第四話⑥ 待ってたよ、お前をなァァァッ!
鬱陶しい。僕はそうとしか思えなかった。
警察と思わる輩がこちらと距離をとり、代わる代わるに銃火器やロケットランチャーを撃ち込んできている。
八岐之大蛇と化した僕の身体は、現代兵器ごときで致命的なダメージを受ける程ではなかったが、それでも絶え間なくぶつけられるのは気分が良いものではない。
あのヒロインも逃してしまったし、気分は最悪だ。
「……ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
僕は吠えた。色々と溜まってきた鬱憤を吐き出す意味もあった。
「ッ! 気をつけろ、来るぞッ!」
ジュンジとか呼ばれていた、頭頂部が禿げたおっさんがなんか叫んでいる。ああ、そうだ。行くぞハゲ。よーく見ておけ、僕の力を。
八つの首をまとめる根本から、僕は無数の触手を生やしてやる。それで持って警察の輩が大勢いる所を狙って、やたらめったらに振り回してやった。
巨体になってしまったが故に、こういう細かい奴らを狙うのが少し面倒だな。象がアリを丁寧に踏み潰すのは、少しばかり骨が折れる。
「「「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」」」
かと言って、象がアリに負ける結末なんて、早々ある訳でもない。滅多打ちにしてやると、警察達は一気に瓦解した。
僕が振るってやった触手に打ちのめされて、奴らは地面に横たわっている。無様だな、いい気味だ。
うるさく怒鳴っていたジュンジとやらも、地面でぐったりしている。やれやれ、ようやく静かになったか。
「…………ハァ……」
僕はため息をついた。せっかく僕がここまで強くなったというのに、肝心のあの女は遂に現れなかった。何処かへ行ってしまったのか、それとも僕に恐れをなして逃げ出したか……どっちだとしても、ため息しか出てこない。
「……あーあ。つまんねー。もういいや……」
僕の復讐のいの一番にしてやろうと思っていた女も来ないし、やってくるのは有象無象の雑魚ばかり。さっきボコボコにしてやった婦警の格好のヒロインも、戻ってくる気配はない。
なら、もういいや。さっさと僕の力で、全部ぶっ壊してやろう。まずは街全体だ。見るもの全てを破壊してやる。その後は、地下だな。
確か街の避難案内には、地下シェルターと書いてあった筈だ。何処かまでは解らないが、地面に向けてあのレーザーを乱射してやれば、その内片付くだろう。
僕の復讐も、一度終わりだ。生き残りがいたとしても、後で見かけた時に殺せばいいしな。
その後は……どうしようかな。まあ、僕は最強なんだ。気ままに旅でもしながら生きていくのもいいし。適当な金持ちでも捕まえて脅して、また引きこもっても良い。
自由だ。力がある僕は自由なんだ。強い僕は、何をしたって良いんだ。
楽しみだなあ、何をしようかなあと期待に胸を膨らませながら、僕は体内のエネルギーを集める。それを口から吐き出して、眼前の街を瓦礫に変えてやるんだ。
「……"
まずは一発。そう思った僕が一つの口を開け、街に向かって黒いレーザーを放ったその時。
「『"
聞き覚えのある声と共に、幾重にも重なった風の障壁が現れて、僕の放ったレーザーを遮った。
また、邪魔された。そう言う感情ももちろんあったが、僕はそれ以上に歓喜を覚えていた。その声は……その声はッ!
やがて僕の目の前の空中に、一人の女が現れる。
先ほど聞こえたあの声に、長い黒髪。キリッとしたツリ目に、Tシャツにはちきれんばかりに詰められた大きな胸。以前に僕の頭をかち割った宝石が先についた杖を持つ、風を操るこの女。
あいつだ、あの女だ。僕はお前を、ずっと待ちわびていたぞ。思わず、僕は叫んだ。
「待ってたよ、お前をなァァァッ!!!」
「うっせぇッ!!!」
『うっさいッ!!!』
そして、女は僕に向かって突っ込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます