五章 二話 ### 回帰 二 ###

 子供の頃から何度も刷り込まれてきた。

 神示には、世界の始まりから終わりまでが記されている。

 世界が終わることは、義務教育で全ての人が習うことだった。 


 まだ言葉を覚えたばかりの子供から、死期の近いお年寄りまで。全ての人が、この世の終わりを知っていた。


 それは疑う余地もなく、忌年になると厄災は、必ず起こった。

 

 タカマノ国はこの世界の唯一の陸地にある唯一の国だ。頭と足を落とされた竜の体の様な形をしている。

 また、タカマノ国周辺の海域は、陸地から370・4キロメートル離れた地点から外側を無数の渦潮で囲まれている。船での航行は不可能だ。その外にはただ海が広がっていると伝えられている。

 

 神の預言と、信託を受けた一族によって治められ、ギオン教を国教とする一神教の宗教国家。

 その信託を受けた一族こそが、海須家だった。

 神から預かった言語を人々に伝えた初代の〈エリ〉を教皇とした海須家は、宗教のみならず、政治、教育、文化の全てを人々に授け、人々はその恩恵を受けてきた。

 高度なテクノロジーも海須によって伝えられた技術が元となっている。

 人々は最初から全てを与えられ、支配されていた。

 

 それでも、最初の百年の内は神示に対して反発する人々によって内乱も起こってきた。

 日色家の初代が生まれたのはそんな最中だった。

 印を宿して生まれた初代は幼い頃から他にはない超人的な力を有していた。

 そして、人々によって英雄として担ぎ上げられた初代は、忌年に現れたエリを倒し、厄災から人々を救った。

 そうして日色家は英雄の一族として、存続していく事になった。

 そしてその後、初代は海須家からの予言を受けて、妻を娶った。その娘の家が月花家だった。こうして、日色と月花の縁が結ばれることになった。

 日色の御印が月花家の娘と契ると、娘には御印が宿り、以後、両家に生まれる子供は特殊な能力を持って生まれてくるようになった。

 それから、平穏が続いた。

 しかし、約八十年後。日色家には再び印を宿した子供が生まれた。

 ——そして、それからまた更に二十数年後。

 神示に記された内容は、再び起こり、厄災は繰り返された。次の百年後も同様に。

 

 そして、四度目の忌年を迎え、厄災は通例とは違う形で、しかし、預言の通りにその牙を剥いた。


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