第4話 ボンヤリとしか見えない

浴場から楽しげな悲鳴が聞こえていた。


まず、娘が泣き止むまでに隊員達を風呂に行かせ

汗や泥を流しサッパリさせる。ただ、ヴェルトの

妹ヴィオレに「早くネージュを綺麗にしたいの!」

と随分急かされたのだった。


「ネージュ、痩せ過ぎだから胸が目立つのよね〜」


「そうなんですか⁈」


「そうよ、だからここでは滅茶苦茶食べさせるか

らね。好き嫌いは無しよ!分かったわね。」


ヴィオレが笑いながら汚れた白い髪を何度も洗う

のだ。見るに絶えない身体中にある無数の傷に涙

が出そうになるからだった。ブロンの母ニュイも

一緒にネージュの身体を洗うのを手伝ってくれる。


「なんか、すみません。身体洗うのまでして貰っ

て……。」


「何を言ってるの歩くのさえままならなかったで

しょうに。」


そう、玄関前で泣いた後は歩けず、その場にへた

り込む有様だったのだから。ブロンに抱えられて

部屋へと移動し軽く飲み物や果物などを口にする

も、足はおぼつかなかった。

あまりにも痩せて汚れたネージュ、着ているシャ

ツは大きなブロンの物だから何が有ったのかニュ

イは問いただすのだ。ブロンから保護した経緯を

聞かされたニュイは涙が溢れた。

女性達から見れば髪色はともかく年頃の娘だと分

かるからだった、そして話しの内容に声を震わせ

る汚れて、傷だらけの痩せた身体は…。


「何て酷い事、よく生きて…ブロン良く連れて帰

ってくれたわ。出来る限り彼女の心を癒してあげ

ましょうね。」


「頼むよ。」


「貴方も癒やすのよ。」


「うん?分かったけど、どうすれば…。」


ニュイは笑顔で「着替えとか用意しなきゃ」と奥

へとさっさとに消えたのだ。どうしたら癒せるん

だろうか?とブロンは真面目に考え込んでいた。


ひと段落し、女性達がようやく夕食を隊員達に出

しているなか、ヴィオレ達が食堂に入って来た。

ニュイに支えられて並んで入って来る白い髪の娘

に皆がびっくりしてしまう。


白い髪は泥や埃で汚れて居たのが今は透き通るよ

うな髪がサラサラとなびく。肌も透明感があり頬

に赤味があって可愛らしい子供の様で、そうでな

い色気もあるのは女性らしい青いワンピースを着

ているからかもしれない。

それに瞳の色は…、


「綺麗な瞳の色だね〜空の様な緑の湖のような。」


グリが急に覗き込んでも何故か怯えもせずに視線

も動かない事に気付いたブロン。いくら女性達が

居るからとしても反応に違和感を感じてブロンが

ネージュの目の前で手をかざして動かすと微かに

反応した。ランプを手にして同じ様に手を振ると

ちゃんとした反応をしてブロンの方を見るのだ。


「まさか、あまり見えないのか?」


「はい、実は髪が白くなった時からなんですが、

この明るさだと顔とかぼんやりしか見えてません。

光が強いと見辛いですが昼間は何とか見えて、夜

は厳しいですが月明かりが有れば何とかなりまし

たから……。」


「最初警戒したのは声でか?」


「はい、それと甲冑に焚き火が反射したので多分

男しかいないと……。」


「そうか……。」


そんな状態だったのかと皆茫然としてしまう、目

さえまともに見えない中、男達に囲まれていたの

はどれだけの恐怖だったのかを考えると言葉が無

い。ただ、過酷な状況で生き抜いたネージュを労

ってやろうと思う。

ブロンに誘導されてテーブルに着くと。


「ネージュ、肉をもっと食べろ。」

「野菜スープは好きか?」

「果物はどうだ?」

「ワインは呑めるか?」


皆が拾った猫をかわいがる様にアレコレ気を使い

構い始めるのだ、ヴィオレがたまらず笑って。


「私達への対応と随分違うわね〜。」


「ほんと〜優しいもんだわ。」

「猫を懐かせるには好物よ。」


そう言いながらリラとフルーは笑ってネージュに

話しかけ。


「気を付けてね、皆可愛い子に目が無いからね。

果物好き?切ってあげるからね。」


「髪は編んだ方がいいかな?食べにくいでしょ。」


と二人もネージュを挟んで座り込んでしまう。

ヴィオレもニュイも呆れて


「一番可愛い子に目が無いのは貴女達じゃない?」


うふふっと二人が笑いながらむさ苦しい男ばかり

だったものとネージュの髪を編むフルー。


「夫もむさ苦しいのかよ〜。」


ネージュがその言葉にえっと反応してから、フル

ーの方を見ている。


「結婚してるんですか?声の感じから若いですよ

ね?」


「ん?若いかな、私19だから普通だよ。」


びっくりしていると、リラも笑って私の夫も居る

わよと指差し、誰かが立ち上がって「ほい!」返

事をするが顔ははっきりとは分からなかった。

ヴィオレも結婚してて夫はグリでと紹介される、

ヴェルトの義弟になるのよと聞きながらも、皆若

い内から結婚しているのを不思議そうにする。


「はぁ…早くに結婚されるんですね。」


「早くないよ〜ネージュは何歳なの?」


リラに聞かれてそう言えばと、んーと指折り数え

てしまう程に自分の年齢を忘れていた。


「12の時に来たので、今17だと思います。」


「そっか、私達が結婚したぐらいの年齢ね。可愛

いから悪い虫が近寄らない様に私達が守ってあげ

るからね。」


フルーとリラに可愛い可愛いと言われながらぎゅ

っと挟まれて、困りながらも楽しそうに笑ってい

るネージュ。


ブロンやヴェルト達がその様子を眺めて一安心し

ていた、ヴィオレやニュイも笑顔で眺め。


「フルーとリラが当分離さないわね。」

「可愛い妹が出来た感じみたいね。」


「すぐに馴染めて良かったよ。」

「素直な子みたいだしな。」


ジョーンヌの言葉にグリが思い出して笑いながら


「そうそう、ガヌール達の言い方が気に食わない

と睨もうとするぐらいですからね。」


ほんとか?!とジョーンヌが笑ってあいつら嫌味

しか言わないからな。今度は山猫ネージュに噛み付かれる

なと大笑いしていた。


「怪我も気になるが目の事、医師に見せてくれな

いか?」


ブロンの言葉に母ニュイが笑顔で「もちろん。」

と言いながら優しい息子の背中を撫でていた。

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