第4話 病名アルトコン

「それで何が問題なんですか。アルトが誰かと結婚すればこのホームから別の場所に、結婚相手と住む新居に移るの自然な事だと思うのですが」

「何を言っている?問題しかないだろ。あの子が、アルトが、私の可愛い天使が、私の下から離れていくことになるんだぞ!大問題だろ?一緒に居る時間が減るのは当然、寝顔も見れなくなるし、朝のアルトからのエンジェルスマイルもなくなるし、朝のおはようもなくるなるし、朝のハグもなくなるし、それから…」


 既にこの時点で先程までのクレアの特殊的な言動を忘れてなんとか問題解決に力を貸そうと思っていた決意があっという間に吹き飛ばされ、思い留まって残ったことをロベルトとセルレアはさっそく後悔し、数秒前の自分に『何故すぐ逃げなかったんだ』と説教したい気持ちにかられた。


(現役の時からするとやけにに朝降りてくるまでが長くなったと思ったらこの人そんなことしてたのか)


「クレア一旦ストップや」

「なんでだ?私はまだ10/1も言い切ってないぞ」

「勘弁してくれ。朝だけでそれやと終わりがまったく見えへんからもう終いや」

「頭が痛いを通り越して頭痛が痛くなってきましたわ」

「僕も同じく」

「なんだ2人共、相当疲れが溜まっているのか?健康管理は冒険者じゃなくても常識だろ。飲んだくれのロイではないのだから。特にロベルトは地質団長なんだからその自覚を持ってもっとシャキッとしてくれ」


(疲労を大量にプレゼントしてくる元凶クレア様にだけは言われたくないのですが)

(アルトが絡むと元勇者やエルフはおろか常人と思えない行動とる人がなんか言ってる)

(無自覚だからやろうけどアルトの事考えとる時ユルユルな奴がよくシャッキっととか言えるな)


 3人は思いっきり言葉のブーメランが突き刺さる発言を、暴言にしか聞こえない言葉を次々と繰り出す目の前のエルフらしき者に言い返したいところだったが、これ以上話を拗らせて長引く事だけは御免だったので反論したい気持ちを呑み込みんだ。


「そうだった。それからロイの奴、ベルが結婚したらキスしたりその…それ以上したりするとか言ってたんだぞ!どう思う」


(前々からアルト関連の事となると我を見失うところが見られてたけど、クレアさんてこんなに頭だったっけ?前は冷たくはあったけどもっとまともというか傍若無人を体現している様な人だったのにいつからこんな…)


「結婚したら…と言うかそれ大抵は恋人段階で事に至ると思うんですけど、それは置いといてもそれこそ普通の事じゃないのですか。何処に問題があるって言うんですか?」


 クレアの知能というかアルトが関連する際の常識の欠如を目の当たりにして心底呆れた様子の視線をクレアに向けるロベルト。隣に座るセルレアも憧憬のイメージがこの数分の間にこれでもかと崩れていく様を目の当たりにしてもういっそ何も喋らないでほしいと無理なことは理解しているものの願わずにはいられないくらい精神的ダメージを追っていた。

 ロベルトの発言に対して何言ってんだと言わんばかりにお返しの視線を返すクレア。


「はあ〜やれやれ、こんな事にも気づかないとは。ロベルトもロイ菌に感染してしまったようだな。兄弟ゆえに似てしまったのか。それとも近くにいたため兄の悪影響を受けてしまったのか…嘆かわしい事だ」


(嘆かわしいのはお前の頭の方や!)

(さらっと兄さんをを罵倒してるけど、人の事言えないくらいクレアさんの方がよっぽどに思えるのですが)


「そういった事をしては私の大切なアルトが穢されてしまうだろう。何処の馬の骨とも分からん小娘に」

「少なくとも結婚まで共にする相手は何処の馬の骨とも分からん相手じゃないですし、それに結婚したら尚更だけどそもそもアルトはクレアさんのではないでしょう」

「何を言っているだお前は?成る程、これは本格的にロイ菌に汚染されているようだな」


(自分に比べたら俺なんて遥かに正常や!)

(申し訳ありませんが今のクレア様の方が未知の病原菌に感染している可能性が高いと思われますので今すぐ病院に直行して緊急入院してほしいです)

(どちらかと言わずクレアさんから発生していると思われる駄メルフ菌にの方に汚染されている真っ最中なんだけど)


 自分の発言が正しいと信じて疑わないクレアはロベルトの正気を疑った。当然彼女の思考についていけないロベルト達からすれば、目の前の新型ウイルスにほぼ染まりきっていると思われる残念エルフを浄化したい気持ちで一杯だった。


「子供の全ては基本母親の物だろう?それが世界の共通の認識の筈だ」


(アカン、共通語の言葉を発しとる筈やのに全く意味が理解できん)

(すみませんクレア様。そのように解釈する方々はおそらくおりません)

(駄目だこのチル(ドレン)コンならぬアルトコン…早く何とかしないと)


 3人は目の前のエルフ(と思われる者)をどう対処していいかわからず、このいたたまれない時間が一刻も早く終わる事を切に願うのだった。







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