タイムカプセル

「なくなっちゃったんです」

 僕とシスター加藤は並んで水平線を見ていた。

「えっ」

「タイムカプセルですよ」

「同じようなビスケット缶なんですけど」

「友だちの一人が、埋めるのはやめようって言ったんです」

「なんで」

「錆びて腐るから」

「面白いね。その子の発想」

「そう、面白い子なんです」

「それでどうしたの」

「知り合いのおじさんに預けたんです。近所でお店をやっていた」

「どんなお店」

「雑貨屋みたいなお店」

「雑貨屋ではないんだ」

「微妙なんですよ。雑貨屋にはないようなものも置いていて」

「だから雑貨屋なんじゃないの」

「そう言われると、そうですね」

 シスター加藤はそう言って笑った。

「もしかして、そのおじさん、タイムカプセル売っちゃったの」

「よくわからないんです。そうは考えたことはなかったけど、そうかもしれませんね」

「そのおじさん、突然亡くなっちゃって」

「誰も知らないんです、タイムカプセルの所在」

「行方不明です」

「どうなんですか、本当は」

「タイムカプセル」

「じゃなくて、冤罪です」

「間違いなく、別の人生があったわけじゃないですか」

「間違いなく、あなたにとって素敵な」

「素敵かどうかはわからないけど」

「自由だったことは間違いない」

「すべての選択は僕にまかされていた」

「やっぱり素敵な人生か」

「素敵ですよ」

「でも、良い人生だったかどうかはわからない」

「ここで今こうしていることは、そんなに嫌いじゃないんだ」

「自分で選んだら絶対ここには来れなかった」

「もちろん、シスターにも会えなかった」

「あなたがある女性を気にかけていたと同じくらい」

「あなたを気にかけていた女性がいたことをあなたは知らない」

 僕はシスター加藤の鋭い視線を感じた。

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