第12話


「いやいや、普段パーティーの為に身を粉にして働いてくれとる苦労人の2人にはこれくらいはしてやりたいちゅう俺のせめてもの親心みたいなもんや。せやからどうか2人はここで座ったれ…な」


(今がまさに普段以上に身を粉にされそうな状況なんだけど)

(苦労の特売押し付けセールを行っている人が何を言っているのでしょうか)


「心配いらないよ。兄さんが僕たちの為に動きたいように僕たちも君に少しでも親孝行がしたいのさ。それに少し外の空気を吸いたいと思っていたところだからちょうどいい気分転換になるよ」

「そうですよ、そんなに気を使って下さらなくて結構ですわ。それとあなたが親だなんて例えでも全く笑えない冗談はよしてください。気持ち悪くて胃の中にある全てを吐き出してしまうかと思いましたわ」

「はっはっは、別にそんなに気使ってへんて。にれよりもえらく辛辣すぎやないか?」


 ここまで発言だけを聞いれば相手を気遣ったり、配慮しているよう聞こえるかもしれないがその中身はいかに自分だけでもこの地獄よりも恐ろしい空間から逃げ出すことで一杯であり、相手のためのようでその実自分達の事しか考えてない名ばかりの譲り合いと言う名の押し付けあいは世界中探してもここを置いて他にないと言っても過言ではないだろう。



「だからそろそろこの掴んでいる腕を離してくれないかロイ」

「そうですよ、服に皺やらばい菌やクズ菌がつかないようにそろそろ離してください」

「こらこら変な単語が混ざっとるぞセルレア、あははははははは…」

「 兄さんこそ何を言っているですか。セルレアは別に何も間違ったことを言っていないのに。相変わらず兄さんの冗談は面白いね。ははははははは…」

「ええ、本当に面白いですね。ふふふふふふふふ…」


 それから3人はわざとらしく長々と笑い続けた。まるでネギ巻き人形が回したネジの分だけ必ず回るかの如くとっくに笑い終わるであろうピークを過ぎても3人は笑い続けた。


「「はははははははははは…」」

「ふふふふふふふふふふふ」


 異様過ぎる笑い声も次第に静まっていき、今度は数秒の静寂が時間が訪れる。3人の顔は笑っていたがまるで呪いの人形の様な目だけが笑っていない不自然な笑顔で静止し続けていた。


 それから数秒後、まるで打ち合わせでもしたかのように3人が一斉にスーパーのタイムセールが始まり目当ての物をいち早く手に入れんとする主婦の様な必死な形相へと変貌を遂げた。


 ロベルトとセルレアは兎に角この部屋から脱出しようともがき、ロイは1人取り残されないために決して逃すまいと己の全ての力を使って逃亡を阻止しようとしいた。


「離せ!離すんだ兄さん!これ以上クレアさんの思想を聞いていると洗脳されかねないんだ!」

「そうです!このままでは私もロベルトも心身共に持ちません!」

「そんなもん俺かて一緒や!これ以上駄メルフ菌に汚染されたら元に戻れる自信がないんや」

「はっきり言ってこれはもはや僕ら常人の手に負えるレベルではないんだ。これはまさに神が選ばれた変じ…勇者である兄さんに与えた試練と言うやつなんだ」

「勝手なこと言うなロベルト。何が『神が勇者に与え試練』や!それやったら勇者であるお前らも含まれるやろが。それから今変人って言いかけたやろ」

「聞かれてしまってはしかたない。これは勇者の中でも奇怪や奇抜な行いに秀でた勇者の兄さんでなければこのミッションは達成不可能なんだ。昔ある人はこう言っていた。『超人的な変人にこそ大いなる試練が与えられる』と」

「それ完全に今お前の頭の中で作ったやつやろ」

「いいえ、私も耳に挟んだことがあります。多数決で2対1となったのでこの勝負は私たちが正しい事になりますね」

「本人が承諾してない勝負を勝手に承認すんな!それにそれ今さっき耳に挟んだちゅう意味やろ」

「いえ、昔読んだエルフの聖書の中にそういった文章が記載されていた気がします」

「驚く程さらっと嘘をいうんやないわ!今頃お前んとこの里長や先祖のエルフが勝手に聖書の中身を改変されて泣いとるぞ」


 両方とも精神的の案明のために譲らない姿勢を見せていた。

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