第9話 アルトが結婚できる未来が見えない

アルトが関わると過剰すぎる反応をしてしまうクレアだったがそれがすべてアルトを思っての事だったと改めて確認することができこのしょうもなさすぎる話し合いに参加してしまった事にも一応の意味を見出すことができたと思っていた。しかし彼らはそれが幻にすぎないのだとすぐに思い知らされた。


「それならセルレアよりいくつか下。まあだいたいアルトより10歳年上以内ででルル達より上の中間くらい。アルトより多少年上くらいの年齢ならええんやな」

「なんでそんなそんな中途半端な年齢の奴を承諾しなければならないのだ」


(((ん?)))


「セルレアやと離れすぎてるから、ルル達やと近すぎるから駄目なんやろ?なら結果的にその中間辺りなら…」

「確かにどちらも否定はしたが、だからと言ってなぜその中間であれば良いと言う話になるのだ」


(おい!なんかクレアがちょっとまともないい感じになりかけたのにまたおかしなこと言い始めたんやけど)

(今までの話はいったい…)

(流れが変わったね。もちろんとてつもなくよくない方向に)

(180度くらいな)


3人の背中から冷や汗が流れ始める。先ほどまでなんだかんだ我が子の身を案じるいい母親だなぁと思い始めていた矢先にそれらの感想を吹き飛ばしかねない発言がクレアの口から放たれたからである。


「そうやったら何か?20や30歳くらい離れてたら大丈夫て事か?」

「年が離れすぎていては駄目だと否定したのに何故それ以上を提案してくるんだ?ロイ、前々から思っていたがお前一度病院にでも行って脳を取り替えてもらってこい。少しはマトモになる筈だ」

「今それが必要なのは間違いなくお前の方や!」

「何を考えたらそんな虚言がはけるんだ?ロイの思考は特殊過ぎて理解が追いつかんな」


(その言葉そっくりそのまま貴様に返してやるわ!)

(クレアさんの思考も特殊すぎてまるで理解が追いつく気がしないんだけど)

(遠いのも近いのも中間も極端に離れてても駄目って…)

(もはや単純にアルトを結婚させたくないがためにそれっぽい事を言ってるようにしか聞こえないのですが)


「それなら年齢の話は別にしてエリナちゃんとかなどうなんや?あの子なら長年のアルトに料理教えてて関係も良好で上手いことアルトをサポートして支えられるやろうし、信頼できると思うんやけど。オルタナの、クレアの親友の娘なわけやし」


オルタナ・レオライト。クレアと同じ時期に勇者として平和のために戦い人類に大きく貢献した女勇者で、クレアと同じくエルフであったことからすぐに打ち解け仲良くなった。だが年を重ねるごとに持病が悪化しこれ以上の戦闘は危険と判断され前線を離脱。その後はクレアの友として相談に乗ったり、荒んでいくクレアの心のケアをしていた。

エリナ・レオライトはクレアが魔王を討伐する3年前に生を受けて生まれてきた女の子。栗色の長髪でおっとりとした柔らかい雰囲気で包容力があり、年齢よりも大人びていてついつい甘えたくなるようなまさにお姉さんといった感じの美少女だった。


「確かにエリナであれば容姿、頭脳、技量、安心感共に問題ないし、きっと上手いことアルトを支えられるだろう。オルタナと親友の域を超えて親戚になれるのも悪くない」


クレアがエリナの事を絶賛しようやくこのくだらなすぎる話を幕引きにできると3人は一安心しかけたところで予想外の言葉が飛んできた。


「そうかそうやったら…」

「だがやはりだめな」


ようやく今までの日常が、平和が戻ると思っていただけにクレアの言葉は3人に衝撃をもたらした。


「まちい、今の会話のどこに不満に思う要素があったんや?」

「特別深い理由はないんだが、アルトとエリナが一緒になる事を想像したら」

「したら?」

「なんかイラっとしたから駄目だと思っただけだ」


クレアのサラッと放たれた爆弾発言によって既にギリギリだったロイ達の頭は色々な意味で限界を迎えた。


「超私怨やないかい!今までアルトのことを思って発言してたの一体なんだっや!」

「アルトが年が離れすぎた相手に気を使い過ぎないようにとか色々配慮しているような発言してたのにね」

「別に嘘はついていないぞ。実際そっちの方が間違いなく良いに決まってる」

「ハードル高すぎる上に要求する内容が多すぎるんや!相手に求めるスペックだけでも滅茶苦茶高いのにな」

「あれはあくまで必要最低限と言うことだ」


(今僕の中で最低限のハードルの高さが異常に飛躍したんだけど)

(私も必要という単語の定義が揺れまくっています)


「他にもアルトの全てを把握しているみたいな馬鹿げた条件があるのにか」

「何処がだ?あれも必須条件。立派な必要枠だ」


(クソ枠の間違いや)

(あんなストーカー要素が必須条件って…)

(異常者は自分が異常であることに気づかないと言う事象を今、目の当たりにしてる気がする)


「だがやはりどんなに才色兼備であっても母親がいいと思える相手が息子の運命の相手なのであろう。そしてそれ以外はきっと駄目嫁となるのだろう。それが世界の真理だ」

「そんなクソみたいなのが世界の真理であってたまるか!」


(今までの常人を超越したような条件すら霞む程のトンデモ設定ですね)

(これまでの幻想と思える要素を兼ね備えててもほぼ確実に落とされる回避不可な落とし穴だね)

(間違いなくミッション:インポッシブルやな)

(ここまで横暴やら自己中やらを凌駕しているとさすがに言葉が出ませんね)

(普通に世の母親達を巻き込んで冒涜、或いは侮辱してるとすらとれる発言なのにそらすらどうでもいいと思える会話の混沌カオス感が凄すぎる)

(アルトは成人迎えたばかりやのに既に結婚出来ない未来が見えるわ)


「つまりアルトが連れてきた相手が優れた人柄と器量を持ち合わせていて頭脳・容姿共に秀でており、家事や料理をそつなくこなせ、それらがアルト以上であり、どんな戦場でも泰然自若のような冷静さを備えていて有毒物質などの類を見分けることの出来るまなこや鋭い洞察力、観察眼を持ち合わせており毎日アルトへの愛情とプレゼントを365日欠かさず、アルトのおはようからお休みまでの全てを把握している女の子でもクレアがなんとな〜く気に入らなければ認めないって事か?」

「まあそうなるな」


常人であれば…まともな人間であれば絶対に出ない解答をまるで至極当然かの様に言い切るクレアを前に3人の脳は限界を迎えて、一種の防衛本能が働き3人は意識を失った。

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