第8話:呪殺返し・ジェラルド侯爵フレデリック視点

 力技の戦しかできないフィッツ辺境伯が役に立つ場面は限られている。

 だが『ハルバートの悪魔』と綽名される剛勇無双のフィッツ辺境伯は、使い時を誤らなければ大きな力となる。

 今回がそうだ、今ならフィッツ辺境伯が役に立つ。

 だがフィッツ辺境伯は自分の愚かさを理解していないから、私が王位奪った後で剛勇に頼って私を殺し、王位を簒奪しようとするのは確実だ。


 ダウンシャー公爵は、あれでなかなかの騎士でもある。

 だが単に騎士の実力よりも、一軍の指揮官としての実力の方が問題だ。

 長巻の名手と評判のサンズ男爵家の次男を召し抱えたとも聞く。

 その次男とフィッツ辺境伯のどちらが強いか、それが問題だ。

 できればフィッツ辺境伯が殺された後でダウンシャー公爵を呪殺したいのだが、どちらが勝つか判断できん。


「おい、ダウンシャー公爵の所に刺客を送れ。

 フィッツ辺境伯の方が生き残っていたら、いいな」


「分かっております、ご安心ください」


「それと、フィッツ辺境伯が殺されたら使い魔を送れ。

 その合図と共に呪殺を行う」


「承りました」


 大した魔力は持っていないし、密偵としての能力も並でしかないが、使い魔を送れる密偵は貴重だ。

 敵の動きに合わせてこちらが動けるからな。

 

★★★★★★


「侯爵様、フィッツ辺境伯がサンズ男爵家の次男とダウンシャー公爵に殺されてしまいました。

 フィッツ辺境伯の一撃をサンズ男爵家の次男が受け止めた所に、ダウンシャー公爵が目にも止まらぬ速さで斬りかかって一刀両断しました。

 ここにいる刺客達では全く歯が立たないでしょう。

 私も直ぐに殺されてしまう事でしょう。

 できる限り時間を稼がしていただきますが、どれほど持つ事か……」


「呪殺だ、今直ぐ呪殺をを行え。

 お前は馬車の支度を急がせろ、直ぐに領地に逃げるぞ」


 ギャアアアアア。


 痛い、痛い、痛い。

 手が、足が、身体中が燃えている。

 眼の前が真っ赤だ。

 私は、私は燃えてしまっているのか。

 ダウンシャー公爵を火炎魔術で呪殺した上で、屋敷も一緒に焼き払って、呪殺の証拠を隠蔽する心算だったのに、私の方が焼かれているのか。


 まさか、返されたのか。

 これだけの術者を用意して、ダウンシャー公爵の髪の毛まで手に入れて、万全の用意をしたはずの呪殺が返されたというのか。

 いやだ、死ぬのは嫌だ、絶対に死にたくない。

 私が王になるのだ、私こそが王に相応しいのだ。

 あのような愚かな王を廃して私が王になった方が、この国の為なのだ。

 死にたくない、嫌だ、私が王になるのだ。

 痛い、熱い、苦しい、死にたくない、王になりたい、死にたくない。

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