ずかしがる姿が可愛いし嬉しく
て二人がますます抱きしめる。リラとフルーが不
思議そうにしながらも笑いだし。
「もう、ヴィオレ様もニュイ様もネージュが可愛
いんじゃないですか〜」
「遊んでないで支度しないと夕食出来ませんよ?」
台所では楽しそうな笑い声が聞こえるとブロンは
何と無く視線を向けていた。他の女達と変わらな
い背格好になったネージュに微笑み、母と楽しそ
うにネージュが話している姿に目を細めるが何故
か胸が痛くなるのだ。
「ん?胸どうかしたか?」
ブロンが胸を押さえる様な仕草にガルグイユが気 付く、そしてブロンの肩に腕をグイッと回して耳
元で尋ねた。
「で?彼女はいつ嫁さんになるんだ?」
「はっ?だ、だから違うと……。」
ブロンが胸に当てた手の上をポンポンとガルグイ
ユは軽く小突き。
「まったく…お前という奴は。まあいい、あの子
気をつけていろよ。なるべく他所の人間を近付け
るな。あの容姿と若さだ標的になり易い。」
「それは分かっている。大丈夫だ。」
「ん〜そっかならいいが…。でもなぁ〜うーん。
決めた俺の番いにしよう!白い髪と銀の髪でお似
合いだろう?」
「えっ、つ、番い?ネージュを?」
「嫁さんにならんのだろう?素直で可愛い娘だ。
大事にするよ。」
あっえっ?といきなりの話しにどうしたらいいか
分からないブロンをそのままに、スタスタとネー
ジュの元に行くのだ。そして、何かを話すガルグ
イユに一瞬戸惑いながらもすぐにネージュは何度
も頷いている。
こちらを見ながらガルグイユが何かを言ったら、
ネージュが小さく手を振り笑顔を見せるのだ……
まさか…。
ガルグイユも一緒にと夕食を賑やかに過ごす。
だがブロンは夕食の間中、ネージュが行ってしま
う事ばかり考えていた。ガルグイユの番い……、
つまり嫁?妻?伴侶、どれも一緒じゃないか、思
考回路がただグルグルして何を考えたらいいのか
分からなくなる。
いや、俺よりガルグイユの方がいい…
強いし、立派な長でもあるし、
人間にもなれる…俺より、ずっと、
いいはず…なのに、
胸が痛い、ギシギシと軋んで痛くなる……。
「ブロンさん?」
「えっあっ、何だ?」
「食欲無いんですか?難しい顔してるから具合悪
いんですか?」
隣りに座るネージュが心配しながら腕を撫でてく
れるが触れた場所から、沁みる様に切なさが広が
るのだ「なんでもないよ」とどうにか言って誤魔
化したが、その小さな手が離れて行くから慌てて
腕を掴んでしまう。
「どうしました?パン取りましょうか?」
「あっ、いや、うんそうだ貰おう。」
どうしたらいい……。
夕食後、片付けを待っていたガルグイユの元に駆
け寄るネージュの姿を目で追う。
「終わりました。」
「そうかでは行こうか。じゃっブロン連れて行く
な。」
「ああ…、」
笑顔のネージュがそのまま玄関へと歩いて行く、
楽しそうな声が扉向こうへと消えてしまった。
胸の奥の何かがはち切れそうになって耐え切れず
走って二人の後を追いかけていた。
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