第11話 表面上の譲り合い
何とか苦笑いを続けなが現実逃避しているロイ達だったが、一刻も早く先ほど記憶に出てきたあれが何かの思い違いであったと証明して安心したいと思ったロイは間違った選択をしてしまった。
「なあクレア例えばやけどアルトが連れてきた相手が優れた人柄と器量を持ち合わせていて頭脳・容姿共に秀でており、家事や料理をそつなくこなせ、それらがアルト以上であり、どんな戦場でも泰然自若のような冷静さを備えていて有毒物質などの類を見分けることの出来る
「さっきも言った通り私が気に入らなければ認められないが?」
「「「………」」」
3人の思考が再び停止しかけた。
「何や今一瞬幻聴が聞こえたな」
「奇遇ですね。私も聞こえました」
「僕もだよ。はははは、3人も空耳が聞こえるなんて珍しいこともあるもんだね」
またしても不気味な笑い声が部屋に響く。
「すまんクレア、確認のためにもう一度聞きたいんやけどベルが連れてきた相手が頭脳明晰で…」
「何度も言わせるな。何処の誰であれ私が気に入らなければ認めない」
「そんな馬鹿な!」
(マジで今までの話なんだったんや!)
「なんとなくでも私が気に入らないと思った時点でそれはきっとロクでもない人間に違いない。アルトに悪影響しか与えないであろうことがわかっていて許可する理由が何処にある?」
(前者は完全な横暴でクソ以外の感想がないけど後者は一見正論のように聞こえなくもないな。けどそもそも相手がロクでもない奴かどうかを判断するクレアが既にまともやないからな。ぶっちゃけまともな奴が弾かれて一見まともで中身が重度のアルトのストーカーしか残る気がせん。ってあれ?)
ロイは左右に居たはずのロベルトとセルレアの姿が見当たらず辺りを探すと今まさに部屋の扉から出て行こうとする2人を発見して逃すまいと2人の肩を掴む。
「お前ら2人どこに行くきや!」
「何をそんなに慌てているんだい兄さん?僕は只自分の部屋にある忘れてきた書類を取りに行こうとしているだけだよ」
「そうです、私もクレア様に差し上げようと思っていたティーセットを取りに戻るだけです」
(こいつら… )
これまで2人よりバカな事散々やからしているせいか、付き合いのある人間も相応の相手が多く、いくつものくだらなすぎるやり取りを見てきたお陰で多少は耐性がついていたロイとは違いロベルトとセルレアには今のクレアの相手は荷が重く、これ以上ここにいては何が起こるかわからないと踏んだ2人はロイがクレアの相手をしているすきに脱走するつもりでいた。
「そうかそうか、それなら代わりに俺が2人の部屋に行って取ってきたるから2人は座っとればええ」
「大丈夫だよ兄さん。そんなに時間はかからないからさ」
「そうですよロイ。すぐに帰ってきますから」
「別に気にせんでええって。普段の雑務で2人とも疲れとるやろ?そこのソファーに腰掛けてゆっくりしてたらええよ」
「それは気のせいだよ。それより兄さんの方こそゆっくりくつろぐといいよ」
「そうですね息も上がって顔も赤いですし、体調でも悪いのかもしれません。無理をせず休憩すべきです」
(それは己らを逃がさんために必死に捕まえとるからや!)
2人に比べればまだ余力はあるロイではあったがあくまで既に瀕死のロベルトとセルレアと比べてである。1人取り残された状態で今のクレアもどきの相手をさせられるなどロイとて御免であった。
「いや〜クレアと飲んどった紅茶が熱かったからそのせいやろな。せやから2人共そんなに気使わんでええよ。それに最近ぐ〜たらしとったからウチとしては運動も兼ねて行きたいんや。ウチの運動にもなってロベルト達も手間も省けて一石二鳥やろ」
「いやいやそんな事ないさ。兄さんは勇者チームのリーダーとして立派に役目を果たしてくれているよ。だからこそそんな兄さんに手間をかけさせる訳にはいかないさ」
「ロベルトの言う通りです。謙遜などする必要はありません。これ以上貴方に重荷を背負わせるようものならバチが当たるというものです」
(これ以上ない重荷を押し付けようとしてるくせによーそんな平気で嘘がつけるな)
3人は表面上はお互いを思っているように振る舞い譲り合いながら、犠牲にならないようにと必死でもがいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます