第3話 山猫は威嚇したり泣いたり

それから落ち着いた様に見えたが、寝るのも怖い

のだろうブロンにしがみ付いて離れなかった。


「拾った猫みたいな感じだな。さっきの威嚇も凄

かったし、まさに山猫ランクスみたいだよ。」


「身体を張ったブロンにしか懐かないなこれは。」


グリとジョーンヌが笑いながらブロンの傍らで丸

くなって眠る娘を見ていた。ブロンがマントを娘

に掛けながら、


「言葉を習ったと言っていたな。他所の国から連

れ去られたんだろうか、人身売買の噂も聞くが。


「かもしれないな、戦の混乱に乗じてだろう。」


「まったく、女や子供を何だと思ってんだ……。」


言語も違う知らない国で何年も逃げるしかないと

は何て残酷な話なんだ…女で有る事で性的な対象、

男であっても幼ければ碌な目に遭わない……戦に

乗じて女子供を、戦さは一体いつになったら……。


隊員達も寝静まり、ヴェルトとグリが念の為に火

の番をする間、休ませて貰う事にし横になった。

腹の辺りに丸くなった娘を感じながら深い眠りに

ついた。




「もうすぐだぞ、皆、無事で何よりだ!帰ったら

好きに楽しめ。」


少数部隊だが馬に乗った隊員達と馬を失った徒歩

の隊員達が元気に「よっしゃああ‼︎」と大声を上

げて喜んだ。王宮城前の広場では数多くの部隊が

所狭しと居て酷い匂いと汚さにだけでは無いだろ

が、一緒に馬に乗っていた娘がブロンの胸元で震

えてしがみ付いていた。

一応、頭から汚れた布で覆って娘の姿を見えない

様にはしている、ブロンの側に居るとはいえ女だ

と目の色を変える輩も居るだろと念の為だった。


報奨金受け取りにヴェルトとジョーンヌが代わり

に行っている中、他の部隊長達が連れ立ってブロ

ン達を労いにやって来た風だが、単にうろついて

いるだけだろう。


「ブロンシュ、君の部隊も全員無事で何よりだ。」

「ん?誰かを保護したのか?」


「ガヌール、クルーズ、君達も無事で良かった。

ああ、身内を亡くしたみたいでね。」


「そうか、優しいな。じゃっまたな。」



相変わらず何しに来たのか分からない二人が遠ざ

かりながら話す。


「また物好きだな。」

「見たか?白髪だ婆さんだぞ、趣向替えか?」


笑いながら聞こえよがしになのだから酷いものだ

がもう慣れた。ただ…、


「ブロンシュの奴、

彼女を亡くしたとはいえなぁ、」


その一言には身体が強張る、が胸元の娘がぐっと

向こうを見据える様に動くのだ。慌てて頭を胸元

に寄せ「どうした顔を出さない方が良くないか?」

と小声で話し掛けると


「なんか嫌な言い方だったから!」


「婆さんか?この場所では若い女だと気付かれな

い方がいいだろう?」


「違う…私は今更何と言われても何とも感じない。

貴方をわ…」


ヴェルトとジョーンヌが戻って来るのが見えグリ

が手を振りながら遮るように娘の前に立ち、声を

かけながら膝辺りをポンと叩き。


「ブロンがどんな人間かは俺達は分かっているか

らいいんだ。君も分かってるんだろ?」


その言葉に娘はグリの方を見て大きく頷く、グリ

も頷き返して「と言う事さ。」とブロンに笑顔を

見せ自分の馬の元へと歩いて行った。


「そう言う事か…ありがとう。」


娘がブロンに対しての侮辱発言をしている事に怒

っていたのだとようやく気付いた。自分の代わり

に怒るとはと、何とも言えない気持で娘の頭を撫

でていた 。



夕陽に染まる時間帯になっていた。

森が続く中なので娘はボロ布から顔を出して景色

を眺めて笑顔を見せていた。


「凄く綺麗な所……。」


森だがまるで自然公園の様に平坦で広い道が続く、

道端の木々がまばらになり向こうに広がるのは畑

だろうか景色が変わり広がる空に目を瞬かせてし

まう、道の先に湖が見えた。

その湖の奥に石造りの落ち着いた建物が夕陽に照

らされて白っぽい石壁がオレンジ色に輝く。二階

建でブルーの屋根の所にも窓が有るから屋根裏が

あるのだろう立派な建物だった。娘が指差して楽

しそうに話す。


「あそこが皆さんの家ですか?」

「ん?正確にはブロンの城だよ。」


ヴェルトが微笑みながら答えると、娘が振り返っ

てブロンを見るから頷きながら「そうだ」

と答えると、


「か、かわいい!凄い!」


何故か抑え気味の声で喜ぶ、隊員達がかわいい?

のかと笑い出した。

賑やかな笑い声が聞こえたのか建物の大きな扉が

開いて数人の女性や年配の男性が出て来て手を振

り始めたのを見て、隊員達も声を上げて手を振り

返すのを娘は安心したように眺めていた。



出迎えの女性達の前で馬を止め、皆がそれぞれに

無事で有る事を喜び合ったりしていた。


「兄さん!お帰りなさい。」


ヴェルトが「んっ」と返事しながらブラウンの髪

の女性と抱きあい、次にグリを抱き締めていた。

ふとブロンの馬に乗って居る娘に目を止め、


「あら兄さん、あの子は?」


ブロンに馬から降ろして貰っていた所だった、ヴ

ェルトに楽しそうに紹介される。


「保護したホワイト・ランクスだ。」

「えっ山猫?」


降ろして貰っていたから身体が浮いていたし、女

性達の視線を感じてから、つい…。


「ニッ、ニャァ〜…っ。」


まさかの鳴き真似に娘の腰を持っていたブロンが

笑いをこらえ震えながら。


「母上、、か、飼っても、いい、だろうか?」


「躾けの必要はなさそうですよ。」


グリが真面目に答えるから、皆んなが笑い出して

ジョーンヌが笑いながら。


「腹の音といい、面白い奴だ。」


ブロンの母親も笑いながら側に来て娘の頭を撫で

て優しく声をかける。


「いいわよ、可愛いわね。お名前は?」

「ネージュです…。」


「ネージュね、髪の色に合っていて良い名前ね…

どうしたの泣かないで。」


ネージュと名乗りながら、名付けてくれた狩人の

お爺ちゃん達を思い出して涙が溢れた。髪の色が

こうなるなんて思わなかっただろう、そして自分

の為に殺されてしまったから…。


「ごめん、なさい、お爺ちゃん思い出して……、

ごめ、ん、なさい……。」


ブロンの母親や女性達が居る事で張り詰めた糸が

切れたんだろか、優しさに安堵したのだろう。

まだかすれた声でただ静かに泣き続けていた。

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