第11話 《治癒の輪》

 邪魔をしてはいけない。ここは家族だけの空間にしてあげるべきだ。

 ゼレーナも同じ結論に至ったのだろう。目配せをしてから、二人は静かに扉を開けた。


 〜〜〜〜〜〜


「いきなり頼んでごめんよ。あんな調子じゃ、二人とも明日からの仕事に集中できないだろうと思ってさ。でも、目を覚ましてくれて良かったよ」

 少し歩き、壁にガラスが張られた景色の良い場所でベンチに座る。休憩所なのだろう。数人の患者と思しき人たちが寛いでいる。

 そんな穏やかな雰囲気の漂う場所で、ゼレーナはふとそんなことを言った。


「いえ、私もこの力がどんなものなのか、もっと知りたかったですし、好都合だったのはきっとお互い様ですよ」

「ただの性能確認だって言うなら、あそこまで緊張しないだろうさ。まあ、でも気を遣ってくれてありがとさん。やっぱり良い子だね」


 微笑むゼレーナに、優しく頭を撫でられる。女性にしては長身なリリィだが、こうして並んで座ってしまえば関係ない。

 ぽんぽんという音を奏でる撫で方に、少しばかりのむず痒さを感じるが、振り払うことも出来ないので、仕方なくそのまま撫でられておくことにする。


(うん、今ここで拒否なんかできないから、しょうがないよね…)

 と思いつつも満更でもない顔をするあたりが可愛らしい。

 美しい容姿を喜びで染めるリリィの顔には、隠しきれぬ満足感が滲み出ていた。


 けれど、しばし経つとその顔には翳りが表れる。

「でも、良かったんですか?病院の中で、医師免許も持ってないような人がこんなことして…」

 もう取り返しはつかないことだが、どうしても確認せずにはいられない。


 ゼレーナは救命措置と同じだと言ってはいたが、あんな効果をもたらす力が人工呼吸や胸骨圧迫と同じ立ち位置にある行為だとは到底思えなかった。


「うん、ダメだね。普通ならあたしのクビで済むかどうか。ってとこかな?」

「えええええぇぇぇ!!ダメなんですか!?ど、どうしよう…」

 あたふたおろおろ。リリィは不安な表情を隠すことも出来ずに狼狽えるが、そんなことはお構いなしとばかりにゼレーナが笑い飛ばす。


「あっははは!!落ち着きなよ、あたしは『普通なら』って言ったはずだよ?」

「じゃ、じゃあ!」

「ああ、リリィちゃんの力を確認するための必要な行為だったってことでなんとか押し通せると思う。任せな、これでもあたしは口が立つ方なんだよ」


 豪快に笑って見せるさまは、女医というより女傑といった雰囲気だ。

「多分心配は要らないよ。そもそも、手の施しようがなかった魔力循環不全症候群に有効な手立てが見つかったって方が、お偉いさんには重要なことだろうしさ」


 確かに彼女の言う通りだった。肉体と精神体の両方を癒す《治癒の輪》の効果は、実際こうして見るまで半信半疑だったのだ。それはリリィ自身も含めて。


 けれど、その力の偉大さが明確な結果として出てきた以上、それに注目する者も多く居るだろうことは容易に想像がつく。


 ゼレーナの言うお偉いさんとやらが、どんな人たちかはわからないが、権力者という存在に無警戒に信を置くべきではないことぐらい、まだ若造のリリィにだってわかる。


 そんな人を相手にしてくれていることに、リリィは言いようの無い申し訳なさを感じた。

「ありがとうございます。なにからなにまで頼りきりですみません」


「んなこと言いっこなしだよ。あたしも自分から頼んだんだ。それに、責任とか面倒事ってんなら町長にも頑張ってもらうから、どっちかっていうとそのセリフは町長に言ってあげなよ」

「はい、町長にも言うつもりです」


 本当に、この世界に来てからお世話になった人たちには、足を向けて眠れないなと思ったリリィだった。


 〜〜〜〜〜〜


 どれくらい経っただろうか。体感では三十分は越しているはずだ。

 だが、彼らにとってはほんの一瞬のことだったことだろう。


「本当に…本当に…!ありがとう、ございます……!またこうしてカナリアと話せる時が来るなんて…!」

 三年の月日を経て、再び会話をすることが出来た彼らには。


 老紳士の頬には、いや、マーナの頬にも涙の跡がくっきりと残っている。ガドルもまた、目元が赤みがかっていて、ついさっきまでの家族の時間が見て取れた。


 それぞれがリリィに向かって礼をする。

 しかしベッドの上で微笑んでいる老貴婦人はまだ肉体の力が戻っていないのだろう、頭を下げる動作もままならない様子だった。


 肉体と精神体を共に癒すとはいえ、衰えた筋力などが瞬時に戻るわけではないようだ。

《治癒の輪》はあくまで治療専門で身体能力を高めたりといった作用があるわけではないらしい。


 人を実験体にするわけにもいかないから初めて対人に使用したが、異常がなさそうで一安心するリリィ。


「さあ、それじゃあこの後は検査があるからお袋さんは預かるよ。意識を取り戻したはいいけど今後のケアが必要になるかもしれないからね」


 名残惜しそうな家族はしかし、その言葉を聞き素直に部屋から出ていった。久々の再会を喜ぶのもいいが、それのせいでカナリアの体調に影響しては本末転倒だと思ったようだ。


「それじゃあまたね、今日はもう帰って休むんだよ三人とも」

 そう言ったあと、ゼレーナは何事かをガドルに耳打ちし、検査のためと言いながら仕事に戻っていった。


 病院を出ると、皆今日のところは帰ることにした。

 もう一生分泣いたような気がする。この年になると泣くことですら体力使うんだ。

 そんな発言をしたのは誰だったか、ともかく四人と一匹はそれぞれ帰り道を行く。


「また今度、ちゃんとお礼を言わせてください。できればその時はカナリアと一緒に…」

 オードルはまた深々と頭を下げてから歩いていった。歳にそぐわぬほどにしっかりと伸びた背筋からは、なんとなくではあるがある種の覇気を感じさせた。


 〜〜〜〜〜〜


 ホテルの部屋、リビングスペースの椅子にたどり着いた途端、リリィはふう〜と大きなため息を吐く。

 するとフェルが浮かびながら声をかけてくる。

「お疲れ様ですリリィさん」


「うん、ありがとうねフェルちゃん」

 どうにもこの狼には支えられてばかりな気がする。いつかしっかりとお返しをしたいものだ。


「でももしも後遺症とかがカナリアさんに出ちゃったらどうしよう。私お金持ってないのに…」

「それは大丈夫ですって、そもそもゼレーナさんからもお墨付きをもらったじゃないですか」

 ああそういえば、彼女に頼まれて目の前で異能を使って見せたのはなにかの意味があるのだろうか。そこは今のうちに聞いてみた方がいいだろう。


 訊ねてみるとフェルはこう答えた。

「それはこの世界の魔法技術を理解した人ならば、一目見ただけでどんな効果をもたらすものなのかがわかるからです。特にゼレーナさんは治癒師ですから《治癒の輪》を一瞬で解析したんでしょう。効果もシンプルですし」


 なるほど確かに、治癒系統の魔法に精通した人物が《治癒の輪》を瞬時に理解するのは何もおかしなことはないのかもしれない。


 とはいえ、リリィの異能が治癒系統のものだったからこそ彼女も分かったのだと補足が入る。続けて、

「治癒師に限らず、魔法を生業とする者ならば魔力の動きには敏感です。もし不穏な魔力の流れなどを察知していたらすぐさまリリィさんは拘束されていたでしょう」


「そうでなくとも結界の張られた街などでは他者にダメージを与える魔法が使えなくなります。厳密に言えば結界の禁止項目に触れてしまい自動的に拘束魔法がかかるので、もしこれから攻撃用の魔法を覚えたとしても結界内では絶対に使用しないでくださいね」

 言い終わったあと、フェルは一息つく。


 これはテロ対策なのだろうとリリィは考えた。

 まあ、もしも一人で街を一つ破壊できるほどの人物がいたとして、その人が勝手気ままに魔法を使えば街や人の被害は計り知れない。きっと歴史上でもそういった事件があり、それに対しての策なのだろう。


 自動防犯システムのようなものと思っておけばいいのだろうか、とリリィは一人納得する。

 なんというか、本当に技術の高さがうかがえるものだ。


「なるほどね。あとマジュウっていう話も出てきたけど、私はあれをなんとかすればいいのかな?」

「そうですね。この世界に訪れた危機はマジュウとそれを作り出している術者の襲来です。リリィさんの目標というか、ボクたちがあなたを連れてきた理由はそれです」


「じゃあ、何か情報はないのかな?敵は一人なのか複数人なのかとか」

「すみません、下位界に過度に干渉することはできないんです。ボクたちにできるのはリリィさんのサポートくらいで、あとは下位界の人たちで解決してもらわないといけないんです」

 本当に勝手なお願いですみません。とフェルは最後に頭を下げる。


 そこまで聞いて、リリィの中に違和感が生じる。

 フェルたちは世界の危機だと言った。そしてそれに対抗するための聖女が必要だった。なのにこの世界は表面上は平和そのものであり、リリィ自身、マーナたちにマジュウの映像を見せてもらうまでは世界の危機とやらを認識すらしていなかったのだ。


 上位界の判断とその危機感に反して、この世界の状況が平穏すぎるのだ。もちろん、大変な事態になる前にリリィをここに呼び寄せ準備をする必要があったと言われれば納得はできるが、それでも何故か違和感は消えてはくれなかった。


 何がここまで自分の胸にわだかまっているのかは理解できなかったが、きっと考えすぎに違いない。そもリリィは、自分の思考が常に最悪を想定してしまうことを熟知している。そんなことはない、と思いつつもしそうだったら、と思考を巡らせて無駄に頭を使うことも珍しくはないのだから、いつもの悪癖だと片付けることにした。


「まあそうだよね。全部の問題をフェルちゃんたちが解決しちゃったら下位界の人は向上心もなくなっちゃうだろうし、それはしょうがないよ」

「そう言っていただけると助かります。できることが限られている分、ボクもサポートは惜しまないつもりなので、なんでも積極的に言ってくださいね」

 これからもフェルに世話をかけてしまうであろうことに、リリィは胸中で感謝する。


「あ、そういえば、お仕事ってどうすればいいのかな?国やらそういう規模で資金援助してもらえるからお金には困らないみたいなことは言われてたけど、私はマジュウと戦わなきゃいけないんでしょ?どの仕事をすればいいの?」

 ここに来てとても初歩的なことに気が付いた。確かマーナかガドルが言っていたマジュウと戦っていた人たちはえーと…


 などと考えていると、フェルの声が鼓膜をノックする。

「軍ですね。マジュウと戦うには軍に入らなければいけません。なるべく早いうちに軍に入り、戦闘というものに慣れておかなければいけないので、明日にでもマーナさんたちに伝えるようにしましょう」


 軍、なんとも厳つく、そして直球なネーミングだ。自衛隊のようなものだろうか、そのイメージが合っているかは定かではないが、それ以外に類似している職業が思いつかないのも事実。とりあえずは気になるところを順番に聞いてみることにした。


 軍というのは何も国家を守るための武力を指すものではないらしい。そこが一番驚いたが、軍の成り立ちからしてなかなかに興味を惹かれるものであった。


 曰く、始まりは魔力を持った動植物、略して魔物から人々を守るために結成された団体であるとか。それはリリィの知識の中にある、思想を同じくする者が集まるギルドやクランというものに近いのかもしれない。


 反して、リリィのイメージする国を守る武力、すなわち自衛隊の役割に近いのは騎士団と言われるものだった。そう言われてみればなんとなく理解できる。


 対魔物団体の勢力は徐々に増し、世界各地にその拠点がおかれるようになったのだそうだ。彼らは卓越した戦闘技術を以って人々を守り、信頼を勝ち取っていった。


 その創始者もまた人徳のある者で、戦闘技術を独占することなく広めていった。結果、各地に赴いた対魔物団体と騎士団は深く関わり、二つはやがて併合し、軍といわれるようになったらしい。

 どうやらこの世界では人間同士の争いよりも魔物の脅威の方が大きかったようだ。


 共通の敵があれば味方になるのと同じようなものだろう。とにかく軍というものはそうしてできたものであり、人やその財産を魔物から守るための組織なのだそうだ。

 魔物の脅威に対抗するため、各国は関係を密にし、互いに助け合うことを優先した結果、時が経つにつれて国家を守る騎士団の性質は薄まり、今に至るのだそうだ。


 国家間の戦争をする余裕もないとは、魔物はどれほど恐ろしいのだろうか。少しばかり興味が湧いてきた。

「魔物ってどんなのがいるの?」

「そうですね、率直に言えば怪物のような動植物です。口の生えた樹木だったり、異常に角の発達した牛だったりと様々ですが、元となった生物の特徴が残っている場合がほとんどです」


「まあ今では技術の進歩や魔法の研究が進められていて、どんな魔物であろうとも軍の敵にはなり得ません。今の軍にとってはマジュウ対策が最優先事項となっています」


「なるほど、じゃあ軍に入るために必要な技術とか知識とかあるかな?」

 もし試験などがあるのならば今から準備しても早すぎることはない。今のうちに軍に入るために知っておけることがあるなら聞いておくべきだとリリィは考えた。


「いえ、特にこれといったものはありません。簡単な体力テストがあるだけですし、軍に入った後ならばいくらでも強くなれるような環境があるので、今のうちにできることといえば魔力の操作を練習しておけばいい、というくらいでしょうか」


 いくらでも強くなれるとはどういうことだろう。まさか地獄のようなトレーニングが待っているとでもいうのか。ゴクリ、と固唾を呑んだ。


 するとそんなリリィの様子を察知したのか、フェルがフォローを入れる。

「ええっと、多分リリィさんが想像しているような方法ではないですよ。大体は魔力の操作と魔法によって強くなるということなので安心してください」


 ほっ、と一安心する。体を動かすのは嫌いではないけれど、他者に強制される運動は苦痛ですらある。そう考えているリリィにとってその情報はとてもありがたいものだった。


「でも基礎体力はあるに越したことはないのでトレーニング自体は普通にあるんですけどね」

「うえー」

 さっきの安心はどこへやら、途端に嫌そうな表情を浮かべる。


「うーん、でもしょうがないか。頑張るしかないよね」

 ここでうだうだ言うのも不毛だ。とりあえずは今出来ることをやっておこう。


「じゃあ魔力の操作は練習しておいた方がいいよね?」

「そうですね、逆に言えばそれさえマスターしてしまえばあとは体力トレーニングくらいなので今のうちに練習しましょうか」

 するとフェルはたちまち結界を張り巡らせる。昨日と同様のものだ。


「これまでの《治癒の輪》の使用で、魔力の線を感じ取ることができたと思います。今日は目を閉じて魔力にだけ集中してみましょう」

 言われるがまま、リリィは瞼を下ろし、呪文を唱える。

「《治癒の輪ヒーリング・リング》」


 すると、目を閉じているからか、いつもより鮮明に魔力の流れを視ることができた。見ていないのに視えているというのはなんとも不思議な言い回しだが、こう表現するほかない。

 心臓から伸びた魔力の輝きは、なんとなしにテーブルに置いていた手のひらの上で銀色の光を内包した輪となって現れる。


 出現する際に視えていたのはその形…ではなく魔力の動きだった。無数の細い魔力の糸が編み込まれ、絡まり合い、一つの銀輪を形成するまでの工程が脳裏に焼き付いている。

「すごい、めっちゃよく視えるよこれ!」

 幻想的だった。自分の心臓から伸びた光芒が細い糸となり輪を構成する様子はまさにファンタジー。


 そんなふうに興奮気味なリリィにフェルはこう返す。

「はい、それではこの《治癒の輪》を、まずは自力で作り出せるようになってもらいます」


「うぇ?」

 なんとも間抜けな声と共に銀の輪は砕けて、周囲を明るく照らす。パリィンという音がひどく遠くから聞こえたような気がした。


「リリィさんが能力を使用する時、今までは自動的に魔力が《治癒の輪》を形成しているだけでした。まずは手動で出来るようになるのが上達のためのワンステップだと思ってください」

 言っていることは理解できる。しかし言うは易し行うは難し、とはまさにこのこと。


「え?この芸術品みたいな細かいものを私が作るの?まだ魔力検査の時ももたつくのに?」

 ただ魔力を流し込むという作業ですら時間のかかる自分に、そんな繊細なことなどできるわけがない。


 そう伝えるとフェルは、

「では試してみましょう。リリィさん、さっきの魔力の流れは覚えていますね?それをなぞって《治癒の輪》を作ってみてください」

 なんて言ってみせた。


 何を言っているんだろうかと思いつつも、言われた通りに魔力を操ってみる。

(心臓から光を伸ばして、手のひらまで。うーん、こっからが難しいんだよね。魔力の糸を細く伸ばして…ここは重なって、こっちは折れ曲がって、あっちは編み込まれるように複雑に……ってあれ?)


 みるみるうちに魔力の光は形を成して、あっという間に《治癒の輪》は完成した。

 なぜこんなにも上手くいったのかが飲み込めないリリィは、手のひらの銀輪とフェルの顔を行ったり来たり見比べて頭上にはてなマークを浮かばせていた。


 そんなリリィにフェルは微笑を浮かべながら、

「ふふふ、リリィさんは今まで何度も《治癒の輪》を使用してきました。そのおかげで精神体が魔力の流れを覚えているんです」

 と告げた。


「魔力というものは液体のようなものです。ただ体外に出せば壊れた蛇口にように魔力を垂れ流すだけですが、そこに水路が有ればどうなりますか?」

 いつぞやも見た教師のような顔で問いかけるフェルに、リリィは素直に答えた。


「そりゃあ、水路に沿って進むんじゃない?」

「その通りです。そして魔力を決められた手順で操作すれば魔法が発動します。つまりリリィさんはいま、水路を作り上げたのではなく、出来上がった水路に水を流しただけなんです」


「へえー、じゃあもう《治癒の輪》の作り方は体で覚えてるってこと?」

「はい。頭の上に出したり、足の裏に出したりというのも既に可能ですよ」

 リリィは手のひらにある輪を砕いてから次の行動へと移る。


 ………

「本当だ……」

 なんとも簡単に頭上に《治癒の輪》を作り出すことに成功する。こうしていると天使のようにも見えるが、そこには似つかわしくない驚愕の表情を浮かんでいた。


「あとはリリィさんの課題は、これを小さく出来る様になるのと、発動までの時間を短くすることですね」

(あれ?小さくするってなんの意味があるんだろう?)


 フェルの言葉に疑問符を浮かべたが、そんな思考はすぐに訂正された。

(あ!そういえば私の相棒になる人は魔法とかが効かないんだったっけ)

 つい昨日のことなのに今日起きたことが大きすぎてすっかり忘れていたフェルとの会話を思い出す。


 確か、ルードという人は上位生命体と同じ特性を持っていて、そのせいで通常の方法ではリリィの《治癒の輪》すら効かない。それを解決するため、口の中に入るほど小さくして体内から治癒を施すのだとか。


 あの精密な魔力の輪をさらに小さくする必要があるとなるとなかなかに億劫だが、そんなことも言ってられない。幸いにして今日は時間がたっぷりあるのだからたくさん練習すればいいのだ。


 リリィは意気込んで魔力操作の練習にとりかかった。


(どうか上手くいってください…!)

 フェルの思いには気付かないままに。

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