白い髪のネージュ

宏江さなえ

第1話 落とすなら安全確認を

あいも変わらず領土争いは収まらない暇さえあれ

ば戦なんだろうか?ならば畑でも作れよ、木を育

てよ、家畜を増やせよとブロンは馬から降りて周

りを見渡しため息をついた。


我が国は山間にあるのと程よい資源や環境の為に

周囲の国々からの侵略が収まらない、国王が何か

と話し合いや物資の提供をしても隙あらばと傭兵

を転がしてくるのだ。


今回も国土の端に当たる小さな村が襲われた村人

は見張り塔からの連絡で早々に避難したようで人

為的被害が無くてホッとする。

雨でぬかるんだ道や周りには敵の死体が転がる…

片付ける身にもなってほしいものだ…。またため

息を付いていると、


「村人が後の事やるって言って来たよ。すでに墓

穴も掘ったらしいぞ。」


「皆、畑の被害が少なくて有難がってるよ。」


ヴェルトとジョーンヌが長と共にやって来た。


「いつも、ありがとうございます。ブロン様、敵

とは言え葬ってやらねば可哀想ですからね。」


「いつも、すまない…」


「何を言ってるんですか、ブロン様がいつもして

あげていたじゃないですか、『命は平等だ』ブロ

ン様の言葉ですよ。尊敬出来る貴方様に護られて

いるのですから、これぐらいさせて下さい。」


村の長が微笑んでから村の若者達を呼んで荷台に

敵の遺体を丁寧に乗せ運んばせているのだ。


「さあ、もう少し確認したら帰りましょう。

他の部隊も引き上げて行きますよ。」


グリがブロンの肩を叩きながら促す。


ブロンシュ・ヴェール、

通称ブロンはこの第15部隊の隊長である。癖のあ

る黒髪を後ろで束ね、グリーンの瞳で若く体躯も

立派な男だ。父が貴族だが侍女であった母に手を

出し出来た子供、それがブロンシュだった。

当然本妻が怒って親子共々追い出したが子供は由

緒ある名家ヴェール家の血を引く者として父親は

養護し続けたのだ。父と同じ様に武芸に秀でて自

身の力のみで部隊長にまでなったのだ。


その彼を支える補佐の三人、


ヴェルト・ジュネッスはブロンより年上だが補佐

役が好きな真面目な性格、青味がかった短髪の黒 髪、青味の濃い瞳。ブロンより大男だ。


ジョーンヌ・クイヴは幼馴染でよく喧嘩もした仲

である。明るめのブラウンの髪を束ねて薄いブラ ウンの瞳といい女性に可愛いとモテる、色男でい

い姿体でもあるので女泣かせで有名である。


グリ・ペルレも幼馴染で濃い灰色がかった髪を三

つ編みにして束ねてる理由は絡まるのが嫌だから。

瞳は薄いブルーで細身だが中々の筋肉質なのだ。


彼等は貴族出身でそれぞれに部隊を持つ事も出来

たが、ブロンの人柄と強さに惚れているからと部

下として付いて離れないのだ。

ただ部下になった理由は他にもある。それは…



突然、ここは領土端にあたるのだが山の辺りから

異様な音が響き出した。立地的に敵からの攻撃と

は考えにくいが何が起こるか分からない。


「長ー!避難しろ‼︎みんなもだー!避難しろ‼︎」


ブロンが大声で叫び、ヴェルト達三人が村人達を

誘導し、他の隊員達が防御の体制になり身構える。

異様な音が大きくなったと思ったら、上空に見え

る影に一息つく、影は竜の群れだ。

ひと際大きな竜がブロンの頭上に近付き鳴き声で

はなく大きな低い声が響いた。



「ブロン‼︎‼︎、両手を出せ」



「あぁ?なんだ。」


「受け取れ‼︎!」


慌ててる感じに仕方なしに両手を広げたのだが、

竜の手元から汚れた布の塊が落とされてきた。

高度をある程度考えてくれた様だが…


「どっかに逃がしてやってくれ‼︎‼︎ホワイト・ラン

クスだ毛皮を狙われたんだろう、狩の奴らに追わ

れて崖から飛び降りやがった。」


両足を踏ん張り、何とか受け止めた縦長の塊が肩

にクタリと倒れて……汚れた布がめくれ……


「頼んだぞ〜!!」


竜のガルグイユは地響きの様な大声を上げてその

まま、群れの中へと混じりながら飛び去った。

相変わらず人任せな奴だなとため息を吐きながら

見送る、竜である彼とはかれこれ長い付き合いだ

が…、ふと視線に気付くとヴェルト、ジョーンヌ、

グリが面白いほどに口を開けてブロンの様を見て

いるのだ。


「どうした?ホワイト・ランクスが珍しいからか?

白い毛皮はめず…ら…しいな……。」


ブロンはあまりにも三人が凝視している肩に視線

を向けて言葉を失う。


「ヴェルト…毛皮剥がれると白い皮膚になるんだ

ったか?」

「いいや…。」


「ジョーンヌ…これはランクスだろうか?」

「多分…違うと思う。」


「グリ…これは何だろか?」

「ケツですよ…。」


ブロンの肩にある汚れた布がめくれて見えている

のは、どう見ても尻だった。人間のそれも女の尻

だろう、尻尾も生えていた形跡も無い。四人で幻

の尻かと思いながら見つめ、ジョーンヌが人差し

指で突いてみる。


「柔らかい〜いいケツだ。」

「やめろ!」


ジョーンヌが今度は尻を鷲掴みしようとするから、

ブロンが慌てて身体をずらして阻止していると下

から声がした。


「うぅぅっ…」


汚れた布の下側から白い物の束出て来た。見れば

編んだ白い髪なのだ、頭がそっちか!と多少混乱

したブロンシュが慌てて向きを変えようと肩から

下ろして地面に布の塊を置き、布を開いてから四

人は固まってしまった。


髪は真っ白だが、顔立ちは若い娘だったからだ、

泥だらけで汚れているが綺麗な顔立ちの娘だった


「…ホワイト・ランクスが女の子に変身したんだ

ろうか?」


グリが不思議そうにしゃがんで娘の頬を突いてい

た。

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