12.【SIDE: アーヴィン家】外れスキル持ちはクズだ、とゴーマンは言い放った
それは、ある日のアーヴィン家。
私――リナリー・ローズは、今日も憂鬱な気持ちで朝を迎えました。
私はローズ家の四女として生を受け、今はアーヴィン家でメイドをしています。
使用人もアーヴィン家に相応しくあれ、と洗練されたマナーを求められましたが、理不尽な要求はなく、先輩にも恵まれて、働きがいのある職場でした。
……ですが最近、その状況は一変してしまいました。
「本当にどうしてこんなことに……」
すべての歯車が狂ったのは神託の儀。
次期領主になるはずだったアレス様は外れスキルを、ゴーマン様は【極・真剣使い】という超レアスキルを手にしました。
その結果を受けて、領主様はあっという間に手のひらを返して、ゴーマン様を次期領主に決定したのです。
そしてあろうことか、アレス様を追放処分にしてしまったのです。
――アレス様を追放することは、ゴーマン様の希望だったと言います。
彼のわがままを、誰にも止められなくなったのです。
私は先日、ゴーマン様の専属メイドとなりました。
ゴーマン様が、専属メイドを増やしてほしいと父親に要求したからです。
「はあ。これから毎日、ゴーマンお坊ちゃまのご機嫌伺いか……」
私は憂鬱な気持ちで、ゴーマン様の部屋に向かうのでした。
◆◇◆◇◆
「失礼します」
「何をしていた! 遅いぞ!!」
部屋に入った瞬間、罵声が飛んできます。
「申し訳ございません」
「まあ良い。早く朝飯を持って来い!」
「は、はい! 準備がございますので、少々お待ち――」
ゴーマン様はつかつかと私に歩みより、パーンと私の頬を張りました。
「良いからさっさと持って来い! ふわふわマカロンに、食後のティーもセットだぞ!」
いきなりどうして?
――私は思わず地面に倒れこみ、呆然とゴーマンの顔を見つめ返してしまいます。
「いつまでそうしている!」
「申し訳ございません」
再びゴーマン様が手を上げようとします。
私は慌てて立ち上がり、必死に謝罪しました。
「まったく。どいつもこいつもノロノロしやがって――たまたま良いスキルを貰っただけだと、俺を舐めてるんだろう?」
「そ、そのようなことはありません」
「どうだかな? 働きが悪いやつは、すぐにクビにするからな!」
「申し訳ございません」
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
アレス様なら、こんな無茶苦茶な要求は絶対に出さないのに。
アレス様は、本当に謙虚な方でした。
日々の剣の修行に加えて、次期領主の教育にも真摯に取り組んでいました。
屋敷で働くメイドが相手でも、分け隔てなく接してくれました。
それなのに――
「なあ、リナリー。外れスキル持ちなんて例外なくクズだ。そうは思わないか?」
「……おっしゃる通りです」
私は思わず、ギリリと歯ぎしりしたくなりました。
何故なら私も、《外れスキル》を持って生まれたからです。
それを分かっていながら、この方は、わざわざそんなことを口にしたのです。
「そんな外れスキル持ちにも関わらず、俺はわざわざおまえを選んでやったのだ。俺は下らない事に捕らわれず、その人が持つ実力を見抜く人間だからな!」
「……さすがは、ゴーマン様です」
心にもない私の賛辞に、ゴーマンは気持ちよさそうに笑いました。
外れスキル持ちだからとアレス様を追い出しておいて、どの口がそんなことを言うのでしょう。
こんな人に、一生仕えるの?
こんなことを、ずっと続けるの?
……それは、ちっとも明るい未来だとは思えませんでした。
私は外れスキル持ちは要らないと、半ば強引に奉公に出されました。
そんな私がアーヴィン家で頑張ろうと思えたのは、アレス様が居たおかげでした。
彼は意識もして居ないのでしょうけど、私は彼の優しさに救われたました。
だから彼の専属メイドになって、いずれは恩返ししたいと願って、仕事にも前向きに取り組めたんです。
――アレス様は私の心の支えでした。
それなのに……私はアレス様が大変なときには、声をかけることが出来ませんでした。
どんな表情で会えば良いのか分からなかった――あまりに臆病者です。
そうして迷いを抱えたまま、今もこうして屋敷にくすぶっています。
もう遅すぎるかもしれない。
それでもアレス様を追いかけよう――私はひそかに、そんな決意を固めるのでした。
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