五章 一話 ### 回帰 一 ###

 真実というのは、一つ一つと、虚飾が剥がれ落ちて見えてくるものだ。真なる核へと向けて。

 しかし、この世界における理というものは、真実とは異なる作用を持ってして存在している。

 つまり、公然たるものとして全ての人間が共有するものだ。

 

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【神示】


 世界は混沌にあった。何処にも形はなく、"森羅万象の概念"だけが飽和してそこにあった。

 

 その中に===がいた。

 ===は自分の形こそなかったが、あらゆるものの中で唯一、発話をすることができた。

 ===は、周りにあるものを片端から全て呼び、名付けによって言葉ができた。

 次に、言葉から形が創られて、姿あるものと無いもの、命あるものとないものに別れた。

 

 その中で最初に神が呼んだのが、海だった。

 そして、海の対面に空が収まった。

 それから神はまだ闇の中にあった世界を照らす為、空に太陽と月とを浮かべ、昼と夜とが生まれ、時間が発生した。

 それから神が名前を呼ぶと、海の中に一つの陸と小さな小島が出来上がった。

 そして===は、あらゆる命あるものの祖先となるものを完璧な形で創った。最初からこれ以上変化の必要のない形態に創り上げた。

 しかし、命あるものといえども、===のように同じ形を永遠に持続できるものはなかった。それ故に、全ての生き物は複製を作り、それを繰り返すことで続いていった。

 

 こうして、世界は===によって創造され、===はこの世界の神となった。

 未だ神は自らの形だけは持たなかった。それ故に、自ら創った形の中から、器を捜し求めた。

 しばらくして創った形の中に、神の言葉を解することのできるものを見つけ、神の言葉をそれに注いだ。

 この器こそが、人だった。

 神は最初の人の耳元に近づいて、世界の全てを教え、授けた。

 その存在は、言の葉を操る、神にも等しい、言葉を借り受け、預かる者。それを神は加えて〈エリ〉と名付けた。

 託されたエリは神秘の力で世界を治めた。エリはその力を持って人々に恩恵と禍害を与え、人々はエリに従い、恐れ敬った。

 

 森羅万象の中には終わりも含まれていた。永遠と終焉を同居させる為には、破壊による再生の必要があった。

 神は世界の壊し方もエリに教えていた。

 エリは民草全ての人に四度にわたる厄災と共に終わりを知らせる。

 

 増えすぎた命の剪定。そして全てを海に返すまで、災いの潮は満ち引きを繰り返す。

 四度目の厄災を迎え、太陽が月とともに宙を落ちる刻、渦潮は逆巻き、世界は再び海へと回帰する。混沌の元へと還る。

 

 

 そして、世界はまた同じ名を付けられる。

 

 

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