第8話 身内であればOKか?

「だが残念ながらアルトの結婚相手にセルレアでは駄目だ。歳が結構離れているからな」


 ちなみにセルレアは現在38歳のエルフである


「ヒューマン同士ならともかくとヒューマンとエルフなら20,30歳位の歳の差なら別に誤差やないか?アルトがセルレアより年上なら話は変わるけど」

「確かにそういった意味では大した問題では無いのだが。相手が年上過ぎるとベルがいろいろ気を使ったり遠慮してしまうだろうからな。もっと自然体でいられるであろう年齢の女性が望ましい」

「そうか」


(なんか意外やな。もっと理不尽というか横暴なこと言い出すと思っとったんやけど)

(単に年齢差が10歳以上だから駄目ぐらいの事言うと思ってよ)

(私としては範囲外であった事は残念どころか喜ばしい限りですけど)


「まぁ私はアルトのことをそんなふうに思ったことはありませんけどね」



 気の抜けたセルレアはさらっと本音を漏らしてしまう。しかしその行動が間違いであった事は口にした直後に肩を今にもメキメキと人から鳴ってはいけない音が聞こえてきそうなくらいの強さで捕まれ、エルフはおろかこの世の者とは思えない般若の様な顔で彼女に迫っていた。彼女の人が見たら思わず振り向く美貌が怒りによって恐ろしさを助長させより彼女の見た目の怖さを際立たせていた。


 <セルレア・スリスの死亡フラグが建設されました>


「セルレア…貴様、あの子の…アルトの何が不満だと言うのだ」


 怒鳴り声ではないもののクレアから放たれたその言葉は低いトーンで怒りを通り越してハッキリ込められた殺意を感じずにいられないくらい明確に伝わりセルレアは戦慄させられた。

 セルレアは生まれて初めて魔王の幹部や魔王なんかよりもよほど怖い人の皮を被ったクレアという名の殺気を垂れ流して迫る死神を目の当たりにし、セルレアは本能的に理解した。


(ここで少しでも言葉を間違えたら…)


「べ、別に不満とかそういう問題ではなくその…担に馬が合わないと言うだけです!」

「性格完璧なあの子と馬が合わないなど…お前はいつからそんな曲がった性格になってしまったのだ」


(クレアにだけは言われとうないやろな)

(クレア様には申し訳ありませんがアルトが関連する時限定で言えばあなた様ほど曲がった性格をしていない自信があります)

(今のクレアは曲がったと言うより歪んだ性格の方が適切だろうね。)


 <セルレア・スリスの死亡フラグは回避されました>


 3人はそれぞれの胸の内を目線にのせて語った。


(それよりセルレアってもしかしてアルトの事嫌いだった?)

(別に嫌いではありませんし、客観的に見ても好感の持てる子だとは思います。私も今時にしては裏表のないいい子だと思うのですが…)

(ですが?)

(アルトは好感の塊みたいな子ですけど、そこにあの方が母親という部分が加わると…)

(確かに鬼姑なんて生やさしいものじゃない怨念の様にアルトを溺愛するクレアが義理の母になると考えたら….)

(アルトによる加点をクレアの存在だけですべてマイナスにする位の減点やな)


「それならルルやシェシルとかが相手ならええんか?」


 ルルは18歳のヒューマンで先頭の腕はピカイチだがそれ以外がほぼからきしである。戦闘以外はボーッとしている事も多い天然黒髪ロングストレートの少女。シェシルは16歳のエルフで逆に一通りの事をそつなくこなせ魔力に秀でてはいるががまだ戦闘経験が浅く実戦経験が必要な髪を三つ編みにした物腰柔らかそうな女の子である。2人供アルトとは1年以上共に暮らしており仲も良好である。


「残念ながらそれも駄目だな」

「なんでや?」

「歳は近いがあの子達ではまだいろいろ未熟だ。特に精神面であの子を支えるにはまだ少々頼りない。何よりルルの方はアルトがサポートされるどころかアルトの方がサポートするだけの未来しか見えないからな」


(アルトに対しても親バカも入ってるけどまだまともな意見やな)

(他の発言が酷すぎるからなおさらそう感じるよ)


「確かにシェシルはしっかりしてそうで所々抜けてますし、家事等の面でルルは…」

「地獄絵図やろうな」

「調味料と洗剤を間違える未来が見えるね」

「精神面でのサポートはともかく生活面でのサポートは壊滅的だからな。もしアルトがルルと一緒になってルルが食事を作ろう物ならアルトの命は1日ともつまい」

「大袈裟な発言にも聞こえるけど完全に否定できる内容でもないね」

「前に俺がルルの料理もどきを食べた時失神して2週間も入院することになったからな」

「そういう事だ。あの子の伴侶となるからにはあの子が安全であることは大前提だからな」


(親バカ親バカやけど、やっぱなんだかんだでアルトの事思ってのことなんやな)


 ここ数時間。目の前の駄メルフの「キチ」から始まり「ガイ」で終わる異様行動と発言を散々目の当たりにし、何度今すぐこの場から逃げ去りたいと思ったことがわからなかったが、こうして少々?過剰ではあるが子を思う母親故に心配してると確認できただけでもこれまでの世界の七不思議にも入れそうな異常な話し合いにも付き合って良かったと3人は思えた。

そうこの時はまだそんな風に錯覚する事ができていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る