第5話 なん…だと…?




 ルビーに先導されて螺旋階段を下りていく。1階を通りすぎそのままさらに下の階に向かう。


 別に行く場所が決まっているし場所もわかっているから先導してもらう必要はないのだけど、何やらルビーが張り切っているのでそのまま後についていく。


 私の前をちらちら確認しながら進んでいくルビーの様子が、何というか宝物を自慢しようとしているわんちゃんのように見えた。もしルビーにしっぽがついていたら結構な勢いで振っていたかもしれない。


 螺旋階段で地階まで下りた先は少し暗い空間になっていた。光源が螺旋階段の上にある窓からだけなので、階段の場所から少しでも離れるとぼんやり足元が確認できるくらいの暗さになる。


 そして階段を下りきった場所の正面には大きな両開きのドア。その左側には何か台のような物が設置されていて、その上に何やら半球状の置物が置かれていた。


「ここに触ってほしいです」


 そう言ってルビーはその置物のもとに移動し、その上に置かれているものを指した。


「ここはこのハウスの持ち主じゃないと入れないのです。これに触れることで、このドアが開くようになるのです」


 入るのに資格がいるタイプの部屋か。もし2階に行く前にこっちに来ていたら無駄足になっていたね。それに、ルビーが率先して先導してきていたのもこれの説明をするためだったからなのかも。


 しかしハウスの所有者以外が入れないとなると、中には結構な物があるのかもしれないね。

 錬金と調合の生産設備があることはほぼ確定しているけど、それ以外にも面白いものがありそうだね。置かれているのが錬金と調合の設備であれば薬品関連のアイテムを使うから、単純に施錠していただけかもしれないけど。


 このドアの奥に何があるのか、それを想像してちょっとわくわくしながら、ルビーの言うとおりその半球状の置物に触れた。するとドアからガチャリとどこからか、ドアのロックが外れたような音が聞こえた。


「ちょっと待っていて欲しいのです」


 私が動くよりも早くルビーがドアを少しだけ開けて部屋の中に入っていった。なぜと思うと同時に部屋の中から何かを動かしている音が聞こえてきたので、中で何をしているのかはすぐに察した。


 所有者しか入れなかったということはこれまで100年の間、ルビーも中に入れていなかったということだよね。人の動きがない地下室がどのくらい汚れるのかはわからないけど、物が劣化して壊れているとかはありそう。


「もう入っても大丈夫なのです」


 時間にして1分か2分待ったところでルビーが部屋の中から出てきた。それと同時に両開きのドアの片方を開けて、私を中に入るよう促してきた。

 ドアの向こう側を見ると、先にルビーが中に入ったこともあり、今いた所とは違い天井にぶら下がっている照明から光があふれ、部屋の中を明るく照らしていた。


「っと」


 ドアの先に進もうとしたところで部屋に入ってすぐの場所に2段ほど階段があったことに気づいて慌てて足を止める。


 地下の部屋は1階の工房の部屋よりは狭かったもののそれでも十分に広い空間だった。床と壁は見た目から石材で出来ているようで、地下ということもあって部屋の中の空気は結構ひんやりとしている。

 壁や床に使われている石材が少し黒味がかったマットな感じの表面だったため、部屋の中は明かりがあるにも関わらず少し暗い印象を受けた。


 そしてそんな中に、大きな生産設備が2つ鎮座していた。パッと見ただけでどちらがどの設備なのかすぐにわかる見た目だ。


 片方は調合の生産設備。

 調合をするための机に薬品や器具を収めるための棚が備え付けられており、机の上には調合に使うための道具がいくつも置かれている。机の上にはしっかりとした加熱器具のほかに、ビーカーやフラスコを加熱するためのアルコールランプのようなものも置かれている。

 よくある学校の理科室にあるようなものではなく、ファンタジー世界のちょっとこじんまりとした実験室というか研究室のごちゃっとした感じが、実に薬品扱っていますと言わんばかりの雰囲気を醸し出している。


 そしてもう片方は錬金の生産設備。

 調合の生産設備と同じようにファンタジーの世界観によく合ったらしい外見の設備。The・錬金といった感じの魔法陣が描かれた羊皮紙っぽいものが何枚も端に置かれているのも見えるし、ギルドに置かれている台だけのものに比べても相当道具が追加されている。一番の違いは錬金台の隣に鍋の様なものが置かれているところ。見た目からして錬金釜の類だと思う。

 でも、この前上がったばかりの【錬金術】には錬金釜に関する情報とかスキルが何もないけど、あれは普通に使えるのだろうか?


 見るからにらしい外見の設備に遠目で見るだけでは物足りなくなり、近づいて直接触って確認する。


 錬金台をなでる。ルビーが先に入って掃除をしたからか埃は一切積もっていなかった。台の表面はもともと住んでいた住民が使っていたこともあり、ところどころに小さな傷やへこみがあるのがわかる。


 使用感がありありと見てとれる錬金台だけど、私はこういうのが結構好きだ。

 新品の道具にあるつやつやぴかぴかした見た目も悪くはないのだけど、こういう古物ふるものやアンティーク品にある何というかこなれた感じの見た目の方が好きなのだよね。


 錬金台の隣にあった釜の中を覗き込んでみる。釜の中にはこれといったものは入っていなかった。

 錬金台の上にも調合の棚の中にも素材などの消費アイテムの類は一切ないみたいだから、前の住民がこのハウスから出ていくときに持って行ったのか処理していったのだろう。もしかしたら駄目になっていてルビーが片付けたのかもしれないけど。


 錬金台の見た目がギルドに置かれているものとだいぶ違うのだけど、設備のRANKの違いということなのかな。何か特殊な改造というか調整されているとか……ないよね?


 ちょっと不安になったので【鑑定】で錬金の生産設備を調べてみる。


 あ、うん。問題なさそう。設備のRANKが4。確かハウスの情報で裁縫も同じくRANK4だったよね。それと設備の追加効果が載っているけど、これはRANKが関係している……ぅん?!


 錬金台の詳細を確認していると、ふと最後の一文が目の中に飛び込んできた。


《※【錬金】スキルの熟練度が足りないため、設備の性能を完全に引き出すことができません》


 なん……だと……?


「どうしたです?」


 【鑑定】で出たウィンドウの一番下に注意書きされていた文章を読んで固まっている私の様子を見たルビーが私の顔を覗き込んでくる。

 少し心配そうに顔色を窺ってきていたので大丈夫だと相槌を打って、すぐに調合の生産設備を確認する。


《※【調合】スキルの熟練度が足りないため、設備の性能を完全に引き出すことができません》


 こっちもか。もしかしたら上にあった生産設備の中にも同じように制限がかかっているやつがあるかもしれない。


 確かに見た目からしてギルドに置かれていたやつと全然違うし、何か設備としての質が高そうな感じがしていたけど使用制限があるとは。

 とはいえ、今装備している特別な錬金版も装備条件が付いていたし、こういったゲームだと装備制限とか使用制限がついたものってよくあるから変なことではないよね。


 序盤で最強装備が手に入ってそのまま無双できるゲームもあるけれど、UWWOってそういうものではないし、こういう不相応な感じの装備とかを手に入れてそのまま使えるというのは、ちょっと違うよね。


 同じ結果が出ると思うけれど、一応錬金釜も【鑑定】しておく。


《※使用条件を満たしていないため、この設備は使用することができません》


 やっぱり、というかこれは制限じゃなくて使えないのかぁ。残念。




 ―――――

 生産設備の使用制限は、そのプレイヤーが使用できる最大の能力まで設備の性能がダウングレードされるものです。大は小を兼ねる性能?です。

 設備のRANKによって性能が制限されるのは既出情報です。ちょっとだけ関わったことのあるガルスのところに弟子入りしていたプレイヤー、もちもっちも当然知っています。アユは弟子云々のやり取りをさぼっているので、知らないままハウスを手に入れました。


 ようやくハウスを手に入れたことで、ようやくタイトルの引きこもりが回収されます。ストーリーの順番間違えた感をひしひしと感じていますが、これからはちゃんと? 引きこもります。まあ、割とアユが引きこもるときは引きこもるけど動くときは動く、アクティブな引きこもりなので、そのあたりの描写はあまりないと思いますが……



 ※ハウスの見取り図に関しては下に近況ノートのリンクを貼っておきます。気になる方はどうぞ。

 全体的に適当なので配置はこんな感じかぁ、くらいで受け止めていただけると助かります。

 ↓

https://kakuyomu.jp/users/Tofu-with-little-bittern/news/16817330658909733922

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