第2話 信じているとは一体…
ようやくクレアの発狂が止んだところで今度は2人の男女がドアを開けて入ってきた。
「今すごい悲鳴が聞こえてきましたけど何があったんですか」
「クレア様ご無事ですか!まさかロイに何かされたのですか」
男の方はロベルト・ボールマン。ロイの弟であり勇者パーティーの副リーダーを務めている。ロイの弟とは思えぬほど真面目でいつもロイの尻拭いをさせられている。
女性の方はセルレア・スリス。クレアと同じエルフの女性でクレアに憧れており彼女を崇拝していたがクレアがアルトを育て始めてからの彼女の変貌に戸惑いつつある。ギルドへの報告や書類整理の雑務などはほぼ彼女とロベルトの2人で行っている。
「ちょいセルレア、またってなんや!俺なんもしとらんからな。話聞いとっただけや。なあ、そうやろクレア」
早々に向けられた疑いを晴らそうとクレアに助力を求めロイ。しかし彼女の思わぬ形で話が進む。
「ロ、ロイの奴が…居なくなればいいとか穢すとか言うから」
「勇者としては最高でも人としてちょくちょく問題を起こす方だとは思ってましたが、まさか覗きだけでは飽き足らず仲間にまで手を出す犯罪者に成り果てるとは…見損なう通して見下げ果てました」
「まて誤解だ!そもそも俺はそんなこと一言も言うてへんからな!?クレアも勝手に改ざんするな!」
「言い訳は結構です。今すぐにでも兵を呼んで…」
「待ってください!」
「なぜ止めるのですか。実の兄だからとてここまでの犯罪者は庇うのは…」
「違います。僕も…信じているです」
「ロベルト…お前」
(やはりお前だけは俺のことを信じてくれるんだな)
「信じています。きっと兄さんが間違いを犯したであろうと」
(ん?)
「きっと兄さんの中でも過ちに手を染めてはいけないという葛藤があったのでしょう。でもきっとクレアさんの美しい美貌の誘惑に負けてしまい道を踏み間違えたに違いないと確信しています」
(あれ?俺に対する信頼の方向性がおかしくない)
「本当はしてはいけないとわかっていてもせずにはいられなかった。そして間違いを犯した今は懺悔の気持ちで一杯のはず」
俺が間違いを犯したことは確定なのかい
「それならせめて…せめて人様に手間をかけさせないように仲間である我々がこの不祥事の始末をつけるべく私達だけで兄さんを拘束・連行すべきです」
「ロベルト…そうですね。このような身内の大恥は身内で処理すべきですものね。ならば一刻も早く罪を償えるようにしてあげなければ」
(クレアと話をしていただけなのに一体何故こんなことに)
「兄さん、投獄後は罪状的にもう一生会えないかもしれません。なので言い残したいことがあるのなら言ってください。弟として最後まで聞き届けます」
「なんで弁解の前に遺言なんだよ!」
「兄さん後1分しか時間はありませんよ。言い残したことは他にはありませんか」
「時間短!俺ら兄弟だよね。兄との最後の別れなのに惜しむ気持ちとかないの 」
肉親との別れとは思えないほどに晴れ晴れとした弟の顔に落ち込みそうになるロイ。
「いいかよく考えろお前ら、仮に俺がクレアに不埒な行いをしてしまったとしてその後に俺が原形を留めていられると思うか」
「「あ」」
2人がそういえばみたいな顔をしたまま時が流れる
「おほほほほそ、そうですわよね。ロイがクレア様にいかがわしい事をしてしまって生きていられるはずはないですものね。ええわかっていましたよ。わかっていましたとも。ただ一応確認してみただけですわ」
(それならさっきの間の抜けたような”あ”は何だったんだろうか)
「そうだよね、僕も信じていましたよ兄さん。僕らのリーダーである兄さんがそこまでの犯罪に手を染めるわけがないと」
「あそこまで間違いないとか断言しておいてよくここまですがすがしい嘘が付けるな弟よ」
「あれは確認のために必要だっただけだよ。もしかしたら兄さんがクレアさんの弱みを握って脅している可能性がほんの僅かあるかもしれないと思ってね」
「ほんの僅かとは思えないほどに決めつけていたようにしか見えなったんだけど」
「そんなの演技に決まっているじゃないか。ねえセルレア」
「そうですわ、私達はリーダーに少しでも疑いの目が残らないように迫真の演技をしていたんですわ」
「へ〜そうなんだ〜、2人ともとっても演技が上手なんだね」
どうしても棒読みになってしまうまるで気持ちのこもっていないロイのセリフ。
「それなら今度似たような事が起きた時には
俺を疑わないって誓えるんだよね?」
「…」
「俺の事を犯人じゃないと信じてくれるんだよね?」
またしてもしばしの沈黙が流れた
「それは…その状況にもよる…かな。いや信じてるよ、ほぼ無実であると。でもほら世の中何が起こるかわからないからさ」
「そうですね、信じてますよ。ええ信じていますとも。でも今までが今までですから一応疑う必要はあるかと思いますので」
(信じているとは一体…)
この日ロイは自分がどう思われているのか嫌というほど理解した。
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