3.弟との結婚を嫌がった婚約者が、僕に付いてくるみたいです
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」
「助けが間に合って良かったよ」
ティアが庇っていた少女も、どうやら無事だったようだ。
「ところでアレス? あんたがさっき使った魔法……何よあれ?」
目の前に生まれたクレーターを見て、ティアが興味津々といった様子で問う。
「たぶんだけど……ビッグバンだと思う」
「え、ビックバンって最上位の魔法じゃない? いつの間に覚えたのよ、そんなもの!?」
「えっと……戦闘中かな?」
正直、半信半疑ではあった。
それでも【チート・デバッガー】のスキルの効果を信じるなら、そういうことなのだろう。
「あ、後で説明するよ――。それよりティアはどうして、こんなところに?」
「それはこっちのセリフ! アレスこそ、何でこんなところに居るのよ?(こんなところで会うと分かってたら、もっと身なりを整えて来たのに……)」
「どうかした?」
「な、何でもないわよ!」
ごにょごにょと何かを呟いくティア。
僕が聞き返すと、ティアは慌ててそっぽを向いた。
「私の事は良いの。それよりアレス、何処に行こうとしていたの?」
「実は――」
ティアは僕の婚約者だ。
黙っていても、いずれは知ることになるだろう。
僕は神託の儀で外れスキルを授かったこと。
外れスキル持ちは一族の恥だと言われ、実家を追放されたことを説明した。
「呆れた。本当にそれだけのことで、アーヴィン家は、次期領主を入れ替えるつもりなの?」
「……外れスキル持ちが領主なんて、外聞が悪いからね。仕方ないよ」
僕は肩をすくめる。
「アレスは次期領主に相応しくあるために、ずっと頑張ってきたのに! そんなの、あんまりじゃない!」
「……ごめん。縁談も無かったことにしたいって、そのうちアーヴィン家から連絡が行くと思う」
ティアは、隣領の有力な家系の次女であった。
僕と彼女の婚約関係は、領の繋がりを強化するための政略結婚だ。
政略結婚と言っても幼いころから頻繁に行き来して交友を深め、それなりに信頼関係を築けたと思う。
それでも僕がアーヴィン家の次期領主でなくなった今、ティアが僕と結婚するメリットは無いだろう。
「ええ、その通りよ。アレスとの婚約を破棄して、弟のゴーマンと新たに婚約しろって、早速お父さまに言われたわ!」
ティアが不機嫌さを隠しもせず、ぶす~っとそう言った。
「そんな好き勝手な都合で! 冗談じゃない。死んでもお断りよ!!」
「ごめん。好きでもない人と、家同士の都合で婚約するなんて……。やっぱり嫌だったよね?」
僕との婚約だって、ティアの意思ではないのだろう。
それなのに相手の都合で、さらに別の婚約者を押し付けられる。
彼女の立場なら、たまったものではないだろう。
「え、アレス? 何か勘違いしてない?(私、アレスと婚約してる事は嫌じゃないっていうか……その――)」
「ティア?」
ティアは「何でもない!」と、ぶんぶんと首を横に振った。
「私はゴーマンと婚約なんて、絶対に嫌! あんなのと結婚するぐらいなら、いっそ死んだ方がマシよ!!」
「そ、そんなに嫌だったの……?」
「そしたら……お父さまと大ゲンカになって――」
「大ゲンカになって……?」
「家、飛び出してきちゃった!」
「ええええええ!? ティア、何してるの!?」
まさかの家出だった。
いやいや? そんなドヤ顔で誇るようなことじゃないからね。
それにしても、ゴーマンがそこまで嫌われていたとは……。
「というかティア、ほんとうに大丈夫なの?」
「も、もちろん。その方が、我がムーンライト家の利になると判断したのよ!」
じとーっとティアを見ると、彼女はどんどん慌てて早口になっていった。
「これまで遊び惚けてきたゴーマンに、領主が務まるとは思えない。ろくに視察すらしてないって言うじゃない。それなら最初からアレスとの関係を深めた方が、遥かに有意義だわ!」
「……で、本音は?」
「これでアレスとお別れなんて嫌だったの!(ただのケンカ別れよ!)」
「え……?」
思わず聞き返した僕を見て、ティアは思わず何を口走ったか気が付いたらしい。
涙目になって、ぷるぷるとこちらを睨むと、
「い、今のは無し!」
「う、うん……」
「と・に・か・く! 私、アレスに付いていくからね……!」
僕の腕を掴んで、ティアはそう言い切った。
期待を裏切って、外れスキルなんてものを授かって。
恥さらしだとアーヴィン家を追放されて。
僕はもう何者にも必要とされていない、そんな風に思っていたけれど――
「……ありがと、ティア」
こうしてティアは、わざわざ僕に会いに来てくれたのだ。
何の得にもならないだろうに、付いていくとまで言っている。
心に暖かいものが流れ込んでくるようだった。
そうして出発しようとしたところで――
――――――――――
【実績開放】初めてパーティを組んだ
―――――――――
頭の中で、そんな声が響き渡った。
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