第8話 守りたい存在
夕食には意中の女性を口説きに隊員の二人が居な
かったのだから、褒めると言う事は大変重要な事
だと分かる。
「ふふっ、ネージュに断言されたから自信を持っ て行ったわね。」
「僕なんか〜ってずっとモゴモゴしてたのに。」
そんな事を言いながらもリラとフルーの二人も夫
にべったり寄り添って食事をしている有様だし、
ヴィオレとグリは……元々寄り添って居たな。
ヴェルトとジョーンヌがあまりの効果に笑って。
「ネージュの魔法の言葉のお陰で独身組は肩身が
狭くなりそうだな。」
「本当の事を言っただけですよ。まさか皆さん美
形ばかりとは知らなかったら凄くびっくりしたん
ですから。」
大真面目に答えて、羨ましいんですからとため息
をつくのだ、ニュイが不思議そうに笑いながら。
「あら、ネージュも凄く可愛いのに?」
「もう、ニュイさん慰めてくれなくてもいいです、
可愛いとしても皆さんと比べたら大した事無いで
すよ。」
諦めたような顔をするからニュイがもしかしてと
自室から手鏡を持って来て、
「目が見えなかったから、ちゃんと自分の顔を見
た事無いんでしょう?本当に可愛いから見て。」
手鏡を受け取りながらネージュは頬を膨らませて
しまう、数年たっても大して変わらない自分の容
姿なんてと鏡を見る。
「見えてる時に見飽きてますよ、…じぶ…んの顔
……なんて、」
鏡を見たネージュは少しだけハッとした後は微か
な笑顔だけだった。横に座っていたブロンはその
微妙な表情に気付かず笑いながら声をかける。
「変わらないか?」
ネージュは首を微かに振って、
「髪が本当に真っ白、目が変わった色、もう12才
じゃないから。お父さんもお母さんも私だと分か らないなって思って……。」
悲しくなりかけて、ふと周りの空気が変わるのを
感じ不味いと慌てて、声の高さを上げる。
「いやでも、これはかわいい部類なんですかね?
やっぱり山猫が人間になり損ねた感じですよね。」
ジョーンヌが真っ先に吹き出しながら笑い出した。
「くくっ、充分可愛い部類だぞ。隣で飼い主が可
愛いって顔で見てるんだから。」
そうなのかなと横のブロンさんを見て失敗した!
あれからずっと目を合わせないよう、顔を見ない
ようにしていたのに!今感情の糸が剥き出しだか
ら見た瞬間には真っ赤になって、どうしたら良い
か分からなくなって目をギュッとつぶっていた。
「どうした?」
ブロンの困ったような優しい声が胸にピリッと響
いて来る、それに心臓が痛くなるし。
「目が疲れただけです。」
そうかと無理はするなよと頭を撫でられて、まる
で猫が耳を伏せてキュッと縮むようなネージュを
見てニュイやジョーンヌ達が肩を震わせていた。
食後の湯浴みをリラ達と済ませたネージュはさっ
さと木の上に消えてしまった。意中の女性達から
良い返事を貰ったらしい隊員達を交えて男達が軽
くワインを楽しんで居た。
「俺たちは美形だったんだな。」
「王子様とお姫様だらけらしいぞ。」
ヴェルトとジョーンヌが大笑いするし、グリも楽
しそうに笑って。
「みな美形だから、安心ですね。
しかし、ジョーンヌは別格みたいですね真正面か
ら見て綺麗な顔だと言ってましたねからね。」
「カッコイイは言われ慣れたけどさすがに綺麗と
言われるのはな始めてだぞ、くっくっ。」
皆が容姿を褒められた事を楽しげに話し盛りあが
るのだが、ブロンが真面目な顔で考え事をしてい
るヴェルトが気になり。
「王子様、どうしました?姫が心配しますよ。」
「いや、アダンとエメは両親…、だれの王子様だ、
皆が王子様なんだろが。」
どうやら反応的に分かっていないのだろう、色々
と世話を焼きたくなる男だなと三人が笑顔で声に
する。
「ネージュの王子様だよ。」
「はぁ?皆が王子様に見えるんだろう?」
三人が呆れてしまう、ジョーンヌが残念そうに。
「あんなに分かり易い反応していたのに。」
「分かり易い?反応……。」
ふと、昼にネージュを見に行ったら泣きながら寝
ていた、可哀想で抱き寄せていたら安心したらし
く穏やかな表情の後目を覚まして…、胸やのど元
頬を触られた。見れば何とも言えない表情を思い
出した。
さっきのも?赤い顔で目をつぶる姿は可愛いが…、
俺の顔を見て赤い顔、目を合わせれない、、、
ネージュの王子様…、可愛い顔は俺が王子様……
ブロンがようやく気付いて赤い顔になりながらも
慌てて話しを逸らせた。
「いや、それより、アダンとエメとはネージュの
両親の名前かも知れないんだ。」
ブロンの反応に三人が笑いを噛み殺しながら
「アダンとエメと言う名なのか?」
「寝言で言っていたんだ。」
横で飲んでいた爺さま達がその名が気になり
「アダンとエメ?どっかで聞いた名前だな。」
「知ってるか?」
「んー年寄りの記憶だからな、思い出すまで時間
がかかるな。」
グリがまた数年後だねと笑っていた。
深夜になり、お開きにしようと席を立つ三人の視
線に気付きブロンは急に意識してしまうのだ。
ネージュとは当たり前の様に毎日木の上で一緒に
寝ているのだから。今更、自分のベッドへ寝に行
くとは言いづらいし…
三人の視線に負けたくないので意を決して
「ね、寝に行く。」
妙な宣言とぎこちない足取りで玄関をブロンは出
て行った。ジョーンヌを始め皆が肩を震わせなが
ら呟く。
「真面目だなブロンは。」
「反応がこれまた分かり易いし。」
ヴェルトが窓を閉めながら呟くのは、思った以上
にブロンの反応が可愛いのもある。
三人とも、ただブロンが前に進み出したようでホ
ッとして笑顔になっていた。
窓や扉、灯りが消えて行く城を背に妙な緊張感の
足取りで梯子をブロンは登る。と言うのも昨日と
違う感情に動揺しているからだった。
何度も落ち着けと心の中で呟いてしまう程だ。
ツリーハウスの扉を開けるのさえ緊張してしまう
から、まるで夜這い?いや、いつもの添い寝じゃ
ないか、いや?いやいやと謎の自問自答をしなが
ら小一時間立ちすくむ、頭を振ってようやく静か
に部屋に入った。
ランタンは消えているが小さな丸いガラス窓から
月明かりがあり微かにネージュの顔が見えた、小
さな寝息も聞こえて安心し、静かに側に寄添い横
になった。
何となく白い髪を撫でて、上手く言えないがネー
ジュの存在はとても癒され安心するし暖かさは心 地良くてよく眠れるのだ。
ただ、ミモザを思い出してしまう、俺のせいで死
んだ様なものだから怖いのだ。まだ悲しみが消え
ない俺をネージュが静かに慰さめてくれた事は心
底嬉しくて堪らなかった。
それに、彼女は想像も出来ない悲しみや苦しみを
負いながらも発言にも気を使ってしまう娘だ。
そう、自分の変わってしまった姿を鏡で見て悲し
いはずなのに周りを気にした事はブロンだけで無
く皆気付いた。彼女が誤魔化したから皆も話しを
合わせていたのだから、そんなネージュが愛おし
くて誰よりも守ってやりたい、誰より幸せになっ
て欲しいと思う。
そう、俺じゃないもっと心の強い奴でなければ、
それまで誰よりも守ろうと心に誓って優しく抱き
締めていた。
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