第5話 寝床は木の上

ようやく皆が寝静まった。

皆、保護したネージュが可愛いのも有るが、新し

い同居人として色々と教えたがって大賑わいだっ

たのだ。部屋案内はブロンが抱き抱えて歩き回る

のだが疲れて無いかを心配したが、ネージュは楽

しそうに皆の説明を聞いていて安心する。

それでも、流石に最後の部屋を案内する頃にはブ

ロンの腕の中で眠ってしまった。リラとフルーが

一緒に寝ると言って、自分の旦那達を部屋から追

い出すのだから可哀想だったのだが。


ブロンが眠れず一人2階の部屋の窓から何となく

外を眺めていたら、深夜になろうとするのに扉の

開け閉めする音がした。その音は玄関の開閉もあ

り誰かが外に出たのだと分かる。


月明かりの下、城前の樹々に向かって走る人影が

見える。赤っぽい布の塊が木の周りをゆっくり歩

いている。場所を決めたらしく足が止まったので

何をするのかと思ったら飛び上がり枝を掴んだら

しく、それからは多少止まりながらもゆっくりと

登って行くのが分かる、誰だろうと見ていたら白

い物が見えて、


「ネージュか、くくっ。」


ブロンは呟き、何故かワクワクした気持ちになり

静かに部屋を出て行きネージュの後を追っていた。


「はぁ、はぁ…、うーん、よっ、こいしょ。」


一杯食べさせて貰ったし、休ませて貰ったから歩

く事も出来る程に元気になったけど、まだまだ力

が入りきらない。それでも何とか良い高さまで登

れたと納得しながら。


「いい枝振りだから寝やすそう。」


「寝るのか?」


「ん‼︎……ブロンさんいつの間に来たんですか?」


「今だが…驚かないんだな?」


「凄く、、驚いています。音がしなかったから、

分からなかったです……」


見れば微かに震えて木にしがみ付いている事に気

付いた、驚き過ぎて固まっているのだろう。彼女

にすれば男がいきなり背後に居たのだから、かな

り怖がらせたと慌てて横に座り背中をさする。


「す、すまない、脅かすつもりは無くてだな。猫

が木に登るのを追いかける気分で来てしまったん

だが、ネージュにとっては心臓に悪かったよな。」


大きな身体のブロンが心底申し訳無さそうに言う

のを聞いて、少ししてネージュは微かに吹き出し

ながら小さく笑い。


「私が猫ですか?、ふふっ。今度からにゃ〜と言

いながら登らなきゃいけませんね。」


笑ってくれた事と触った背中から感じる震えも無

くなりホッとした。


「そうだな、それより寝るってベッドがあるだろ

う?木の上じゃ危なくないか?」


「あ、その、リラさんとフルーさんが一緒に寝て

くれましたが目が覚めてしまって。あのいつも、

木の上で寝ていたので……つい…。」


月明かりがあるが木の上でネージュの表情はよく

分からないが昨日の今日だ、まだ不安なんだろう。


「なるほど、ならもう少し上がいい。」


「えっ?」


ブロンに背中にと促され戸惑いつつもネージュは

彼の首に腕を回ししがみ付くとブロンは軽々と立

ち上がりスルスルと木を登り出した。

枝振りがいい木とはいえブロンの方が猫の様に登

るのだから背中でネージュが大笑いしていた。


「さあ、ここなら横になれるだろう?」


うねった木は上部辺りで横に広がる様に育つ形状

だった。その枝との形で大人が数人座れそうなの

だからネージュが喜び。


「凄い!転がれそう。何の木ですか?」


ネージュがそそくさと何かを始める、身体に巻い

ていた赤い布はケットなのだ、それを広げて転が

り始めるのだ。準備がいいなと笑いながら座り、

枝を撫でて振り返りながら木の名前を言ったがネ

ージュは…。


「ブナの木だよ、こいつは樹齢が何百年とか…」


ブロンの傍らで丸くなって、もう寝息をたててい

るのだ。そこまで安心されるのもと笑ってから一

緒に横になろうとしだが起き上がり、何故か木を

素早く降り行く。


そして部屋に戻りまた木に登って行くのだ。


その一部始終をヴィオレとグリ、ヴェルトにニュ

イが寝間着姿で静かに食堂の窓から眺めていた。


「まあ、随分と楽しそうに飛んで行ったわね。」

「飼い猫ですからね、可愛いんでしょう。」


妹夫婦の言葉にヴェルトが頷きながら笑って。


「ただ、落ちなきゃ良いんだけどね。」


そう言いながらまた笑って、それぞれの部屋に戻

って行ったのだ、皆も扉の開閉が何度も聞こえて

何かなと起きて来たのだった。ネージュとブロン

だと気付いたが二人をそのままにしても問題無い

と寝てしまった。


ブナの木の上に戻ったブロンは紐を外して背中か

ら下ろすのは枕とケットだった。さすがに外だと

寒くなるだろうの用意だ。横になってそっと腕に

ネージュを寄せてみた、嫌がらないから安心して

自分のケットを更に掛け目を閉じる…、


横に人が寝ているのは久しぶりだった。

最初、腹の辺りで感じる暖かさに妙に安心したの

を思い出しながら、やっぱり安心するなと眠りに

落ちて行った。



朝方、リラとフルーが慌ててネージュを探し回っ

ていたらヴィオレが笑いながら起きて来て。


「大丈夫よ、飼い主が一緒にいるから。」


「え〜ブロン様の方がやっぱりいいのか〜ずるい」

「でも、何処にいるの?部屋?」


ニュイも部屋から出て来て。


「木の上よ。 ネージュが落ち着くみたいね、

ふふっ。さあ朝食を作りましょうか。」


まあ、木の上なの⁈とリラとフルーが楽しそうね。

で、何してんだろうね〜ふふっと笑いながら台所

へと行くのだった。



木の上では、まだ二人は気持ち良さそうに寝てい

た。ネージュは暖かさに安心して本当に久しぶり

にグッスリと眠っていた。ブロンも暖かな温もり

を胸に抱いて眠ったからか穏やかな気持ちで目を

覚ました。


横を見ればネージュはまだ寝ている、白い髪を撫

でながら何故か癒されている自分に笑ってしまう

「俺が癒されてどうするんだ」と呟く。

それでも、こうして安心した顔で腕の中にいる…

頬に触れ……何故か抱き締めながら呟いていた。


「ミモザ…」


まだ、涙が出るのか…。それとも…まだ、、


「…どうしました?」


ネージュがブロンの背中を撫りながら怖い夢でも

見ましたか?と言って、よしよしと撫でるのだ。

優しく子供をあやす様に動くのは小さな手だが、

大きな背中にも分かる暖かさだった。


「すまない…」


「よっぽど怖い夢だったんですね、泣いたらすっ

きりするかもしれませんよ。大人だって泣いた方

がいいんです。」


「そうか…なら、少しだけ……。」


そう言って、ブロンはネージュをそっと抱き締め

ながら泣いていた。とても苦しそうに泣いている。

「ミモザ」あの時言われていた亡くなった彼女だ

ろうか、とても愛していたんだろう。

子供の自分でも分かるぐらい辛そうで胸が痛んだ、

痛くてたまらずブロンの背中にまわした手に力を

込めて抱き締めてあげていた。





ジョーンヌが笑いながら木から降りて来た。


「まるで、猫の親子か?みたいに二人で丸くなっ

て寝てるんだよ。」


その後から、ブロンがネージュを背負って木から

降りて来た。


あれから泣きながら、またぐっすり二人で寝てし

まい。起きて来そうにないからと、さすがに起こ

しにジョーンヌが登って来たのだ。仲良く丸くな

る姿に吹き出す声に気付いた二人が普通に起きな

がら。


「ジョーンヌか、おはよう…ふぁ〜朝か、

食事の時間か?」


「おはようございます…ふぁ〜」


「まあ、おはようだが。

二人共本当に猫になる気が?くっくっ」


皆が下で待っているぞと言うとブロンが下を覗い

たら皆が見上げているのだ、慌てて降りて来たの

だがブロンの背中から降りたネージュがリラとフ

ルーに何故か気まずそうに。


「ごめんなさい。リラとフルーが一緒に寝てくれ

てたから、一度目を覚ましてもそのまま寝たんだ

けど。目が覚めちゃって、いつも木の上だったか

らね、その……。」


二人が笑って何言ってるの〜木の上が落ち着くの

は猫だから仕方ないと笑ってから。


「それより、まずは食事をちゃんと食べるのよ。」


「まあ、私達よりブロン様の方がいいのも仕方な

いわよね。」


ネージュが慌てて、違いますよ〜私が勝手に登っ

てて〜。と笑いながら二人の後を追っているのだ、

少しゆっくりでも昨日より足取りがしっかりとし

ていた。その後ろ姿をブロン達は安心して眺めな

がら食堂へと歩いて行った。

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