第6話 周辺調査
地下の工房を確認した後、まだ見ていなかった部屋や細かい場所を含めハウスの確認も終わったので、ハウス周辺の森の中を見て回ることにした。決してスキルの熟練度が足りなくて設備が十全に使えないことで絶望したとかそれが原因ではない。
スキルの熟練度が足りなくて設備が十全に使えないのなら、熟練度を上げればいいだけなのだ。ただ、それをするには大量の素材が必要だし、少しでも早く熟練度を上げるためには簡単に作れるアイテムではなく、少し作るのが難しいアイテムを作った方がいい。そうなれば第1エリアや第2エリアで採取できる素材では物足りない。
特に2次スキルになっている【上級調合】や【上級料理】【上級裁縫】は、下級ポーションなどのすぐに作れるアイテム程度だとほとんど熟練度が上がらなくなっているから、第3エリアでとれる素材はほぼ必須である。
まあ、調合は数をこなせば何とかなる範囲だけど、必要とする素材のRaが高いアイテムの方が熟練度も上げやすいから、やっぱりこのあたりで採取できる素材を使った方がいいのだ。
そんな感じで、生産で使う素材を集めるついでにハウスの周辺を確認しているのだ。
周辺の森で素材を採取しながら地下にいった後に確認したことについて考える。
ハウスの2階の確認していなかった部屋は寝室になっていた。これと言ってめぼしいものはなかったのだけど、1つだけ看過できない点があった。
寝室に置かれていたベッドに触れた瞬間、リスポーンポイントを更新するかしないかの確認ウィンドウが出たのだ。まさかハウスをリスポーンポイントに設定できるとは思っていなかったのですごく驚いた。
ただ、リスポーンポイントの更新に関してまだする予定はない。
現段階で第3エリア内にリスポーンできるのはこのエリアで活動する分にはかなり有用なことではある。だけどリスポーンポイントを変更してしまうといくつか不都合な部分が出てきてしまう。
リスポーン地点として場所がいまいちということもあるけど、一番の問題なのは、他のエリアに移動するのに時間がかかるようになってしまうことだ。
更新しなければ、デスポーンで第2エリアのセントリウスに移動することができる。当然経験値や熟練度の減少というデメリットもあるけれど、それ以上にメリットがある。
今の段階では第3エリアにギルドは見つかっていない。そのため、第3エリア内にリスポーンポイントを設定してしまうと、ギルドを利用するために長距離を移動しなければならない。
それに作ったアイテムを売るにはギルドに行かなければいけないので、これが結構重要なところなのだ。
兄たちを通してアイテムを売り買いすることもできなくはないのだけど、それだって限界がある。ギルドに設置されている委託取引掲示板が使えないというのは、生産をメインにしているプレイヤーにとっては結構な痛手なのだ。
一応、僻地ハウスに対する温情なのか、それともすべてのハウスも同じようになっているのかはわからないけれど、ハウス拡張候補欄に転移石像や専用委託取引掲示板を設置するという項目があった。それさえあればリスポーンポイントをハウスに設定するのは問題なくなるし、アイテムを売り買いするためにギルドに一々行く必要もなくなる。
当然、設置するために費用や素材、一定以上のギルドランクが必要になるため、今すぐに設置ということはできない。
素材は現状どうにか用意できる範囲なので問題はないのだけど、必要なASがかなり高額なのとギルドランクの関係で結構な時間がかかりそうな気配はしている。
ギルドランクに関してはそろそろ上がりそうではあるのだけど、これだってギルドに行かなければどうすることもできないので、移動に時間がかかるようになってしまうのは面倒でしかない。
うん? おっと、こっちに何かが高速で近づいて来ている? 【感知】で出ているマップには赤い点で表示されているから敵性存在なのは確実。それと移動速度からしてプレイヤーということもなさそうだね。
「ギュアァアアァン!」
「フォレストスラッシュディアか」
目の前に現れたのは、2メートルを超える体躯と鋭く尖った大きな角を持つ鹿型のエネミーだった。
この鹿はいつも自分から目の前に飛び込んでくる好戦的なエネミーで結構面倒なのだよね。戦ったのは数回程度だけど、とにかく一気に距離を詰めてくるから気を抜いている時に来られると後手に回りやすい。
強さで言えばあの犬、フォレストシャドウウルフ1匹よりも強い。多分2匹同時にあの犬と戦うくらいの強さにはなると思う。とはいえ今では奇襲されない限りそこまで苦戦するような相手ではないので、焦るような相手ではない。
攻撃も大振りなものが多いし魔術を使ってくることもないので、攻撃を回避することはそこまで難しくはな……あ。
ちょっと訂正。
この巨体と巨大な角による攻撃は範囲が広いので回避するのは結構難しい。特に森の中だと動き回れる範囲が狭い分、うまく回避するのは難しいかもしれない。
「グォォウ!」
「くっ」
突進から角で突き上げつつ薙ぎ払いの攻撃範囲が今まで戦った鹿よりも一回りか二回りくらい広い。これまではギリギリでもそのまま躱すことができたのだけど、今回は無理だ、躱しきれない。
咄嗟にシャドウダイブを使い回避する。
できればこういった一気に距離を詰めてくる、一瞬のスキが致命傷になりかねない相手に、技後硬直があるシャドウダイブは使いたくなかったのだけど、下手に攻撃を食らうよりはましだ。
影の中から出る場所を吟味すれば、起き攻めみたいなことになることはないだろう。幸い森の中だから、出口となる影はたくさんある。
長く影の中にいると体勢を整えられてしまうのですぐに外に出なければならない。後ろ蹴りを警戒して少し離れた位置に出たところで鹿の後姿を確認する。
この鹿、他のやつより一回りくらいサイズが大きいのかも。記憶にある鹿のシルエットよりも明らかに大きい。それに今まで遭遇した鹿よりも攻撃範囲がだいぶ広かったし。
個体差。ということなのかそれともLVが今までの相手より高いのか。
突進の反動でまだ次の攻撃に移り切れていない鹿に対して【鑑定】を行う。それで表示されたLVは26。
うわ。今まで対峙したモブエネミーの中で過去一にLVが高い。でも私とのLV差が少ないのは結構厄介。
ジャイアントキリングの称号のせいで格下、私よりLVが下の相手だと与ダメージ20%減だからLVの近い格下って厄介以外の何物でもないのだ。
まあ、その分新しいエリアに行けるようになったときとか、BOSS相手には結構悪くない効果なのだけど。
しかもこの鹿、体躯が大きい分HPが多いからタフいのだよねぇ。まあ、好戦的なうえに体躯が大きい分攻撃が当てやすいから、あの犬よりは楽なのだけどね。
_____
フォレストスラッシュディアの見た目は、殺意高めな角の迷彩色ゼルネ○ス(かくとう)見た目はいいんだけどとにかく凶暴
この個体は体自体は通常より少し大きいくらいだけど、角が立派
ハウスからの各転移石造への移動は通常の街ー街間の移動よりもコストが高く設定されています。(今まで記載していませんでしたが、転移に必要なコストはASとMP)
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