第四話② ウォーミングアップにはなる
「何処行ったッ! 出てこい、僕の邪魔をした黒髪巨乳のあの女ァァァッ!」
僕、志藤カオルは吠えた。ようやく回復してきたので病院を抜け出し、取り込んだルッチの記憶を頼りに山の頂へとやってきた。
立ち入り禁止になって警察らが見回りしていたが、異形に姿を変えた僕の敵では無かった。
そのまま雑魚共を一掃し、ルッチが作った機械の前に立つ。
記憶ではルッチはこの中に、街の人から吸い上げた感情エネルギーとやらを溜め込んでいた。
ルッチはその溜め込んだ感情エネルギーを熱エネルギーに変換して一点に集中させ、大砲のように撃ち出す兵器の実験をする予定だったみたいだ。
しかし奴はその前に、感情エネルギーの一部をその身に取り込んで自身を強化し、あの女と互角にやり合っていた。
つまり、ここにある感情エネルギーは、誰かに取り込むことができる代物ということだ。それならば。
「あいつは一部だけだったが……この感情エネルギーの全てを、僕が取り込んでやる。この力があれば、僕は……喜べよルッチ。お前の実験は、役に立ったぞ?」
そして記憶を頼りに僕は機械を操作し、溜め込まれていた全ての感情エネルギーをこの身に吸収して、
「キシャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
覚醒した。元々蛇のような形をしていた僕の異形の姿は、感情エネルギーを過剰に取り込んだ結果、一気に膨れ上がった。
図体はその辺のビルと並ぶくらいまでに大きくなり、頭の数も増えた。
ぶっちゃけ、頭くらいだったらいくらでも生やせそうではあったが、ここはゲームで見たことある怪物に合わせて、八つにしてやろう。八岐之大蛇ってやつだ。
身体の変化を終え、その維持も安定してきた頃、僕は昂ぶる気持ちのままに口の一つを開けた。
するとそこから、イメージした通りに身体内部に溜まっている感情エネルギーを吐き出すことができた。
まるで漆黒のレーザーのように飛んでいったそれは、街の建物に当たり、それを容易く崩壊させる。
自分の力は、建築物すら簡単に壊せる。その様子を見て、あまりに強大なものを得たと実感した僕は、気分が昂ぶるのを感じていた。
良いね、これ。この攻撃を"
「ハハ、ハハハ……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! いいよいいよ、最高じゃないかッ!
さあ復讐の時間だぜッ! 出てこいよ黒髪巨乳のヒロインさんよぉッ! 出てこないってんなら後回しだッ! 先ずはクソ親に元クラスメイトにクソ業者を……」
「待ちなさいッ!」
復讐相手を高らかにあげつらっていると、不意にそんな声が聞こえた。
奴か。嬉々として八つの頭にある十六の目を向けると、そこには奴とは似ても似つかない女が立っていた。
同じつり目だが、髪の毛は肩につかないくらいの短髪で、色は少し赤っぽい。そして胸は絶壁。同じ杖を持っているがTシャツにジーンズではなく、婦警の格好をしていた。なんだ、あの女じゃないのか。
「……なんだお前? 僕になんか用か?」
『なんか用か、じゃないわッ!』
すると、別の声も聞こえた。
『今すぐに破壊活動を止めて大人しく自首しなさい、ルッチッ!』
「ルッチ……? ……ハア、何を勘違いしてるんだよ」
あまりに的外れな事を言っているのを聞いて、僕は笑った。
「ルッチは僕が取り込んでやったよ。奴はもういない。奴の記憶も、力も、全部僕のもんだ」
『な……ッ! ま、まさか……ッ? "
何をそんなに驚いてるんだよ。これくらい、どうってことなかったさ。ま、実際は僕が優秀だからこそ、なんだけどねえ。
「……と、とにかく! これ以上の狼藉は許さないわッ! 警告が聞けないのなら、実力行使に出るわよッ!?」
「……うるさいなあ」
今度はまた別の女の声だった。ああ、そうか。これはルッチの記憶にあった、"
ルッチが使おうとしていた"
そんなもん好んで使ってるなんて、コイツらうるさいだけじゃなく、バカなんだな。ああ、可哀想に。
「……ま、いっか。"
『舐めるんじゃないわよッ!』
「『"
直後。僕に向かって風の刃が飛んできた。これは、あの時僕を切り裂いた魔法じゃないか!
この巨体は早々動かせるものでもない為、咄嗟の回避なんて無理だ。そう思って身構えた僕だったが……。
「『な……ッ!?』」
「……は? 何これ、舐めてんの?」
飛んできた風の刃は、僕に当たりはしたものの、以前のように身体を切り裂く事はなかった。
僕の大きな身体の一部を少し揺らした程度で、あっさりと消えていく。
「……とんだ期待外れだな、全く」
そう言って、僕は八つの蛇の頭を動かした。狙いはもちろん、このしょーもない女だ。
『く……ッ! この……ッ!』
「『"
生やした牙で噛み砕いてやろうと頭を動かすが、やはり的が小さいうえに空中をチョコマカと逃げやがるので、なかなか捕まらない。
「なら、こうだ」
「『な……ッ!?』」
僕は頭の一つを細かく分裂させ、細長い触手の群れを成した。全てに僕の意志が宿った触手で、このうるさい女を捕まえてやろう。
「く……ッ!」
『あああッ!』
逃げ道を塞ぐ形で触手の壁を作り、そこに無数の触手を伸ばしてやったらあっさり捕まえることができた。
なんだコイツ。前のあの女と比べて、全然大したことないじゃないか。出し惜しみでもされてんのかな?
そうだとしたら……。
「……舐めんな」
「『ぐぁぁぁああああああああああああああッ!』」
触手で捕まえたこの女を締め上げる。全身に巻き付かせた触手、全部でだ。
ふざけんな。どいつもこいつも僕を馬鹿にしやがって。許せない。僕を馬鹿にする奴なんか、許してやるもんか。
あの女じゃないなら、犯してやる必要もない。僕の初めては、あの女って決めてあるんだ。その辺の雑魚で捨てる訳にはいかない。
ま。コイツを殺せば、あの女も出てくるだろう。さっさと……いや、嬲って見世物にした方が良いな。あの女に対する見せしめだ。良いね、そうしよう。
そう思った僕は締め上げている女を街の方へ向け、大きな声で怒鳴った。
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