第43話
しばらく行くと、急に斜面がなだらかになった。密集していた木々も途切れ、人の背丈程もある大岩が三つ、ごろんと転がるちょっとした草原に出た。
「少し休みましょうか」
額の汗をぬぐいながら秘色が言い、ときわは心の中で賛成と叫んだ。
ところが、彼らが草原に足を踏み入れた途端、目の前の大岩が突如として変形をはじめた。
三つあった岩は見る間に三人の乙女に変わり、あっけに取られるときわ達の前からさーっと逃げ去った。
「なんだ、今の」
「驚いたわ」
茫然とした口調でかきわが呟き、秘色も相槌を打った。
「でも、今の娘達もあんた達と同じよね。岩から人間になったんだから」
ときわとかきわは同時に難しい顔をした。この世界では自分たちは岩なのだと聞いてはいたが、実際に岩が人に変わる現場を見て素直に僕らと同じだ。とは思えない。二人は微妙な表情で顔を見合わせた。
「とりあえず座りましょうよ」
秘色は草の上に腰を下ろした。ときわも秘色の横に座り、かきわは少し離れたところに腰を下ろした。ときわは持っていた刀を下ろしてほっとした。ずっと持ち歩いているせいで腕がだるい。最初のうちは、時々秘色が代わって持っていてくれたのだが、なんだかそれは男としてあまりに情けないような気がして、今ではときわのほうで断っている。隣に同じく刀を持ちながら平気な顔をしているかきわがいればなおさらだ。
「そろそろどこか野宿できる場所をみつけなくちゃね。なにせ昨夜は寝ていないからね」
秘色が空を見上げながら言った。そう言われればそうだ。しかし、歩きまわっているせいか、疲れてはいるがあまり眠気は感じなかった。
「そういや、昨日から何も食ってねえのに、全然腹がすかねえな」
かきわが不思議そうに呟いた。
(そういえば)
飲まず食わずで歩き通しだというのに、全くひもじい感じがしない。
「なんでだろ」
「あら、そんなの当たり前じゃない」
さも当然というように秘色が言った。
「あんた達は岩なんだから、お腹なんてすく訳がないでしょう」
「そうは言うけどな。俺達からしてみれば、前の世界にいた時とこの世界とで、体にはなんの変化もないんだ。それなのに前は人間で今は岩だなんてよ。そう簡単に受け入れられねえぜ」
かきわの言葉にときわも深く頷いた。
「それはそうだろうけど」
秘色はぽりぽり頭をかいた。
「まあ、僕らは岩だからってのはいいとして、秘色はなんで平気なの」
「そりゃ、あたしは巫女だもの」
秘色はいつもの台詞を言う。
「理由になってないと思うけど……」
「まあ、食わなくていいならそれにこしたことねえや」
かきわがあっけらかんと言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます