第42話




 予想に反して、その後の旅は順調に進んだ。

 何事もなく森を抜けた三人は、次の林に足を踏み入れた。

 この林というのは、とても美しい場所だった。

 ときわをまず驚かせたのは、立ち並ぶ木々が全てガラスで出来ていることだった。木の形をしたガラスは青く透き通っていて、日の光を吸い込んでまばゆく輝いた。風に揺れてしゃらしゃら鳴る葉っぱも耳に涼やかだ。

「すごいや。全部ガラスで出来てる」

 ときわは簡単の声をあげた。

「ねえ秘色。すごくきれいだね」

 すっかりはしゃいで声をかけたときわだったが、秘色はとんでもないというように首を振った。

「あたしは、嫌だわ。こんな林不気味よ」

「どうして」

 こんなきれいなのに。と、ときわは驚いた。だが、秘色はさも嫌そうに眉をひそめ、ぶるぶるっと身ぶるいした。

「あたたかくないもの」

「え?」

「こんなに寒々しい場所に長居したくないわ。早く出ましょう」

 寒々しい。確かに、言われてみればここには“あたたかみ”というものがないかもしれない。

「生きてないからだ」

 かきわが言った。

「動物もいないし、木も造り物だ。だから、何かの息づかいとか、そういうぬくもりがないんだ」

 それを聞いてときわもなるほどと思った。きれいではあっても、ここは生命が生きていけない場所なのだ。

 一陣の風が吹いた。頭上の葉が風に揺れてきらびやかな音をたてた。

 しゃらしゃら さりさり ちゃらんちゃらん

 にわかに賑やかになった林の中は、どこまでも美しかった。しかし、その美しさゆえにこの林は、生きるものの存在を拒み続けているのだった。


 早々に林から抜け出して、三人は小さな山に登った。険しい山ではなかったが、ひ弱なときわには充分しんどかった。泣きごとの一つも言いたかったが、前を行く二人がずんずん先に進んでしまうので、ときわも必死に足を動かした。


 ふーっと大きく息を吐いて顔を上げたときわは、並んで歩く秘色とかきわの背中を見て、ふと、どこかでこんな光景を見たことがあるような気がした。



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