砂上の小屋

 海を臨むというよりも、砂浜に建てられた掘っ建て小屋のようなところに住まわせられている。たしかにまわりのよりも一段高いところに立っていて、前面の壁の一部をヒサシのように前に開くと、寒々とした海と波の音が見えてくる。

「よく考えてみれば、波の音なんて一日中聞いてるんだ」

「すっかり環境音になって、音として認識しないんだよ」

「だから、白波を見るとその時だけ音として認識するんだよ」

 僕の隣で海を見ていたシスター加藤は、そんな話を真剣に聴いて納得しているようだった。

「すごいですね」

「あたしなんて、気になって眠れそうにありません」

「そのうち慣れるよ」

「そんなものですか」

「それよりもあたし、ここに住むこと自体無理かもです」

 至極まっとうな意見だと僕は思う。そもそもなぜ彼女はここに居るのか。僕から

遠ざけるんじゃなかったのか。

「シスター・アンへリカに持って行くように言われました」

 シスター加藤はそう言ってこの小屋の入口のドアの前に立っていた。

「いらっしゃらないかと思いました」

 彼女は丸く平たい鉄製の缶を持っていた。缶にプリントされていた花柄はすっかり擦り切れてかすれている。中にはシスター・アンへリカの焼いた甘いクッキーが入っている。そう、これでもかというくらい甘いのだ。甘いものが正義だった時代って、いつの時代なんだろう。シスター・アンへリカは常にその時代を生きている。

「流木を拾いに行っていました」

 細い流木を抱えていた僕は、シスター加藤が居たことに驚いたような顔をしてそう言った。

「そうですか」

 小屋のまわりに無造作に積み上げられた流木に気づかぬふりをしながら、シスター加藤が言う。

 僕は抱えていた流木を、積み上げられた流木の上に放り投げるように置いて、シスター加藤から丸く平たい鉄製の缶を受け取る。

「いつもありがとう。シスター・アンへリカにもそう伝えてください」

「タイムカプセルみたいですよね」

「何が」

「その缶です」

「校庭に埋めませんでした」

 彼女は僕の無反応に、すこし慌てながらそう付け加えた。

「どうぞ中に」

 僕はシスター加藤を小屋の中に招き入れる。

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