第三話④ 何だってんだよこれはァッ!?


「……おかしいですねェ」


 一人でラボに籠もって経過を見ていたルッチは、手元にあるタブレットに表示されている画面を見て首を傾げていた。


 街中にこっそり配置して回っていた端末からの反応が、次々と途絶えている。だいぶデータも集まってきたので、そろそろ本番と行こうかと思っていた矢先に、この様だ。


「……ワタシの端末が自壊している訳がないですし……これは、勘付かれましたかねェ……?」


 思い起こされるのは、魔法取締局の彼女らの存在だ。奴らならやりかねない。


 このまま端末が破壊されていけば、実験どころの話ではない。まだ全てを壊された訳ではないが、それも時間の問題だろう。


 ルッチは頭の中でこれからの展開を想定し、方針を考える。


「……もういっかァッ!!! 出力上げれば何とかなるよねェッ!!!」


 そうして彼はそう言い放つと、さっさとタブレットを操作して、とある画面を出す。表示されたポップアップ画面には、最終実験を実行しますか? はい、いいえの文字があった。


「もっちろんは~~~~~~~いッ!!!」


 ためらいなく、はい、の文字をタッチした瞬間。周囲の機械と魔方陣の全てが一斉に動き出した。動いていなかったものも含めて、全てだ。


「ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!! 全力全開とはいかないけど、どれくらいの威力が出せるだろうねェ! 楽しみだなァ! 本ッ当~~~~~~~~に楽しみだなァ!

 ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


 いつの間にか、彼の手元のタブレットには、充電率という文字が現れ、それは徐々に数値を上げていった。



「ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! うるさいィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」


「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああッ!!! いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


「助けてッ! 助けてぇぇぇッ!!! この音を止めてェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


「何だってんだよこれはァァァッ!?」


『うっさいッ! 少し待ちなさいッ!!!』


「エルザッ! 早く解析をッ!」


『解っていますッ!』


「『"魔道解析スキャンニング"ッ!』」


 周囲の黒い球体を破壊して回っていた俺たちだったが、やがて異変が起きた。街中の人達が突如として発狂し始めたんだ。


 球体を壊した筈の範囲内でさえ、苦しみ始めている人々がいる。これでは今までの破壊活動が無意味であったんじゃないかという気さえした。


「ンv日tん祖bvsjkb西h四bvれおvもtにヴぁえprもbにうskmbきbvそfmpkンすいbにpmbklfにぃbんsptktmlfん弥うspmtぽん蚊spmbん疎いtpmぼウノptッッッッッッ!!!」


 例に漏れず、俺たちの頭の中にも謎の大音量が鳴り響いている。


 ジュンジさん達ですら倒れ始めているらしく、無事なのはこの世界に実体をもっていないウラニアさんだけだ。


 俺も大音量が頭の中で絶えず鳴り響いているこの現状は、かなりヤバいっつーかァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアうるせぇぇぇええええええええええええええッ!!!


 単にうるさいでは済まない不快感が、心の中を占めていた。音を遮断することができず、永遠と続くノイズのような音で気が狂ってしまいそうだった。


『……なる、ほど。これ、なら、解除、できる……ッ!』


 自身に"魔道解析スキャンニング"をかけて状態を把握したらしいエルザが、再び口を動かした。もちろん、彼女の頭の中にも音は鳴り続けているらしい。


「『その身体に宿りし邪悪を取り払い、この身に感じるはただただ透き通った風のみ……"慈愛ノ風エアリアルキュア"ッ!』」


 俺は自身の頭の中に木霊する謎の大音量でほとんど詠唱は聞こえなかったが、少しして自分の身体を一陣の風が通り抜けるのを感じた。


 その瞬間、音量が徐々に小さくなっていき、やがて止んだ。完全に音がなくなったことを確認し、俺たちは何とか立ち上がる。


「ハア、ハア、……さ、サンキュー、エルザ……」


『あ、あたしで解除できるレベルで、良かった……』


「復帰できましたか? では少し、急がなければなりません……」


 肩で息をしている俺達だったが、ウラニアさんの真剣な表情から、どうもそうは言っていられないらしい。


 正直、気分的には一息つきたいくらいのレベルなんだが、制御権を持っているエルザは無理やり身体を起こした。


「急がなければ、と言うと……?」


「叫んでいた方々が次々と倒れ、そして黒い筋が煙のように立ち上っています。あの球体の解析をした時に、ある場所へとエネルギーを送る役割を持っていたのは覚えていますか? おそらくそれが、もう始まっています」


 そう言って、ウラニアさんが空を仰いだ。つられて俺達も空を見てみると、人々から立ち上る黒い煙がまるで濁流のようなうねりとなり、ある方向へと向かって流れているのが見える。


 あれが、人々から抜き取られたエネルギーなのか……?


「……じゃあ、あのうねりの先に」


「はい。おそらくはそこに……」


『……解ったなら、さっさと行くわよ』


 エルザがそう言うや否や、バッっと飛び上がった。"風圧全速エアリアルブースト"も起動し、一気に加速する。ウラニアさんも、それについてきていた。


 うねりが進む先を見ると、この街を一望できる山の頂上へと続いているようだった。と言うことは、あの山の頂に。


「……この先にアイツが」


『ルッチがいるッ!』


 俺が口にした時に、エルザも声を上げていた。握っている杖を更に強く握りしめ、うねりが向かう先へと進んでいく。


「待ってろよテメーッ! ぶっ飛ばしてやらァッ!!!」


『みんなの仇は、あたしが取るッ!!!』


 俺たちは再び声を上げると、空中を行進していった。憎いアイツの顔を、頭に思い浮かべながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る