第22話 手数


 エピソード後半から音声チャットによるやり取りになるため、その部分の会話を『』で表しています。

 ―――――




 最初にフレンドチャットを送ってから何度かやり取りをしたのだけど、兄はどうやら来てくれるらしい。

 ちょっと焦ってどこに来てほしいなどの情報を入れ忘れてしまったのは失敗だったけれど、今後同じようなことがあったとき気を付けるとして今回は何とかなったのでよしとする。


 フレチャを通してパーティー申請を送ってからそれほど間を開けずにその申請が通り、兄とパーティーを組んだ状態になった。それから間を空けず兄から返事が届く。

 


ファルキン:了解。今すぐ行く

ア   ユ:タイミング

ア   ユ:計るから

ア   ユ:ちょっと待って



 返事を確認してすぐにそうコメントを返す。


 ワイバーンの巣は狭くはないけどそこまで広いわけでもない。入ってくるタイミングが悪いとオーレスワイバーンの攻撃の余波というか、壁にぶつかったときに吹き飛んだ瓦礫が当たってしまう可能性がなくもない。


 だからタイミングを計って入ってきてほしかったのだけど……既読がつかない。これまでほとんど間を開けず既読になっていたはずなのに。

 まさか……もうフレチャ確認していないとかはないよね?


 了解の返事の後、すぐに送れるように小刻みでコメントを送ったのだけど、それよりも早く……いや、『了解』って送ったと同時にチャット画面を閉じた……とか? 


 ありえそう。

 まあ、事故ったら兄の確認不足ってことにしよう。さすがに一撃で死ぬことはないだろうし大丈夫だよね。



〈ファルキン さん が同エリアに入室しました〉



 兄が入ってきたアナウンスが視界の片隅に映る同時に、兄の姿がワイバーンの巣の中に現れた。そして同じタイミングでその前をオーレスワイバーンが通過していった。


「どわっ!?」


 兄の反応を見る限りチャットのコメントは確認していなかったようだ。幸い、巣の中に入ってきて最初に立つ場所が今いる空間までつながっている通路だったため、接触することはなかったようだ。


「え、何こいつ。俺知らないんだけど!?」


 目の前を通り過ぎて行ったオーレスワイバーンを見て明らかに困惑した声色で兄が叫ぶ。

 そしてその声に気付いたのか、オーレスワイバーンが兄の方を気にするような動作をした。


「げっ」


 自身のことも攻撃対象としてロックオンされたことに気付いた兄が失敗したと言わんばかりに短く声を上げた。

 私的にはヘイトが分散されたので悪くなかったのだけど、まだ行動パターンを把握していない兄からすればもう少し様子を見ておきたかったのだろう。


「いや、これは別に悪くないのか? まあいい。アユ! これからどうすればいいんだ!」


 声を出してヘイトを稼ぐことは問題ないと判断したのか、少し距離が離れているため大きな声でこちらに判断を求めてきた。


 とりあえず、大きな声を出せば今以上にヘイトを稼いでしまうことはわかったので、なるべく大きな音を出さないようにフレンドチャットでやり取りするよう、兄に見えるようチャット画面を開くようジェスチャーをする。

 最初は何を指しているのかわからなかった様子の兄だったが数舜後に何を指しているのか理解したのか、手元で何科を操作し始めた。



ファルキン:すまん。気付いてなかった

ア   ユ:それはもういい。事故らなかったし問題ない

ファルキン:それでどうすればいいんだ?

ア   ユ:できれば倒したいから攻撃。動きはロックワイバーンとそう変わらないけど攻撃範囲は二回りかそれ以上に広いから注意

ファルキン:了解

ア   ユ:弱点つけるかわからないけど【看破】使って確認しておいて

ファルキン:りょ あとは何かあるか?

ア   ユ:話ながら戦うと無駄にヘイト稼ぎそうだし、聞き取れない可能性もあるから音声チャットでやり取り

ファルキン:それも了解。よかった思考入力でって言われないで、あれオフったままなんだよ



 結構前に掲示板で誤爆? してから掲示板と思考入力を禁止にされたとは聞いていたけど、まだその状態が続いていたのか。通りで掲示板内に兄らしき書き込みが見つからないと思った。


 兄のコメントを見てそんなことを考えながら、チャットの設定を音声入力から音声チャットに切り替える。


『こいつってロックの上位種?』

『たぶんそう』

『ロックワイバーンの段階ですげー強いと思ってたけど、こいつ以上じゃね? HP倍近くあるじゃん。というか、激怒状態とか何したんだよ』


 兄はそんなことを言いつつも、オーレスワイバーンの突進を躱しながら魔術系スキルによる攻撃をポンポン放っている。

 見た目的にあまり火力が出ている感じはしないけれど、それは私にも言えるし、単純に手数が増えればその分与えられるダメージは増えるわけだから問題はない。


『地雷当てたら怒った』

『あーあれか。ロックワイバーンにも爆弾石系は割とありだし、こいつもそうなのか』

『こっちの方が効果ある感じ』

『マジか。爆弾石とかほとんど残ってないぞ』


 ロックワイバーンに爆弾石って割と使われている戦法なのかな。まあ、ダメージはしょぼいけど、ダメージはちゃんと与えられるし余裕があれば持っていて損はないだろうから、所持している人が多いのかもしれない。


『私もほとんど残ってないから地道に攻撃。時間もないし』

『時間?』

『ログアウトまでの時間』

『マジか、って俺もねえわ』


 まあ、そうだよね。ほとんど同じタイミングでログインしたわけだし、ログイン制限はみんな一緒である以上、私と同じく兄も時間的な余裕はそれほどない。


『ちまちまやったところで時間もないし倒し切れるかも微妙。近接殺しっぽい感じだから近づきたくはないが仕方ない、一気にやるか』

『特殊行動とかは気にして』

『わかってる、よっ』


 兄はそういうと同時に突進後のオーレスワイバーンの懐まで一気に移動し、攻撃モーションに移った。


 兄の戦闘スタイルは避けタンクだから身軽に動くのは普通のことなのだけど、私と比べた時の身の熟しの差がひどい。

 オーレスワイバーンの突進も私と違って割と余裕そうに回避しているし、もっとAGIとか回避系のスキルを取った方がいいのだろうか。戦闘スタイルの差って言えばそうなのだけども。


「重撃拳、そいっ!!」


 アッパー気味に放った兄の拳はオーレスワイバーンの横っ腹に当たり、ドゴン、と重いもの同士がぶつかったような音を響かせた。




 ―――――

 [重撃拳]は重力属性の攻撃ではなく[重属性]の攻撃で、魔力を纏わせた通常よりも重い拳という意味。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る