今思うと、私はただどこかにはいる平凡な大学生だった。

小説を読めば読むほど、その苦境や栄光や、その人にしか得ることの出来ないリアルな体験を切実に願ってしまう。しかし、私はどこまでも平凡な家庭に育った一大学生であった。

「何もないことが幸せである」

その理屈がまさに真理であることは間違いない。しかし飽き性の私にはどうにも刺激が足りず、さまざまな苦境から立ち上がる生命力を乞う。ただ、実際に体験をしたことのないことを憶測で語ることほど偽善的なものはない。そして、何より生来の私の臆病な気持ちが平凡から無意識的にしがみついているのだ。私は完璧主義なのである。予測などは正しく刺激的ではない、怠惰な考えであった。それなのに、私は刺激を追い求める前衛的な自己とは反対に、今の平凡を捨てがたいという一種の矛盾を抱え続けていた。


少しの間交際をした同級の彼氏はとても誠実な人だった。

優しく、いじらしく、優柔不断な彼の優しい側面が好きだった。それは変わりない事実である。しかし、私はそれとは相反して性に目覚めてしまった。


女性としての私が覚醒したその後には、性としての堕落が待ち受けていた。主観的に見ようと、客観的に見ようとこれは紛れもない事実である。ある夏の夜、私は彼と別れ、早くも性的な枯渇を感じていた。


そんな時に出会った一人の男性は、私をしばらく精神的に縛り付けることになるのだ。

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