2.とんでもない魔法を手に入れてしまう

 アーヴィン家を追い出された僕は、街の中をとぼとぼと歩いていた。

 道行く人々から向けられる視線も、心なしか冷たい気がした。

 僕が期待を裏切り外れスキルを授かった事は、すでに領内に広まっているらしい。


 とぼとぼ歩く僕の前に、ぶよぶよのゼリー状のモンスターの群れが現れた。

 スライム――愛嬌のある姿だが、これでも人を襲うこともある立派なモンスターである。


 僕は一気に距離を詰め、剣を取り出しスライムを一閃した。

 それだけでスライムは真っ二つにちぎれ、光の粒子となって消え去る。

 さらに遠くにいる相手にはファイアボールを放ち、一瞬で蒸発させた。


「ふう。こんなものかな?」


 授かったのが外れスキルでも、僕には師匠に教わった剣術があった。

 さらには、母上から教わった魔法もある。


 

「僕はもう夢を追いかけても良いのかもしれない」


 そう。僕には夢があった。

 口にするには馬鹿けた夢で、誰にも言えなかった夢だ。


「僕は見たいんだ。――師匠が口にした世界の果てを」


 僕の教育係として雇われた師匠は、凄腕の冒険者だった。

 父上の目を盗んで、世界各地を巡っていた頃の話をしてくれたのだ。



 この広い世界――その果て。


 誰も見た事がない世界に僕は憧れた。

 いずれは領主になるからと諦めていた幼き日の夢だ。

 それでも実家を追放された今なら、きっと夢を見ることも許されるだろう。



 僕たちが暮らす人間領は、魔界に囲まれるように存在していた。

 世界の果てを見るというのが、どれだけ無謀なことかは分かっている。

 それでも僕はワクワクしていた。


「まずは冒険者になろう。それから、それから――」


 ようやく自分がしたい夢のために、こうして行動できる日が来たのだ。

 冒険者ギルドがあるという隣町に向かって、僕は歩き始めた。




◆◇◆◇◆


 隣町に向かう道中。



「きゃああああああ!」


 辺りに女の子の悲鳴が響き渡った。


「冒険者は助け合いが基本だっけ。これから冒険者になろうとしてるのに、放ってはおけないよね?」


 僕は悲鳴の方向に駆けだした。

 そうして2人の少女が、モンスターに囲まれているところを発見する。


「ブラッド・ウルフか……。厄介だね」


 血に濡れたような毛皮を持つ狼型の凶悪なモンスターだ。

 単独であってもB級相当のモンスターだが、このように群れで現れたときは危険度は更に上がりA級相当にカテゴライズされる。

 群れ同士での連携もこなす非常に厄介なモンスターであった。


 ブラッド・ウルフは、魔界に接した地方にしか現れないと言われている。

 間違ってもこんな人里近くに現れる相手ではない。



「――というかティアじゃないか」


 背中に幼い少女を庇うように立っている少女は、よく見ると顔見知りであった。

 彼女の名はティア。

 剣の腕はピカイチで、氷の剣姫などという二つ名を持つ――僕の婚約者であった。



「ティア、助太刀するよ!」

「え!? アレス、どうしてここに?」


「説明は後でするよ。ティアはその子を守ってて?」


 まずは遠距離からファイア・ボールを放ち、モンスターの意識を僕に向ける。

 ブラッド・ウルフたちは、僕を脅威とみなしたようだった。


「遅い――『絶・一閃』!」


 警戒しながら襲い掛かってきたところを、剣を横凪に払って一閃。

 瞬く間にモンスターの群れを、光の粒子へと変えていく。


 さらに続くモンスターに向き合おうとしたところで、



――――――――――

バグ・モンスターを討伐しました。

絶対権限プライオリティが2になりました。

―――――――――

 

 脳にそんな声が響き渡った。


 声に導かれるように。

 戦闘中にも関わらず、僕は使い方も分からないスキルを発動していた。




『チート・デバッガー!』


――――――――――

絶対権限プライオリティ:2

現在の権限で使用可能なコード一覧

 → アイテムの個数変更

   (▲やくそう▼)

 → 魔法取得(NEW)

   (ビッグバン)

――――――――――


 スキルの新しい効果だろうか。

 まさかこのボタンを押せば、魔法が習得できるとでも言うのか?

 でも「ビッグバン」は、母上ですら使うことができないいにしえの時代の超高位魔法である。


 まさかと思いながら、僕は魔法取得のボタンをポチッと押した。



――――――――――

【コード】魔法取得「ビッグバン」

ビッグバンの魔法を習得しました。

――――――――――


 再び脳に響き渡るそんな声。

 そんなことあり得るはずがないと思いつつも、思わず試してみたくなるのが人情。


「『ビッグバン!』」


 ドッガーーーン!



 魔法が発動し、目の前で超巨大な爆発が発生した。

 巨大なクレーターが発生し、あれほど居たブラッド・ウルフの群れが跡形もなく消滅していた。



「は?」

「え?」


 現実味を欠いたウソのような光景。

 ティアは、ぽかーんとこちらを見ていた。

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