6.変な傭兵に絡まれました

「それで……アレスはこの後、どうするの?」

「まずはティバレーの街に向かって、冒険者ギルドに登録しようと思ってる。それから――」


「分かってるわ。世界の果てを、目指すんでしょう?」


 ティアは、いたずらっぽく笑った。


「ど、どうしてそれを……?」

「『僕はいつか世界の果てを見るんだ!』って、ずっと前から言ってたじゃない?」


 師匠から冒険者だった頃の話を聞いた日の夜に、ティアにそんな事を話したのかもしれない。

 それは無邪気で幼い日の記憶だ。


「お、覚えてたんだね……」

「ぐ、偶然なんだからね! 本当に、たまたま、記憶の隅に引っかかってただけなんだから!」


 何故、そんなにムキになるのだろう。



「ティアは笑わないんだね? こんな年になっても、未だにそんな荒唐無稽こうとうむけいな夢を見てるのかって」

「笑える訳ないじゃない。真っ直ぐで素敵な夢――そう思うわ」


 それからティアは、再びジト目になって、


「それに訳の分からないスキルを授かったみたいだし。アレスなら本当に世界の果てだって辿り着けるかもしれない――そう思うわ」


 そんな事を言うのだった。




◆◇◆◇◆


 ティバレーの街に移動するため、僕たちは街道沿いの通りを歩いていた。

 しばらく進んでいると、道が封鎖されている現場に出くわす。

 その前には、人込みが出来ていた。


「う~ん。通行止めみたいだね?」

「これじゃあ通れない――困ったわね」


 僕は街道を封鎖している兵士から話を聞くことにした。



「なんでもこの先で、カオス・スパイダーが見つかったらしくてな?」

「カ、カオス・スパイダー!?」


 数メートルはある巨大な蜘蛛のモンスターだ。

 巨体に見合わぬ素早さが特徴的で、高い属性耐性でこちらの攻撃をシャットアウトしつつ、最後には糸で絡めとって捕食するという、A級に指定されているやばいモンスターだ。


「こんな村の近くだって言うのに、近頃はA級以上のモンスターもガンガン現れやがる。どうなっちまってるんだ……」


 兵士のぼやきには疲労が見え隠れしていた。


「アレス、どうする?」

「カオス・スパイダーぐらいなら、どうにかなるかな。ティア、倒しちゃおう?」


 急ぐ旅ではないが、こんなところで足止めを喰らいたくはない。



「おいおい、お前みたいな子供がカオス・スパイダーに挑むつもりか? ガキの遊びじゃないんだ。悪いけど、ここを通す訳にはいかないな」

「む。これでも僕はアーヴィン家の次期領主として、訓練してきたんだ。Aランクの蜘蛛ぐらいなら倒せると思うよ」


 師匠に教わった剣だけでなく、新たに習得したビッグバンの魔法もあるのだ。 



「ギャッハッハッハ。お前みたいなガキに何ができるっていうんだ!」

「アーヴィン家の次期領主と言えば、外れスキルを授かって追放されたって話じゃないか? 手柄を立てたくて焦ってるのか!?」


 そんな僕の言葉に突っかかってくる2人組がいた。

 筋骨隆々のおっさんと、ひょろっとしたノッポのコンビだった。



「む。アレスが授かったのは、外れスキルなんかじゃないわ! 誰にも理解出来なかっただけよ!」


「なんだい嬢ちゃん、そんな奴庇って――」

「そんな奴は捨てて、俺たちと良いことしないか? な~に、一晩も遊んでれば、カオス・スパイダーだって倒されてるだろうさ」


 2人組はティアに下品な視線を向けていた。

 彼女は、これから一緒に旅する大切な仲間だ。

 僕はティアを庇うように立ち、挑むように2人をにらみつけた。



「兵士さん。おじさん達を倒せば、カオス・スパイダーに挑む許可を貰えますか?」

「そ、それは勿論だが……。その2人は、ここいらでは有名な賞金稼ぎだ。悪いことは言わない。やめておいた方が――」


「ギャッハッハ! 今さら遅えってんだよ。今更、謝っても許さねえからな!」


 おっさんが獰猛どうもうな笑みを浮かべた。



「なんだなんだ? なんか楽しそうなことになってるじゃないか!」

「賞金稼ぎの2人が、アーヴィン家の外れスキル持ちと決闘するんだってよ!?」

「そんなの相手にならないんじゃないか!?」


 街道が封鎖されていて、暇を持て余している人も多かったのだろう。

 騒ぎを聞きつけ、あっという間に人が集まってくる。



「ギャッハッハ! いつでも良いぜ、かかってきな?」


 おっさんが余裕綽々よゆうしゃくしゃくで、クイクイっと手招きして僕を挑発した。

 こちらを舐め切った態度の割に隙だらけに見えるが、相手は凄腕の賞金稼ぎらしい。

 こちらも全力で挑むべきだろう。



『チート・デバッガー』


 相手が動いたらこちらも反応出来るように、細心の注意を払いながら。

 僕は小さく呟き、スキルを発動した。

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