七章 一話 ### 二十一時五分 ###

 アシハラノ小島。本土の海岸から見ても、大きな鳥居を確認することができた。

「二度と来たくないと思っていたのにな」

 ナガナキがいないので、正確な時間はわからないが、二十一時を回っている筈だ。

「泳ぐしかないかな。流石にあそこまでは無理だろうしな。跳んだとしても、十五メートルくらいが限度だから、俺」

 ナガナキがいないので、本当に独り言になってしまい、すこし、いや、かなり、寂しい。

 つくづく浮遊能力が欲しい。日色家にも類似の能力を持つ人がいたが、せいぜい浮くくらいが限度で、長時間は不可能だった。

 空を飛べたら、渦潮の向こうも見えるのではないだろうか。

 

「日色様」

 シャツにボタンをかけた時、背中に声がかかった。すぐに警戒して振り返る。

「こちらに船が用意してございます」

 彼らは気配がないのでどうも苦手だ。

「…。伊真殿の指示ですか?」

 急に現れた黒衣の男に尋ねてみたが彼が答えてくれる様子はなかった。




 向こう岸に運んでもらうと、俺はまず深く深呼吸して心を整えた。

 暗い洞穴が覗いている。俺は鳥居をくぐった。

 

 暗い通路の先。光が刺しているのが見える。重なる、記憶。無数の生と死が溶け合ってできた潮の香り。喉がひどく渇いた。


 そして、あの空間に出る。

 すると。

 そこには人影があった。

     

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