外れスキル【チート・デバッガー】の無双譚~ワンポチで世界を改変する~
アトハ
一章
1.外れスキルを授かり追放される
「アレス・アーヴィン様のスキルは……【チート・デバッガー】です」
目の前に居る神父が、戸惑ったようにそう言った。
今は女神様から《スキル》を授かる《神託の儀》の真っ最中である。
神託の儀とは12~15歳の少年・少女を集めて、教会で女神様からスキルを授かる神聖な儀式だ。
人々はスキルに合った天職に付くのが幸せとされるため、今後の人生に大きな影響を与える重要な儀式である。
僕(アレス・アーヴィン)は、アーヴィン家の長男だ。
この神託の儀で、次期領主に相応しいスキルを手にすることを望まれていた。
モンスターと戦争状態にある今、求められているのは戦いに役立つスキルだ。
「やはり男たるもの、剣を扱えないとな! アレスよ、【剣聖】か【神剣使い】を授かるのだぞ?」
「何を言ってるんですか。これからの時代は魔法です、魔法! 【大賢者】、一択です!」
両親は息子がどんなスキルを授かるか、楽しそうに話していた。
有用なスキルを手にすることを疑っても居なかったし、それは僕も同じだった。
それなのに――
「ちーと・でばっがー? それは一体どんなスキルなんですか?」
僕は、聞いたこともないスキルに首を傾げた。
「分かりません。聞いたこともないスキルですが――神託書にも載っていないスキルとなると、恐らくは……」
言葉を濁す神父。
「す、スキルを発動してみます!」
聞いたことのないスキル。
そして神父のあからさまに反応。
僕は嫌な予感を打ち消すように、スキルを発動した。
『チート・デバッガー!』
――――――――――
現在の権限で使用可能な【コード】一覧
→ アイテムの個数変更
(やくそう)
――――――――――
手に入ったスキルは、本能で使い方が理解できる。
僕がスキルを発動させるためのキーフレーズを呟くと、目の前には光り輝く文字が現れた。
僕は祈るように「アイテムの個数変更」を人差し指で押した。
「これは……やくそう?」
ひとすじの光とともに、僕の手の中にやくそうが現れた。
近くに居た鑑定士が確認した結果、何の変哲もない薬草だと判明する。
「アーヴィン家の長男が授かったギフトは、やくそうを出す能力?」
「なんじゃそりゃ? やくそうなんて道具屋で8Gで買えるぞ?」
「間違いない。久々に見るが――外れスキルだ」
ざわざわと声が広がっていく。
モンスターとの戦いの矢面に立ってきたアーヴィン家。
その次期領主となるはずの長男が、よりにもよって外れスキルを手にしたという衝撃は、瞬く間に聖堂に広がっていく。
僕は思わず儀式を見守っている両親を振り返り、真っ青になった。
両親は興味を失ったように、ゴミでも見るような目で僕を見ていたのだ。
「どけ、アニキ!」
呆然とする僕を突き飛ばし、弟が神託の儀に挑む。
「ゴーマン・アーヴィン様のギフトは……おお!? 【極・神剣使い】です!」
神官が興奮したように叫んだ。
それも無理はない。
世界に数人と居ないと言われる【極・ギフト】持ちが目の前に現れたのだから。
「ゴーマン! おまえはアーヴィン家の誇りだ!」
両親が歓喜の表情を浮かべて、ゴーマンに駆け寄った。
外れスキルを授かった僕のことなんて、もう視界にも入っていないようだった。
◆◇◆◇◆
「外れスキル持ちなど、アーヴィン家の恥さらしめ! すぐに出ていけ!」
家に帰るなり、父上は僕にそう言い渡した。
「その通りだ! 役立たずのアニキの代わりに、俺がこの家を継ぐ。おまえはもう必要ねえんだよ!」
さらには弟のゴーマンまで、愉快そうにそんなことを言った。
今まで僕に味方してくれた使用人も、もう次期領主である弟の味方だった。
「これまで、お世話になりました」
アーヴィン家の名に恥じない人間になろうと身につけた教養も。
血反吐を吐くような思いで磨いてきた剣の腕も。
――すべては無駄だったのだ。
そうして僕は、アーヴィン家を追い出されたのだった。
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