11.vsカオススパイダー(2)~決着~
「随分と無茶を言ってくれるわね」
『アイシクル・ガード!』
足止めのためにティアが生み出したのは、白銀に輝く氷の盾。
強固な壁を展開する氷属性上位魔法である。
氷属性に完全耐性を持つ敵が相手でも、物理的な壁なら……。
「な、なにそれ!?」
そう思ったものの、そんな希望的観測は、簡単にぶち壊される。
カオス・スパイダーは氷の壁をものともせず、ぶち破りながら僕たちを追いかけてきたのだ。
森の中、木々をなぎ倒しながら突き進むカオススパイダーにとって、なんら障害にはならないようだった。
「ティア! さっきの盾って、展開してから動かせる?」
「いきなり何? 出来ると思うけど……」
「ならちょっと試したいことがあるんだ。あいつの足元を覆うように、氷の盾を出しせる? できる限り大きいやつ!」
「やってみるけど……すぐに破られると思うわよ?」
『アイシクル・ガード!』
ティアは頷き、即座に氷の盾を生み出す魔法を展開。
カオス・スパイダーの足を覆うように、半径数メートルの氷の壁が生み出された。
バキバキバキバキッ!
カオス・スパイダーは鋭い足先で、氷を砕きながら凄まじい勢いで突き進む。
一瞬でも足止めになればと思ったが、そう甘くはないか……。
モンスターの紅い瞳がギョロリとこちらを向いた。
まるで「それで終わりか?」と嘲るようだった。
「アレス、ごめん。もうMPが……。あまり何度も、撃てるような魔法じゃないわよ?」
「いいや、大丈夫。ここから盾を操って――」
ティアは作戦を聞き、目をまんまるにしていたが、
「さすがはアレスね! そんな作戦、私だけじゃ思い付きもしなかった!」
目を輝かせて再び魔法を唱え始める。
ティアは手をかざすと、地面を覆うように配置された氷の盾を傾け、そのまま垂直になるよう操作した。
それは一瞬の早業――カオススパイダーは動く足場に対処できず、ツルツルっと滑り落ちていく。
そうこうしている間に、氷の盾はカオス・スパイダーを押しつぶすように倒れ込んだ。
「やった!」
「ティア、流石だよ! ……でも走って!」
「わ、分かってるわよ!」
僕たちはそんな様子を見ながら、全力で走って距離を取っていた。
不意打ちには成功したが、当然これだけでは倒すには至らない。
案の定、カオス・スパイダーは、そう時間もかからず氷の盾をぶち破った。
ティアの生み出した氷の塊に押しつぶされたことになるが、当たり前のように無傷。
勝ち誇ったように紅い瞳を
「もう終わりだよ」
おそらく十分な距離は稼げた。
僕はカオススパイダーに向き直り、切り札とも言える闇魔法を発動。
『ブラックホール!』
効果は劇的だった。
カオス・スパイダーと重なるように、黒く揺らめく黒点が現れる。
その黒い空間は、敵を覆い尽くすように徐々に広がっていった。
「こ、これが闇属性の上位魔法……」
「凄まじいわね。あのカオススパイダーが、手も足も出ずに吸い込まれていくなんて……」
カオス・スパイダーは苦悶の声を上げる。
必死に術の影響範囲から逃れようとするが、手遅れだった。
断末魔の声とともにカオス・スパイダーはブラックホールに吸い込まれ、やがて完全に消滅した。
――――――――――
バグ・モンスターを討伐しました。
―――――――――
◆◇◆◇◆
「た、助かった……」
思わずティアが、その場に座り込んだ。
魔法を放ちながら、全力で走り続けたのだ。
無理もない。
「うおおおおおお!」
「あの2人すげえええええぞ!?」
「まさか本当に、カオス・スパイダーを倒しちまうなんて!!!」
戦いが終わると同時。
木々の影から歓声を上げながら、こちらに飛び出してきた。
どうやら別れた兵士たちは、戦いを見守っていたらしい。
「み、皆さん!? どうしてここに……」
「子供2人を、おとりにして逃げ帰ったなんて、笑い話にもならねえ。助けに入れないか伺ってたのさ」
「もっとも戦いが凄まじすぎた。とても手が出せなかったんだけどな……」
兵士たちはそう言って、苦笑いした。
むしろ周囲に人が居たら、ブラックホールに巻き込んでしまった可能性が高い。
結果オーライである。
「それにしても……強敵でした。あんなモンスターが、ゴロゴロ居るんですよね? もっと腕を磨かないと――」
僕は、戦慄しながら呟いた。
世界の果てに辿り着きたいと夢見ながら、現実には少し強めの領内のモンスターにすら苦戦しているのだ。
まだまだ目指すべき場所は遠い。
「いやいや。氷も炎もすべてを弾く完璧な属性耐性持ち。恐らくは、カオス・スパイダーの中でも、さらに厄介な変異種だよ」
「それをたったの2人で倒しちまうなんて。ああ――ほんとうに世界は広い」
「これほどの強さを持ちながら、まだ向上心を忘れないとはな……。俺たちも気合いを入れ直す必要があるってもんだ」
居合わせた兵士たちは、誰もがテンション高く口々に言い合った。
歴史に残るようなすごい戦いを見た――と兵士たちは、興奮した様子で語り合うのだった。
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