10.vsカオススパイダー(1)~完全属性耐性~
それは異様な光景だった。
真っ白な蜘蛛の糸が、街道沿いの木々を覆いつくしている。
その蜘蛛の巣を支配するように、全長数メートルはある巨大な蜘蛛型モンスターが、じっとこちらの様子を伺っていた。
「あれがカオス・スパイダーですか?」
「君がアレスとティアかい?」
頷く僕たちに、不安そうな視線が向けられる。
どうやら既に現場の兵士には、話が行っているようだ。
「ああ、あれがカオススパイダーだ。幸い動く気配はないが、あの糸をうまく操っていてね。こちらの攻撃が、無効化されてしまうんだ」
「それどころか近づきすぎると、糸に絡め取られて、あっという間にお
そう愚痴る兵士。
既に討伐を試みたものの、見事に失敗して今に至ったらしい。
「『ユニットデータ閲覧!』」
僕はスキルで、カオススパイダーを解析する。
――――――――――
【コード】ユニットデータ閲覧
名称:カオス・スパイダー(バグモンスター)
HP:1332/1356
MP:564/564
属性:完全耐性→炎、水、凍、雷、物理
:弱点→闇
▲基本情報▼
――――――――――
「う、うわあ……」
「アレス、どうにかなりそう?」
文字通り桁外れの強さだった。
これまで倒してきた相手とは、比べ物にもならない。
「物理、炎、凍の属性に完全耐性を持ってるみたい」
「な、なによそれ。私たちじゃ、ダメージ与えられないじゃない?」
「そもそもの強さが尋常じゃない。出直すべきだね」
冒険者は臆病なぐらいで丁度良い。
勇気と蛮勇を履き違えてはいけない。
――これも師匠の口癖だ。
弱点は闇属性。
それなら闇属性が得意な魔法使いを集めて、作戦に臨もう――そんなことを提案しようとして、
「え……?」
ぞくりと背筋に寒気が走った。
今、たしかにカオス・スパイダーと、視線が交わったような?
そして嫌な予感は的中する。
カオススパイダーが、のそりと動き出したのだ。
「う、動き出したぞ!?」
「どうなってるんだ!? これまで縄張りを守るばかりで、自ら動こうとはしなかったのに!」
「まっとうに戦っても勝てねえぞ! 逃げろおおお!」
兵士が酷く慌てた様子で、パニックに陥る。
伝令魔法で、何事かを話していた。
そうしている間にも、モンスターは真っ赤な目を怪しく光らせながら、こちらに向かってきた。
その視線の先にいるのは、どうやら僕だ。
――それにしても、恐ろしく素早い。
「敵の狙いは僕みたいです。離れてください!」
とっさに
カオス・スパイダーは、予想通り僕を追いかけてきた。
「これで終わると楽なんだけど――『ビッグバン!』」
立ち止まり、今使える最大級の威力を誇る魔法を起動。カオス・スパイダーに叩きつける。
通常であれば、クレーターを
「やっぱりダメか」
簡単にかき消されてしまった。
これが完全属性耐性かと戦慄する。
「ど、どうするのよアレス!? というかあの蜘蛛、どうしてアレスに襲い掛かってきてるの?」
「わ、分からない。というかティアは、どうして付いてきちゃったの!?」
「そ、それは……アレスのことが心配で」
「え?」
「何でもないわよ! だいたい……私だけ安全な場所で待ってるなんて、冗談じゃないわ!」
強気に言い切るティア。
知り合いが戦っている中、ただ隠れているなんてごめんだと――それこそが氷の剣姫と呼ばれた彼女の生き方なのだ。
とはいえ、カオス・スパイダーの方が、圧倒的に足が早い。
このまま無策にぶつかれば、勝負にもならず、一方的にやられてしまうだろう。
「それでアレス? もちろん、このままやられるつもりなんて無いんでしょ?」
「当たり前!」
僕たちは、近くの森に駆け込んだ。
木々が覆いしげる場所であり、どう見てもカオス・スパイダーの巨体では入ってこられないだろう。
そう思っていたが――
ズゴーン! ズガーン!
カオススパイダーは木々を易々となぎ払った。
それこそが我が道だと言わんばかりに、意気揚々と突き進む。
「そ、それは反則でしょ!?」
「このままじゃ、森に慣れてない分、私たちの方が不利よ!? どうするのよ!」
このままでは追いつかれるのも時間の問題。
僕は現状を打開するために、素早く『魔法習得』のコードを起動する。
――――――――――
【コード】魔法取得
※選択可能な魔法は以下の通りです。
→ ビッグバン
→ ラグナログ
→ ブラックホール
→ デス・オール
――――――――――
「ティア。『ラグナログ』と『ブラックホール』って、どんな魔法か分かる?」
「何よ、いきなり? どちらも神話級魔法だけど――まさか?」
「うん、たぶん覚えられる」
僕とティアの攻撃手段は、カオス・スパイダーには通じないだろう。
ダメージを与えられるとしたら、『チート・デバッガー』を使った攻撃だけだ。
名前からして不吉なので、デス・オールは最初から選択肢から外す。
「この状況で使うなら、どっちが良い?」
「どちらも最上位の範囲魔法! どっちもやばいわよ!」
「それでも、どうしても使うなら?」
「そうね。ブラックホールは、無差別な吸い込み型魔法。強力だけと、この距離じゃ私たちも巻き込まれかねない。といってもラグナログは物理攻撃だし……」
「なるほど。効かないね……」
完全属性耐性持ちの相手に放っても、ビッグバンと同じ運命を辿るだけだろう。
厄介な相手だ。
――――――――――
【コード】魔法取得「ブラックホール」
ブラックホールの魔法を習得しました。
――――――――――
やるしかないだろう。
危険を取らずに勝てる相手ではない。
「ブラックホールを使う。少しでも距離を稼ぎたい。なんとか足止めできない?」
「随分と無茶を言ってくれるわね」
そう言いながらも、ティアの瞳には好戦的な光が宿る。
それから僕たちは頷き合い、カオススパイダーに向き直るのだった。
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