第2話 傷だらけの理由

娘をよく見ると耳やら腕に足にと傷だらけなのだ

白い髪を毛皮と間違われて襲われたのかもしれな

いが…あまりにも痛々しい。

娘の状態を確認している間に戦の後始末等の話し

は済んだ様で、


「長や村人は竜の移動だと安心して作業するらし

いから、俺達の仕事は終わったから帰ろう。

で、娘は村に預けるか?」


ヴェルトの話を聞きながら娘を抱えて立ち上がり、

抱えた娘を眺めて考え。


「ガルグイユから預かったし、ランクスでなかっ

たからな、なら何処で拾ったかも聞かないと傷だ

らけ過ぎるのが気になる、村に置くのは迷惑にな

るだろうから一旦保護しよう。」


「確かにな、毛皮狙いにしてもここまで怪我させ

るのはおかしいし、普通は人だと気付くはずだろ

うからな、分かった連れて帰ろう。」


ジョーンヌもグリも頷き他の隊員達と供に帰路に

着くことにした。




「はぁ、久々の安心した野宿だな〜」


村人からの少しばかり分けて貰った食糧と酒を堪

能しながら焚き火を囲み、ささやかな宴を楽しん

でいた。

少し離れた所でブロンとヴェルトは白髪娘の怪我

の介抱をする事にした。地面に布袋とマントの上

に寝かせてから腕や脚の傷から確認していた。


「随分と傷だらけだな…古い傷もかなりあるぞ細

いし、あまり食べれていないのだろうな子供なの

に酷いな。」


娘はあまりにも腕も足も細かった、痩せすぎたか

ら下着さえずれて尻が見える程だったのだ。

手足の骨には問題無さそうだと安心したが、脇辺

りに血が滲んでいたのを見てブロンが破れたシャ

ツの釦を外してみると胸全体に布を巻き胸下辺り

の布地がザックリ切れそこから血が滲み出ていた。


「まさか、もっと酷い怪我をしているのか?

早く手当てしないと、」


血の滲みかたに慌てて布をブロンが解いたのだが

後悔した…側に居たヴェルトも同じ気持ちで呟く。


「まいったな…子供じゃなかったのか…」

「ああ、まさか成人した女性とは…」


痩せた手足に合わない綺麗な乳房に唖然としてし

まうのだが、すぐにシャツの釦を閉じようとした

が閉まらない…布地を巻いていた理由に気付くも

怪我だと思いナイフで裂いてしまった。

ブロンが慌てて鎧を脱いで下に着ていた自分のシ

ャツを脱ぎ娘に掛けてまた鎧の胴体部分だけ身に

付け、ヴェルトと顔を突き合わせ困り果てて居た。


ジョーンヌとグリが飲み物や食事を手に歩いて来

る。


「その子の怪我はどんな感じだ?酷くなさそうか

い?起きたら何か食べれそうかな。」


ジョーンヌが心配そうに声をかけたのだが、その

声に娘が物凄い勢いで起き上がり、周りを恐ろし

げに見回し目の前の男達に気付いて震え出す。

そして、手探りでその場にあった刃物を掴んで立

ち上がり後ずさりしながら威嚇していた。


「ええっ、女性だったんですか?!」


グリの言葉にハッとし胸が丸出しに気付き、驚く

と言うより耐え切れず泣き出すのがブロンシュに

は分かった、そして絞り出す様な声はかすれてい

た。


「どうして、こんな目に……ばかり……男って、

どうしてこんなのばっか…。」


震えながら呟き、ふらつきながら必死で逃げ道を

探す様に視線を泳がすが数人の隊員達に愕然とし

たのか呟く言葉は。


「…もう、疲れた……」

「待て‼︎」


娘が自分の首にナイフを向けるのは早かった、そ

れを目にしながらヴェルトが叫んでいた。

ブロンが巻いた布地を切る為に使ったナイフだっ

たのだ、油断してしまった刃物はなるべくすぐに

仕舞うのだが乳房を隠す事に気を取られたのだ。


何より娘の身体の無数の傷は……

今までどんな目に遭っていたのかを想像すると胸

の奥が割れそうになり、気付いたら胸に娘を抱き

締めていた、ブロンの腕辺りにナイフが刺さる形

で自害しそうな行為を止める事が出来た、そのま

ま静かにブロンは娘に話しかける。


「すまない、悪い男ばかりですまない……。」


「離して!もう、楽になりたい!こんなとこに来

てずっとこんな事ばかり!もうヤダ!帰れないん

だったら!死んだ方がいい!」


「すまない、怪我の治療をしようとしただけなん

だ。本当だ。君は崖から飛び降りただろう?

覚えていないか?」


かすれた声で泣いて弱々しい力で暴れて叫ぶ娘が

崖の話しでようやく大人しくなった。


「君が飛び降りたのを見た竜が手負いのランクス

だと空中で捕まえて、俺に安全な場所に逃せと連

れて来たんだ。」


「なんで……」


「君の髪色でホワイト・ランクスだと思った様な

んだ。毛皮目的の狩人に追われていると彼は言っ

ていたが誰に追われていたんだ?」


「……奴隷、奴隷に売るって。婆さんじゃない女

なら高く売れるって…、子供じゃ無いとバレたか

ら…だから、諦めて飛び降りたの…、女だからっ

て追いかけ回されるのはもう嫌。」


その場にいた誰もが胸を痛めた、戦さに乗じて理

不尽に女を陵辱する。その女達の目がどれほどの

苦痛や恐怖、そして絶望を写していたか…。

ただ女だというだけで踏みにじって言い訳では無

いはずだ…。


「…すまない……。」


「変なの…、なんで謝るの、…変……、」


「変か?変だな、でも代わりに謝らせてくれ、

それでも君の気持ちが楽にはならないだろうが…」


「ぅっ……ぅっ……」


白髪の娘は静かに泣き続けて居たのだが、静かな

森の中だ、虫の音すら微かな物だからか突然聞こ

えて来たのは派手に響くお腹が鳴いた音なのだ。



ぐうぅぅぅ〜〜。


・・・・・・「ぶっふふっ」

数秒は我慢した、一人が吹き出したら全員が腹を

抱えて笑い出して止まらなくなった。


「駄目だ、、反則だろ、、滅茶苦茶、深刻な話し

だったろうが!」


ジョーンヌが足を踏みならして笑っているしグリ

が焼いた鶏肉を持って来ながら涙を流す程に笑い

が止まらなかった。


「お腹が鳴くと言う事は安心したんだね、随分と

食べてなかったんだろう?さあ食べな。」


とりあえずブロンのシャツに袖を通して落ち着い

た娘がさすがに恥ずかしそうに座って。ようやく

渡された鳥肉が刺さる棒を持つがまだ少し震えて

いるのだ。まだ男が怖いんだろうブロンの横で小

さく身体を丸めている様子はやはり子供に見える。


「その髪色は元からなのかい?」


少しして、妹がいるヴェルトが慣れた感じで優し

く話し掛ける、娘が小さく首を振って。


「ううん、ここに来てから段々白くなって、元は

黒かったの。」


「ここにって違う国から来たのか、どれくらいに

なるんだい?」


「多分、5年ぐらい。最初は山で狩をしていたお

爺ちゃん夫婦が助けてくれたの言葉も教えてくれ

たり、凄く良くしてくれてた。

でも…何だか戦さだかで鎧を着た人が来て……、

私のせいでお爺ちゃん達殺された。だから街の中

に紛れて居ようとしたんだけど髪が白くなってき

たから、目立つのが嫌でまた山の中に。」


黒髪だったのか…とブロン達は言葉を失う。

髪のどこを見ても黒さは無く真っ白なのだから精

神的ショックなんだろう、あまりにも可哀想で頭

を撫でて「よく生き延びたな」とそれ以外の慰め

の言葉が出なかった。


「一緒に来たらいいよ、俺の妹や彼ブロン隊長の

母上や女性達が居るからもう安心だからね。」


ヴェルトが微笑むと、娘は横に居るブロンを見て


「いいんですか?」


と聞くから「大丈夫だよ」の言葉にボロボロと涙

を流し静かに泣いているのだ。安心しているのが

分かる、娘は泣きながらも一生懸命に鶏肉を齧ろ

うと小さな口で頑張っているのだから、その健気

な強さに隊員達も笑みが溢れていた。

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